コラム

権利侵害者のベールをはがす
権利者は商標譲渡後の無効宣告をどのように処理・対応すべきか

馮超 森康晃 王婉怡
泰和泰(北京)法律事務所

登録商標の無効宣告制度とは商標行政機関が商標法の規定に違反し、
登録されるべきでない既登録商標について、法的手続でその無効を宣告する制度をいう。
登録商標の無効は絶対事由違反による無効と、相対事由違反による無効の2種類に分けることができる。
そのうち相対的な事由が比較的よく見られ、
主に馳名商標の侵害、代理代表関係の違反、地理的表示の誤表示、
商標の同一又は類似及び先行権利の侵害等の事由が含まれ譲渡された商標については
前述の事由に基づく無効宣告は一般的な無効宣告と変わらない。
ただし、注意しなければならないのは
商標無効宣告の被出願人は商標の原登録人でなければならないということである。
したがって、譲渡された商標が絶対的な理由に基づいて
悪意をもって登録されたことについて無効宣告を提起する場合には、
商標の原登録人の悪意の証拠を重点的に掘り起こさなければならない。
特に登録から5年が経過している商標については、この点にもっと注意を払うべきである。
原登録人の悪意の証拠が比較的弱い場合、
譲受人の譲渡記録及び商標登録状況、原登録人の関連会社の登録記録等の方式から
突破することができる。

一、第44条における悪意のある登録に関する法律の沿革の回顧
譲渡された商標は登録年数が比較的長い傾向があるため、
一部の係争商標事件は既に5年の期限を超えており
法律の不遡及の原則に基づき、係争商標の無効宣告の根拠となる法律も異なっている。
したがって、中国の商標法における悪意のある登録に関する歴史的沿革を振り返って
重点の整理しようとする。

 

段階 法律 内容 分析
初めの段階:
絶対的理由と相対的理由が併存する
1993年
『商標法』
第27条
既に登録されている商標が本法第8条の規定に違反している場合、又は欺瞞的手段又はその他の不正な手段で登録を得た場合は、商標局は当該登録商標を取り消す。その他の組織又は個人は、商標評審委員会に当該登録商標の取消裁定を請求することができる。 『商標法実施細則』第25条:
『商標法』第二十条にいう「欺瞞手段又はその他の不正な手段で登録を得た」行為について、より具体的に解析されている:
(1)事実を虚構・隠蔽し、又は出願書類及び関連書類を偽造して登録した場合;
(2)信義誠実の原則に違反して、複製、模倣、翻訳等の方法により、他人の既に公衆に周知している商標を登録した場合;
(3)代理人が許可なく自己の名義で被代理人の商標を登録した場合;
(4)登録のために他人の合法的な先行権利を侵害した場合;
(5)その他の不正手段で登録を得た場合。
確立の段階:
絶対的理由に分類し、特定の民事権益を損なう状況を排除する
2001年
『商標法』
第41条第1項
既に登録されている商標が本法第10条、第11条及び第12条の規定に違反している場合、又は欺瞞的手段又はその他の不正な手段で登録を得た場合は、商標局は当該登録商標を取り消す。その他の組織又は個人は、商標評審委員会に当該登録商標の取消裁定を請求することができる。 2008年最高人民法院「常州誠聯」商標事件は『商標法』を明確にした
第41条第1項「欺瞞的手段又はその他の不正な手段で登録を得た」という状況は商標登録取消の絶対的事由にかかわるものであり、これらの行為が損害を与えるのは公共の秩序もしくは公共の利益、又は商標登録管理の秩序を妨げる行為である。したがって、同項では、商標局は職権により商標登録を直接取消すことができ、その他の組織又は個人は商標評審委員会に当該登録商標の取消裁定を請求することができ、かつ時間の制限は定めていない
また、広州恵氏宝貝母子用品有限公司等と国家工商行政管理総局商標評審委員会との二審行政判決書※1また、2001年商標法第41条第1項について、係争商標がその他の不正手段で登録を得た状況に該当するか否かを審査・判断する場合には、その商標は欺瞞手段以外の商標登録秩序を乱し、公共の利益を損ない、公共資源を不当に占用し、又はその他の方法で不当な利益を得る手段に該当するか否かを考慮しなければならないことを更に明確にした。特定の民事権益のみを損ねる場合には、2001年商標法第41条第2項、第3項及び商標法のその他の関連規定を適用して審査・判断を行わなければならない。
発展の段階:
典型的な状況がしだいに明らかになってきた
2013年
『商標法』
第44条第1項
既に登録されている商標が本法第10条、第11条及び第12条の規定に違反している場合、又は欺瞞手段又はその他の不正手段で登録を得た場合は、商標局は当該登録商標の無効を宣告する。その他の組織又は個人は、商標評審委員会に当該登録商標の無効宣告を請求することができる。 2013年『商標法』は、商評委、人民法院による商標悪意登録取締りの審理実践に基づいて改正されたものであり、実際には『商標法』第7条信義誠実の原則が含まれている。
『商標法』
2019年改正
第44条第1項
既に登録されている商標が第4条、第10条、第11条、第12条、第19条第4項の規定に違反している場合、又は欺瞞的な手段または他の不正な手段で登録を得た場合。これらの状況について、商標局は当該登録商標の無効を宣告できる。その他の組織又は個人は、商標評審委員会に当該登録商標の無効宣告を請求することができる。 『商標法』2019年改正は悪意のある登録をさらに規制し、第44条第1項に規定を追加し、使用を目的としない商標登録出願、商標代理機構による違法出願又は委託を受けた商標登録出願を一緒に無効宣告手続に入れる。
明確化の段階:
悪意出願の具体的状況を立法により明確にする
2023年
『中華人民共和国商標法改正草案(意見募集稿)』
登録された商標は、第15条、第16条、第17条、第21条、第22条第1項及び第2項、第26条の規定に違反する場合、国務院知的財産権行政部門は当該登録商標の無効を宣告する。...本条第1項に掲げる状況がある場合、その他の自然人、法人又は非法人組織は国務院知的財産権行政部門に当該登録商標の無効宣告を請求することができる。

