コラム

商標『共存協定』の有効性の認定基準の探求

馮超 森康晃 王茜
泰和泰(北京)法律事務所

現在、引用商標の権利者と『共存協定/同意書』の締結を選択することによって
既存の障害を排除するという方法は
ますます多くの商標出願人が商標権を取得する手段の一つとなっている。
しかし、近年の司法審査の実践において、
商標『共存協定/同意書』に対する裁判所の態度は厳しくなっており、
すべての『共存協定/同意書』が裁判所に受け入れられるとは限らない。
本文では、関連する判例と結びつけて、
商標『共存協定/同意書』の有効性に対する現在の裁判所の認定基準を分析する。

一、『共存協定/同意書』に関する現行法令及び関連規定の規定

中国の現在の法律及び司法解釈においては、
商標の『共存協定/同意書』の効力について明確な規定はない。
現在、商標『共存協定/同意書』に関する関連指南は、
『北京市高級人民法院商標権利付与・
権利確認行政事件審理指南』(2019年4月24日)(以下、「北高審理指南」という)の
第15.10-15.12に存在しており、具体的には以下のとおりである:

15.10【共存協定の属性】
係争商標と引用商標とが類似商標を構成するか否かを判断する場合、
共存協定は混同を排除する際に使う初歩的な証拠となる。

15.11【共存協定の形式要件】
引用商標の権利者は書面により係争商標の登録出願に同意しなければならず、
係争商標の具体的な情報を明確に記載しなければならないが、
条件又は期限を付した共存協定は一般的には採用されない。
共存協定は真実、合法、有効でなければならず、
かつ国家利益、社会公共利益、第三者の合法的権益を損なうなどの状況が存在しないものとし、
そうでなければ採用されない。

15.12【共存協定の法的効果】
引用商標が係争商標の商標標識と同一又は基本的に同一であり、
かつ同一又は類似の商品に使用されている場合、
共存協定のみを根拠として、係争商標の登録出願を許可することはできない。
引用商標と係争商標の商標標識とが類似し、
同一又は類似の商品に使用され、引用商標の権利者が共存協定を発行した場合、
係争商標と引用商標との共存が
関連公衆に商品の出所を混同させることを証明する他の証拠がない場合には、
係争商標と引用商標とは類似商標を構成しないと認定することができる。
引用商標の権利者が共存協定を発行した後、
係争商標と引用商標とが類似商標に該当することを理由として、
不登録異議申立書を提出した場合、又は無効宣告を請求した場合、これを支持しない。
ただし、当該協定書が法により無効である場合、又は取り消された場合を除く。

上述した北高審理指南に基づき本文では、関連する判例と結びつけて
商標『共存協定/同意書』の有効性に対する現在の裁判所の認定基準を分析する予定である。

二、裁判所が最近『共存協定/同意書』を受入した事例

1.(2022)京行終1318号※1 上訴人中華人民共和国国家知識産権局と
  被上訴人邦德高性能3D科技私的有限責任公司との商標出願拒絶再審行政紛争事件

出願商標標識 引用商標標識

【審判要旨】
出願商標と引用商標とが類似商標に該当するか否か、
両者の共存が関連公衆の混同、誤認を招くか否かについて、
引用商標の登録人は直接利害関係人として他の関連公衆より関心が高い。
したがって出願商標と引用商標との共存は類似する商品又は役務において
関連公衆の混同、誤認を招くか否かを判断する際には、
引用商標登録人と出願商標出願人とが合意した商標共存協定を考慮しなければならない。
一方、出願商標標識と引用商標標識とに差異がある場合には、
商標共存協定は混同の可能性を排除するための参考要素とすることができる。
他方で、商標専用権の私権属性も考慮すべきであり、
商標共存協定は
引用商標登録人がその有する商標専用権の一部の権利空間に対する譲渡と処分を具体化しており、
意思自治の原則に基づき、
商標登録人がその商標専用権を自由に処分することを許可すべきである。

出願商標が「BOND」で構成される文字商標であること、
引用商標は「BONDTECH」文字と図形からなる図と文字の組合せ商標である。
出願商標「BOND」と引用商標の文字部分「BONDTECH」には
いずれも「BOND」が含まれているが、
引用商標には文字部分「TECH」と図形部分が含まれており、
二者には構成要素、文字の構成、全体的な外観等の面で一定の違いがある。
邦德公司が提出した商標共存同意声明は引用商標の権利者が発行したものであり、
法律、行政法規に違反しておらず、
出願商標と引用商標との共存が関連公衆の権益を十分に損なうことを示す証拠もない場合には、
当該商標共存同意声明を混同の可能性を排除する有力な証拠として考慮し、
出願商標と引用商標が同一
又は類似の商品に共存することは関連公衆の混同を招きにくいと認定しなければならない。
したがって、出願商標と引用商標は同一又は類似の商品に使用される類似商標に該当せず、
出願商標の出願は商標法第三十一条の規定に違反していない。

