コラム

AI(人工知能)産業革命の行方が急展開

先の本欄で、生成AIの技術進展が第3次産業革命を抜け出し、第4AI産業革命として位置づけられるのではないかと示唆した。
その行方を示すように、中国の生成AIのスタートアップ企業、ディープシーク(Deep Seek=深度求策、正式社名は、杭州深度求索人工智能基礎技術研究)が開発したアプリ「R1」の性能をめぐって、世界中で論議が広がっている。
中国メディアの報道などによると、同社の創業者は浙江大学出身の梁文鋒(40)氏で、AIの国際会議で8本の論文に関与し、天才少女と評判になった北京大修士課程(当時)の羅福莉(1995年生まれ)さんが、開発に貢献したと伝えられている。 

性能評価では肯定・否定に分かれる
先月末、中国の人民日報などのメディアが、Deep SeekについてアメリカのOpenAIChatGPTの性能を追い抜く勢いでありながら、開発コストは極めて低いと報道を始めた。
革命的な製品開発として、世界中を驚かせた。
これには世界中が評価を巡って、肯定と否定に分かれ、論争の輪はますます広がっている。
AI産業革命時代の米中の覇権を占うことにもつながっており、この論争はしばらく続くだろう。
発表当初、中国では開発者を英雄視するなどアメリカのOpenAIChatGPTに追いつき追い抜いたとの期待もあって、習政権も大きく喧伝していた。
中国は昨年の政府活動報告の中で産業育成策の中に「AIプラス」という政策を盛り込み、産業政策の中核としてAI利用を発展させる意気込みを見せていた。
中国のすごいところは、こうした政策課題を挙げると、取り組む組織・機関を明確に定め、期限を切って目標を達成させる政策遂行で実績を上げてきたことである。
知的財産制度の進展をつぶさに見てきた筆者は、その成果が短期間で日本を抜き去り、アメリカに追いついていった実績を知っているので、この政策提示には注目していた。

なぜ低コスト開発ができたのか
Deep Seekは、「R1」を低コストで開発できたのは、ChatGPTなどの利用可能なオープンソースとして公開されているAIモデルを活用したからだと説明している。
高い価格の先端半導体を使わないで開発したととれる発言だった。
これで、AI半導体製造で世界トップを走るアメリカのエヌヴィデア社の株価が暴落するなど技術競争の行方にも大きな波紋を広げている。
アメリカのマイクロソフトやメタなどIT業界のスタッフの中には、「低コスト開発手法は、市場を活性化する」と発言して、表向きは肯定する報道も出ている(202522日付け日本経済新聞)。
確かに低コストの開発は、AIサービスの利用料金を低下させる期待もある。
さらに企業などがAI使用を積極的に広げれば、クラウドやアプリの需要が増えて、プラットフォーマーの利益につながるとする思惑も出たようだ。
その一方で、マイクロソフトは、Deep Seekは非公開モデルを学習に使用している疑いもあるとの声明も出しており、米中の「AI戦争」の様相を見せている。
AIの開発は、先端半導体を開発してインターネット上のデータを大量に学習している。
AIモデルの学習するデータ量が、大きければ大きいほど性能が良くなる。
Deep Seekは、他社のAIモデルから抜き出したデータを活用することで新たなAIを開発したので、新たな半導体の利用は不要であり開発コストを削減できたと主張している。
また性能でもアメリカ勢を上回っているという。

安全保障問題に発展
欧州ではDeep Seekへの警戒感が広がっている。
イタリア政府は、Deep Seekに個人情報の取扱を説明するように求めたという報道も出ている。
生成AIを使用するとき、利用者名、生年月日、メールアドレス、電話番号、アップロードしたファイルやチャットの履歴、IPアドレスなどを収集できるため、個人や企業情報が流出することを危惧している。
Deep Seekが爆発的に広がっていくことを予想して先手を打とうとしているように見える。
アメリカのブルームバーグ通信によると、各国政府と取引のある企業、数百社がDeep Seekの生成AIの使用を制限したという(202522日付け、読売新聞)。
中国では以前から国民や企業に対し、国家情報法で国の情報工作への協力を義務づけており、政府から特定の利用者に関するデータ提出を求められた場合、拒否できない。
Deep Seekを利用すれば、個人、企業、国家などの多くの情報が中国のサーバーに保存されることを予想して、安全保障の観点からDeep Seekの使用の広がりに警戒する動きが予想以上のスピードで世界に広がっている。
突然浮上した中国のDeep Seekは、コスト・性能の可否を巡る論争だけでなく、国家の安全保障まで考慮する問題になってきた。

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