コラム

最高裁が特許権の属地主義で新判断

ドワンゴ事件の最高裁判決
インターネット画面にユーザーのPCから書き込みができ、それがリアルタイムで画面に反映される操作がある。
使ったことはないが、見て参考にしていることはあった。
あの操作が特許権で囲まれているとは、寡聞にして知らなかった。
先ごろ最高裁第2小法廷(草野耕一裁判長)は、サーバーが海外にあっても、その技術を使用するユーザーが国内(つまり日本)にある時は、日本の法律が適用されるとして特許権を認め、被告側の上告を棄却した。
これにより、操作活用していた企業に特許侵害として約1億1100万円の賠償金支払いを命じた、二審・知財高裁判決が確定した。
インターネットは簡単に国をまたいで流通する情報通信だが、筆者が実際にそれを体験したのは1990年代の前半、インターネットが日本でもやっと普及するころだった。
最初、ひそかに広がったのが、海外のサーバーが発信しているアダルトものの画像閲覧だった。
当時、日本国内では「見せてはならない画面」が、外国のサーバーからの配信にアクセスすると見ることができた。
しかし操作するスキルがないと簡単にはつながらなかった。
これは革命であった。
「見ること」の競争が「オタク」から一般の人へと瞬く間に広がった。
それは同時にインターネット操作を習熟させる機会になり、文化の発展がこういうことから始まることを実感して、驚いたことがあった。

 


株式会社ドワンゴ公式ホームページ(https://dwango.co.jp/)

 

「ドワンゴ事件」の概略
問題となったのは、ユーザーが自分のPCから打ち込んだコメントがリアルタイムで画面上に流れるように表示される機能であり、これは動画配信サイト「ニコニコ動画」を運営している株式会社ドワンゴが特許を取得しているものだった。
この機能を使って動画サイトを運営していたのがアメリカに本社のある「FC2,Inc.」(FC2)である。
ドワンゴは、自社と同じ機能のサービスを展開しているFC2は自社の特許を侵害している、として東京地裁に日本でのサービスの差し止めを求める一方、損害賠償請求訴訟を起こしていた。
ドワンゴがFC2を相手取って東京地裁に訴えた訴訟は2件ある。
2件とも、FC2のサーバーが海外にあるので、FC2側は日本の特許権の侵害にはならないと主張した。
訴訟の主要な争点は、動画のサーバーが海外にある場合に特許権侵害が認められるかどうかを争ったもので、ほぼ同じ時期に並行して審理が進んだ。
一審判決は「FC2らの装置及びプログラムはドワンゴの特許発明の技術的範囲に属しない」(東京地裁平成30年9月19日判決)と「FC2らのシステムはドワンゴの特許発明の技術的範囲に属するが、特許発明を実施する行為が日本国内で行われていると認められない」(東京地裁令和4年3月24日判決)として、ドワンゴ側の請求は棄却された。
これを不服としてドワンゴ側は知財高裁に控訴した。

属地主義とは何か
特許権は、どこの国でもその国ごとの法制度によって付与されている。
特許の審査や効力などはその国の法律で定められ、その効力はその国の領域内だけで認められる。
これは特許権の「属地主義の原則」と呼ばれており、特許の世界の大原則とされてきた。
この大原則を知財高裁は、次のように判示した。
①特許発明の実施行為の一部が形式的に日本国外で行われていた場合であっても、
 問題となる提供行為が実質的かつ全体的にみて日本国の領域内で行われたものと評価し得る。
②これは日本国特許法にいう「電気通信回線を通じた提供」に該当し、特許権侵害となる。

デジタル時代の属地主義の解釈
いま世界は、時空を超えて瞬時にネット通信がつながり、国境と国の明確な区別がないままになっている。
ネットを通じた情報提供行為が、全て日本国内で完結することを必要とするなら、その発明を実施しようとする企業や人たちは、サーバー等の設備を国外に移転して運用し、簡単に特許権侵害の責任を免れることになってしまう。
知財高裁は、「このような潜脱的な行為を許容することは、著しく正義に反するというべきである」と判断した。
さらに「特許発明の実施行為がすべて日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される」とした。
つまり全体的にみると、日本国の領域内で行われた行為と判断したものだ。
これはサーバーが海外にあるかどうかなど外形的な問題ではなく、技術的、経済的な観点から現代のネット社会に対応した判断を示したものであり妥当な判断だった。
国外にサーバーなどのホストシステムを置けば、属地主義から逃れられるかどうかを巡って司法で争われたケースは、中国や韓国でも出ており、いずれも司法判断は属地主義を覆すものだったという。
「総務省によると、2021年に国境を越えて流通したデータ量は、2017年比で2.7倍に拡大している(日本経済新聞2025年3月4日付け朝刊)」という。
ネット社会の急激な拡大と今回の特許権利を巡る司法判断を受けて、特許法の改正につながるのは必至である。

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