2.(2021)京行終5696号※2 上訴人世嘉股份有限公司と
  被上訴人中華人民共和国国家知識産権局との商標出願拒絶再審行政紛争事件

出願商標標識 引用商標標識

【審判要旨】
商標権は民事財産権であり、意思自治の原則に基づき、重大な公共利益に関わる場合を除き、
商標権者は自らの意志で権利を処分することができる。
引用商標の権利者が発行した『同意書』は、先行の登録商標専用権に対する処分を体現しており、
『同意書』が法律、行政法規に違反していることを示す証拠がまだない場合、
又は関連する公衆の利益を十分に害する場合には、
引用商標の権利者の引用商標に対する処分及び係争商標の登録を認可する意思表示を
十分に尊重しなければならない。
また、商標登録出願において、混同の可能性についての商標法第三十一条の認定は、
商標授権行政機関又は裁判所が関連公衆の立場から下した判断であり、
『同意書』は引用商標の先行権利に対する制限であり、市場の商業の実情により合致している。
したがって、係争商標と引用商標とに一定の相違がある場合には、
『同意書』は通常、混同の可能性を排除する有力な証拠であり、
商標法第三十一条を適用して
係争商標の登録許可の可否を審査・判断する際に考慮する要素とすることができる。

本件において、係争商標はアルファベットの「SONIC RUNNERS ADVENTURE」及び図からなり、
引用商標2はアルファベットの「SONiC」であり、
2件の商標のアルファベットの構成は比較的近いが、
商標全体に一定の相違があることから、引用商標2の権利者が『同意書』を発行しており、
かつ、世嘉公司が二審の訴訟において、
カミロ・ガントがマイクロソフト社を代表して
当該同意書に署名する権利があることを示す関連証拠を提出していることを考えると、
当該『同意書』が当事者の真実の意思表示であり、尊重すべきであることを十分に示すことができる。
係争商標と引用商標2との共存が
関連公衆に商品の出所を混同させるのに十分であることを証明する他の証拠がない場合には、
係争商標と引用商標2とは類似商標を構成しないと認定することができる。

3.(2020)京行終6239号※3 上訴人中華人民共和国国家知識産権局と
  被上訴人諾維信有限公司との商標出願拒絶再審行政紛争事件

出願商標標識 引用商標標識

【審判要旨】
出願商標と引用商標とが類似商標に該当するか否か、
両者の共存が関連公衆の混同、誤認を招くか否かについて、
引用商標の登録人は直接利害関係人として他の関連公衆より関心が高い。
したがって、出願商標と引用商標との共存は類似する商品又は役務において、
関連公衆の混同、誤認を招くか否かを判断する際には、
引用商標登録人と出願商標出願人とが合意した商標共存協定を考慮しなければならない。
一方、出願商標標識と引用商標標識とに差異がある場合には、
商標共存協定は混同の可能性を排除するための参考要素とすることができる。
他方で、商標専用権の私権属性も考慮すべきであり、
商標共存協定は引用商標登録人が
その有する商標専用権の一部の権利空間に対する譲渡と処分を具体化しており、
意思自治の原則に基づき、商標登録人がその商標専用権を自由に処分することを許可すべきである。

本件において、出願商標は「INNOVA」からなる文字商標であり、
引用商標2は「INOVA」で構成される文字商標であり、
引用商標3は「INOVA DIAGNOSTICS」で構成される文字商標である。
出願商標と引用商標2、3にはいずれもアルファベット「I」、「NOVA」が含まれているが、
引用商標2には「N」が含まれ、引用商標3には「DIAGNOSTICS」が含まれており、
二者の文字構成及び全体的視覚効果に一定の違いがある。
諾維信有限公司が商標評審段階で提出した商標共存同意書は公証認証手続を経ており、
当該商標共存同意書は引用商標2、3の権利者が発行したものであり、
法律、行政法規に違反しておらず、
出願商標と引用商標2、3との共存が関連公衆の権益を十分に損なうことを示す証拠もない場合には、
当該商標共存同意書を混同の可能性を排除する有力な証拠として考慮し、
出願商標と引用商標2、3とが同一
又は類似の商品において共存することは関連公衆の混同を招きにくいと認定しなければならない。
したがって、出願商標と引用商標2、3は同一又は類似の商品に使用される類似商標に該当せず、
原審判決はこれを正しく認定しており、国家知識産権局の関連上訴理由は成立せず、当院はこれを支持しない。