2023年意見募集稿「欺瞞又はその他の不正な手段で商標登録を出願した」状況を悪意による登録出願の範囲に含め、法により明確に制定される。新たに追加された第22条に次の規定がある:出願人は、悪意による商標登録出願をしてはならない。以下の場合が含まれる:
(一)使用を目的とせず、商標登録を大量に出願し、商標登録の秩序を乱した場合、
(二)欺瞞又はその他の不正な手段で商標登録出願の場合

 

二、原登録人の悪意のある登録に対する考慮
先に述べたように、
譲渡された商標が絶対的な理由における悪意に基づいて登録されたことについて
無効宣告を提起する際には、商標の原登録人の悪意を重点的に分析すべきである。
原登録人自身の悪意を考慮するには、以下の点から評価する必要がある。
まず、登録出願した商標の数と類別を含め
原登録人が他人の商標を大量に買い占めているか否かを考慮する必要がある。
原登録者が大量の商標を出願し、又は各類別に関わる場合には
公共資源を不正に占用する等の悪意のある出願が存在すると認定される可能性がある。
次に、抜け駆け出願の件数と割合を総合的に考慮する前提で
抜け駆け出願された商標の顕著性と知名度も考慮する必要があり、
もし原登録人が顕著性と知名度を有する商標を頻繁に抜け駆け出願すれば、
公共の利益を損ない、悪意の出願を構成する可能性がある。
また、原登録人自身の事業範囲や通常のニーズも評価する必要がある。
もし、原登録人の経営範囲が抜け駆け出願した商標と無関係である場合
又はその正常な業務において当該商標に対する合理的な需要が存在しない場合には、
その抜け駆け出願の動機を疑うことができる。
通常、原登録人の悪意出願件数の基準は2桁以上でなければならない。
例えば、第31988554号商標「Supreme Box」の無効宣告請求裁定書において、
本案では、出願人は複数の種類で合わせて50件余りの商標を出願しており
そのうちのほとんどの商標は「Supreme」から構成されており
「Supreme Tyo」、「Supreme Box」、「SUPREME BOT」及び「Supreme BOY」を含む。
これらの商標は、出願人の商標「Supreme」とよく似ている。
出願人の商標「Supreme」の顕著性と知名度を考慮すると、
被出願人の行為は正常な生産経営の必要を明らかに超えており、
他人の著名商標を複製、盗作、模倣する明らかな故意がある。※2
また、注意しなければならないのは
大規模な悪意出願の証拠は係争商標の登録出願時に発生しなければならないことであり※3
係争商標の登録出願時を指し示すことができない証拠は採用されない。
しかしながら、登録者が悪意を持って申請すれば件数が足りないものの
抜け駆け登録された商標は一定の顕著性と知名度を有しており、
無効段階における重点は数量そのものに限られない。
筆者チームが代理した商標第50119521号「turnitin svip」、
商標第42196062号「turnitin svip」、商標第43231307号「ukturnitinsciei」の
無効宣告請求裁定書において※4、国家知的財産権局は
「出願人の商標「TURNITIN」が強い独創性を有していることを考慮すると、
係争商標に出願人の商標「TURNITIN」が完全に含まれており、偶然の一致とは言い難い。
また、明らかになった事実2から分かるように
被出願人は出願人の先に知られている商標「TURNITIN」をめぐり、
第9、35、38、41、42類の商品及び役務において
複数の商標「TURNITINSVIP」を登録している。
また、被出願人は他の有名文献検索システムを模倣した商標「CPCIEISVIP」も登録した。
被出願人は8件の商標を出願登録しただけであるが、
ほとんどが他人の特定分野における強い独創性を有する著名商標の盗用、模倣である。」と判断した。
これにより、被出願人の行為は信義誠実の原則に違反し
正常な商標登録管理秩序を乱し、公平な競争の市場秩序を損なうことから、
前述の係争商標の登録はすでに
『商標法』第44条第1項にいう「その他の不正な手段で登録を得た」状況に該当すると認定された。
以上のように、譲渡された商標について
絶対的理由における悪意のある登録に基づいて無効宣告を行う場合には、
上記の要素を総合的に考慮して、原登録人の悪意の状況を評価する必要がある。

