潮流 (No.109)

馬場錬成

2019.07.11

商標パロディはパクリか創作か

カリスマ知財先生のユニークな本


『知財の法律条文には存在意義があり、それの「理由付け」を理解することが弁理士試験合格の早道である』

 

このような独自の教授論を打ち出し、LEC東京リーガルマインドの専任講師として弁理士試験の受験生を指導したり、大学でも知財授業の教鞭をとるカリスマ知財先生の岡本智之弁理士が、このほど「商標パロディの権利」(アスパラ、電子書籍ならびにPOD書籍)というユニークな知財書を刊行した。

 

岡本弁理士の教える合格早道の「理由付け」とは、法律条文の制定趣旨、他の条文との関係、他法域との関係、法改正の歴史などをあげて論理的に条文の理由付けを示すことから理解・記憶させるという教授法であり、多くの受験生の支持を集めていると聞く。

 

その岡本弁理士が書いた「商標パロディの権利」の副タイトルに『“成功した”パロディは「芸術作品」であり「伝統文化」である』とある。確かに思わず吹き出しそうになったり、感心する商標パロディがある。

 

岡本弁理士は、これまで世に出て関心を集めたり紛争になったりした商標パロディの例を多数出しながら、成功している商標パロディは、オリジナル商標と同じように表現の自由の保障範囲であるとしている。

 

つまり、独創性の高い商標パロディは、独自の商標として登録させるべきではないかという意見をこの本で打ち出している。

 

内外の商標パロディを論じた文献と判例を多数引用しながら論述を展開しており、本格的な知財文献である。しかも論点を整理しているので読者の想念に自然と入り込み、書きぶりも平易で読みやすいので、あっという間に読了してしまった。

 

この本の刊行を紹介するとともに、最近話題となった「フランク三浦」事件の逆転勝訴の商標パロディ事件を題材にしながら話題を展開してみたい。

 

 

 

著者の岡本弁理士と愛犬エコ

高級時計ブランドとパロディブランドの紛争

スイスの高級時計「フランク・ミュラー」のパロディ商品「フランク三浦」を聞いたとき、これはうまいと思わずうなってしまった。大阪市内の株式会社ディンクスが腕時計のオリジナルブランドとして「フランク三浦」を商標登録し、製造販売を行っていた。

 

フランク・ミュラーとフランク三浦。どちらも人の名前だが、腕時計を販売しているという点では同じである。
フランク・ミュラーの時計は、軽く数十万円する時計がほとんどだが、一見するとよく雰囲気の似たフランク三浦の時計は、数千円のものが多い。

 

 

 FRANCK MULLER(フランク・ミュラー)のオフィシャルウェブサイトより転載 https://www.franckmuller-japan.com/

 

 

 

 

  
フランク三浦公式オンラインショップ
http://tensaitokeishi.jp/shopbrand/ct2/

ディンクス社は取引先に安心してもらうことを目的に2012年8月に「フランク三浦」を商標登録した
登録商標第5517482号)。
指定商品は第14類で、「時計、宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品、キーホルダー、身飾品」である。

これに対し「フランク・ミュラー」をブランドにして販売するエフエムティーエム ディストリビューション リミテッド社は、この商標登録が無効だとして特許庁に商標登録無効審判を請求した。


「フランク三浦」は無効と判断した特許庁
この無効審判に対し特許庁は、フランク・ミュラー側の主張を認めて「フランク三浦」の商標登録は無効であると判断した。

  判断した根拠を整理すると次のようになる。


 1.フランク・ミュラーとフランク三浦の商標は、外観において相違があるものの、
     称呼及び観念において類似し、しかも指定商品も類似するから両商標は類似する。
 2.フランク・ミュラーは時計について著名な商標であり、本件商標と類似する。
     時計はブランドが重視され、販売場所が共通するので、混同を生じるおそれのある商標に該当する。
 3.フランク三浦はパロディであることを認識しながらこの商標を使用し、模倣商品を製造販売しているので
     不正の目的をもって使用するものに該当する。

これに対しフランク三浦側は、無効審判を不服として知財高裁にこれを取り消す訴訟を提訴した。

 

これに対し知財高裁は次のような理由からフランク三浦の商標登録は有効であるとする逆転判決をくだした。
知財高裁の判断理由を整理すると次のようになる。

 

 1. 2つの商標の語感、語調が近似して紛らわしく、称呼において類似している。
      しかし、「フランク三浦」は日本人ないしは日本と関係を有する人物との観念が生じるので、
      両者は観念において大きく異なる。
 2. 商標の外観においては明確に区別できる。
 3. 指定商品において商標の称呼だけで出所が識別されるような実情は認められない。
      称呼による識別性が、外観及び観念による識別性を上回るともいえないから、出所混同を
      生ずるおそれはないので両商標は非類似である。
 4. 両商標の商品は、商品の取引者及び需要者は共通するが、時計は外観及び観念が重視されるから、
      需要者の普通の注意力をすれば、緊密な営業上の関係にあると誤信されるおそれがあるとはいえない。

 

知財高裁は、呼称については特許庁と同じように類似するが、フランク三浦は観念においては日本人もしくは日本と関係ある人物との観念を生じるので外国の高級時計ブランドであるフランク・ミュラーとは観念において大いに異なるとの理由をあげた。


パロディであっても創作を認めて商標登録も認めるべき
「フランク三浦」事件を注目していた筆者は、知財高裁の判断を知り、妥当な判断ではないかと思っていた。がしかし、商標権の研究者でない筆者は、その判断の根拠についてあやふやな気持ちがあった。

 

そうしているとき岡本弁理士の「商標パロディの権利」という文献に触れ、たちまち筆者の疑問は明快に解き明かされ、商標パロディのあり方について理解と知識が増え、しかも楽しかった。

 

著者である岡本弁理士は、「成功した商標パロディは高度な創作性を有する独創性の高い商標と評価することができる」としている。「商標パロディ」に関する主な裁判例を見ると、基本的には商標登録を認めるべきかどうかをめぐる争いが多いという。

 

岡本弁理士は、成功した「商標パロディ」は、オリジナル商標の保有者からの権利行使を受けないだけでなく、自らの商標パロディを第三者に模倣されないためにも商標登録を認めるべきとの主張をしている。

 

原稿を書くことを生業としてきた筆者の立場から見ても、人を感心させたり芸術的な価値や観念を与えるパロディ商標は、それだけで価値があると考えているので、岡本弁理士の主張を読んで大いに賛同した。 

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