4.(2020)京行終4818号※4 上訴人貝親管理(上海)有限公司と
  被上訴人中華人民共和国国家知識産権局との商標出願拒絶再審行政紛争事件

出願商標標識 引用商標標識

【審判要旨】
出願商標と引用商標とが類似商標に該当するか否か、
両者の共存が関連公衆の混同、誤認を招くか否かについて、
引用商標の登録人は直接利害関係人として他の関連公衆より関心が高い。
したがって、出願商標と引用商標との共存は類似する商品又は役務において
関連公衆の混同、誤認を招くか否かを判断する際には、
引用商標登録人と出願商標出願人とが合意した商標共存協定を考慮しなければならない。
一方、出願商標標識と引用商標標識とに差異がある場合には、
商標共存協定は混同の可能性を排除するための参考要素とすることができる。
他方で、商標専用権の私権属性も考慮すべきであり、
商標共存協定は引用商標登録人が
その有する商標専用権の一部の権利空間に対する譲渡と処分を具体化しており、
意思自治の原則に基づき、商標登録人がその商標専用権を自由に処分することを許可すべきである。

本件において、出願商標はアルファベット「Ssence」で構成される文字商標であり、
引用商標1はアルファベット「SYENCE」、漢字「水之妍」で構成される文字商標である。
出願商標と引用商標1の文字部分は1文字しか違わないが、
引用商標1には漢字部分があるので、両者の間には一定の違いがある。
貝親公司が当院に提出した共存同意書は公証を経たため、当院は当該同意書の真実性を確認した。
当該共存同意書は引用商標1の権利者である水之妍公司が発行したものであり、
法律、行政法規に違反しておらず、
出願商標と引用商標1との共存が関連公衆の権益を十分に損なうことを示す証拠もない場合には、
共存同意書を混同の可能性を排除する有力な証拠として考慮し、
出願商標と引用商標1とが同一
又は類似の商品に共存することは関連公衆の混同を招きにくいと認定しなければならない。
したがって、出願商標と引用商標とは同一又は類似の商品に使用される類似商標を構成しておらず、
貝親公司の関連する上訴理由が成立し、当院はこれを支持する。

三、裁判所が『共存協定/同意書』を受入した際の考慮要点

1.『共存協定/同意書』は法律、行政法規に違反せず、
  かつ関連する公衆の利益を害することなく、十分に尊重されるべきである

裁判所が複数の判決書で述べているように、
商標専用権は民事財産権であり、私権属性を持っている。
意味自治の原則に基づき、重大な公共利益に関わる場合を除き、
商標権者は自らの意志で権利を処分することができる。
商標『共存協議書/同意書』は、
引用商標登録者がその有する商標専用権の一部の権利空間に対する譲渡と処分を具体化しており、
商標登録者がその商標専用権を自由に処分することを許可しなければならない。
したがって、『共存協定/同意書』が法律、行政法規に違反していることを示す証拠がない場合、
又は関連公衆利益を十分に損なう場合には、
引用商標の権利者の引用商標に対する処分
及び係争商標の登録を認可する意思表示を十分に尊重しなければならない。

2.出願商標と引用商標と区別することができ、関連公衆の混同を招くことがない

通常、商標の登録出願は
必ず『中華人民共和国商標法』第30条の規定を満たさなければならず、
すなわち、他人が同一種類の商品又は類似商品について
既に登録した又は初歩査定された商標と同一又は類似してはならない。
上記の判例において、
裁判所はいずれも出願商標と引用商標の標識自体に一定の相違があると認定しており
両者はまだ区別できるという前提の下、
引用商標の権利者が発行した『共存協定/同意書』を尊重している。

『共存協定/同意書』が存在する場合であっても、
関係公衆の混同を招かないことを前提にしなければならない。
『商標法』の立法目的は、商標権利者の利益を保護する以外に、
消費者の利益を保護することにもあり、商標権利者が自身の権利を放棄又は譲渡することによって
関連公衆が混同、誤認することが必然的になくなるわけではない。
したがって、商標出願人の商標が全体的な外観、文字の構成、
顕著な識別部分において引用商標と区別され、
関連公衆に混同・誤認を生じさせない場合には
裁判所は、引用商標の権利者が既に『共存協定/同意書』を発行していることを踏まえて、
出願商標と引用商標とが同一又は類似を構成すると認定することは基本的にない。

四、結論

現在、『共存協定/同意書』に対する裁判所の態度は保守的になっているが、
『共存協定/同意書』が完全に機能しなくなったわけではない。
商標拒絶査定不服再審及びその後の行政訴訟手続において、
『共存協定/同意書』は
依然として当事者が選択することができる先行の障害を排除する方法の一つである。
最近の裁判所の裁判の観点を総合すると、
商標標識に一定の差異があり、消費者の混同を招く可能性が低い場合には、
当事者は依然として『共存協定/同意書』の方式で試みて
出願商標の登録を獲得することができる。

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※1:(2022)京行終1318号行政判決書
※2:(2021)京行終5696号行政判決書
※3:(2020)京行終6239号行政判決書
※4:(2020)京行終4818号行政判決書

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