三、その他の突破を試みる角度
先に述べたように、原登録人の悪意証拠が相対的に弱い場合には
譲受人の譲渡記録及び商標登録状況、原登録人の関連会社の登録記録、
ひいては原登録人の商標登録段階の瑕疵を収集するなどの方式から突破を試みることができる。

1. 譲受人の譲渡記録及び商標登録状況を総合的に考慮する
原登録人の悪意の証拠が十分に明らかでない場合、
譲受人の譲渡記録及び商標登録状況を合わせて全体的に考慮してみることができる。
海塩凱凌玫電器科技有限公司等と国家知識産権局との二審行政判決書事件において※5
泰安岱岳公司は複数の種類で30件余りの商標を出願登録しており、
凱凌玫公司は譲渡又は自ら登録出願することにより40件余りの商標を保有している。
その中には、
広東華碩公司の第11類商品における先行の権利標識と類似する複数の商標が含まれており、
例えば、「ASUS」、「華碩」、「AISUO華碩」などである。
また、「欧派」、「梦菲亚」、「凱西蒙」、「欧派迈科斯」、「欧派至尊」など
他人の先行の権利標識と類似する複数の商標も含まれており、
そのうちの一部の商標は行政手続により無効宣告されている。
凱凌玫公司の上述の行為は広東華碩公司の合法的な民事権益を損なうだけでなく、
商標法の信義誠実の基本原則にも違反し、正常な商標登録管理秩序を乱し、
公平な競争の市場環境に損害を与えた。
以上のように、凱凌玫公司の商標登録行為は、
2001年商標法第41条第1項に規定された「その他の不正な手段で登録を得た」状況に該当し、
係争商標については無効宣告を与えるべきである。
広州恵氏宝貝母子用品有限公司等と国家工商行政管理総局商標評審委員会との事件において※6
係争商標の原登録人である盧国基は、
恵氏有限公司(ワイス)が母子食品分野において高い知名度を有する商標
「Wyeth」及び「恵氏」と完全に同一の商標を数件出願して登録した。
その後、広州恵氏公司は自身の名義でこれらの商標を譲り受け、
恵氏有限公司の所在する母子食品業界と密接な関連性を有する
母子用品等の商品に実際に使用した。
また、広州恵氏公司は、第3、5、10、16等の複数の類別の商品において
複数の商標「Wyeth及び図」及び「恵氏Wyeth」を出願登録している。
これにより、
北高は盧国基と広州恵氏公司の上記行為が他人の有名ブランドの力を借りて不正競争を行い、
又は不法利益をむさぼる意図を有しており、
正常な商標登録管理秩序と公平で秩序ある市場競争秩序を乱していると認定した係争商標については
無効宣告をしなければならない。
上記事件は原無効宣告の被申立人が提起したものであるが、
判決の過程において、法院は商標譲渡及びその後の譲受人の登録状況を総合的に考慮した。
筆者は、このやり方は、原権利者の権益を守り
悪意のある登録行為を取り締まることに対する司法機関の態度を反映していると考えている。
各当事者の状況を総合的に考慮することで、
司法段階では公平と正義を確保し
商標権益が効果的に保護されることを確保する傾向が強まっている。

2. 原登録人の関連会社の登録記録についての考慮
原登録人自身の悪意の証拠を検索するほか、原登録人の関連会社の登録状況も深掘りする。
複数の関連会社が相次いで侵害商標を登録していることが判明した場合、
又はこれらの会社と原登録人との間に実質的な関係があることが判明した場合には、
原登録人が関連会社を通じて法律上の制限を回避している可能性がある。
馬暁麗らと国家工商行政管理総局商標評審委員会との事件において※7
藍秀公司は係争商標の原出願登録人であり、
その後、当該商標を馬暁麗に譲渡し、馬暁麗から明治良品公司に譲渡した。
藍秀公司は、2006年に設立された韓亜生物科技公司の完全子会社であり、
韓亜生物科技公司には雅詩生物制品公司和中海化粧品公司などの完全子会社を傘下に置いている。
馬暁麗は韓亜生物科技公司及びその関連会社から
係争商標を含む20件の商標を取得しており、
これらの商標は韓亜生物科技公司及びその関連会社が登録取得したものであり、
そのうち「ALOVIVI」、「RUAMRUAM」、「PORETOL」等の商標は一定の知名度を有している。
係争商標のほかに、明治良品公司の法定代表者である馬暁麗は
藍秀公司及びその関連会社から化粧品等の商品に指定されて使用される
「PITARISWEAT」、「RUAMRUAM」、「PORETOL」等の商標を譲り受けた。
藍秀公司及びその関連会社は、
これらの先行商標の指定使用と同一の商品類別において、
上述の先行商標と同一の商標を複数登録しており、その行為は正当とは言い難い。
2001年商標法第41条第1項に規定された「その他の不正な手段で登録を得た」状況に該当する。

3. 原登録人の商標登録段階における瑕疵の検索
係争商標が欺瞞又はその他の不正な手段で登録を得たか否かを判断するには、
商標の原登録人が事実を虚構し、又は故意に真実の状況を隠蔽する方式で
偽造、変造した関連書類を提出して商標登録を取得したか否かを考慮する必要がある。
デルタソファー有限公司、広東愛米高家具有限公司北滘卡利亚分公司と
国家工商行政管理総局商標評審委員会との事件で※8
原審手続において商標局のファイル業務専用印を押印した証拠は
係争商標が出願時に提出した『商標登録申請書』、『商標代理委託書』
及び主体証明書類に表示された会社名、住所地等の情報がいずれも実際の状況と一致せず、
かつ『商標登録申請書』及び『商標代理委託書』に
申請人の法定代表者の署名及び会社の実印がないため、
係争商標の出願はデルタ公司の真実の意思表示に基づいているとは認定できない。
譲渡段階の手続き書類にも大きな瑕疵がある。※9
これによると、
係争商標の登録出願は2001年商標法第41条第1項の規定にいう
「欺瞞的手段又はその他の不正な手段で登録を得た」状況に該当し、
最終的に無効と宣告された。

四、まとめ

権利者は、譲渡された登録商標に直面する際に、
その登録期間が長く、証拠発掘が難しいため、対応に力不足になることが多い。
しかし、権利侵害者は
そのために前述の登録商標を使用して権利侵害行為を行うことを
はばかることなく行っている。
このような状況下においても、権利侵害行為を断固として取り締まるとともに
上述の方式によって突破を図ることを試みなければならず、
ひいては将来的には『意見募集稿』に基づき
馳名商標の認定を通じて商標移転を求めることができ※10
これにより自身の合法的権益を保護し、さらなる損失を回避すると筆者は考えている。

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※1:北京市高級人民法院(2017)京行終487号
※2:第31988554号「Supreme Box」商標無効宣告請求裁定書について商評字[2021]第0000384689号
※3:北京市高級人民法院(2017)京行終3142号
※4:第50119521号「turnitin svip」商標無効宣告請求裁定書について商評字[2023]第0000257825号
   第42196062号「turnitin svip」商標無効宣告請求裁定書について商評字[2023]第0000150305号
   第43231307号「ukturnitinsciei」商標無効宣告請求裁定書について商評字[2023]第0000150303号
※5:北京市高級人民法院(2021)京行終5249号
※6:北京市高級人民法院(2017)京行終487号
※7:(2019)京行終2508号
※8:北京市高級人民法院(2017)京行終1093号
※9:愛米高公司は、蒙佳円公司から譲り受けて係争商標を取得しており、
  その権利は保護されるべきであると主張した。
  しかし、愛米高公司が提出した落款の日付が
  2009年7月15日の『授権書』、2009年7月21日の英文授権書及び『合意書』であり、
  2011年4月28日に商標局に提出した『譲渡出願/登録商標出願書』に示された会社名は
  いずれも卡利亜股份公司であり、
  卡利亜股份公司は2008年7月29日に卡利亜有限公司に名称を変更し、
  2010年5月18日にデルタ公司に名称を変更しており、上記証拠の内容には相互に矛盾があり、
  書式も慣例に合致しておらず、係争商標譲渡行為の真実性を証明することが困難である。
※10:『意見募集稿』は、商標の移転を提起することができる3つの状況、
   即ち、馳名条項、代理代表及び利害関係の抜け駆け出願条項、
   一定の影響のある商標を抜け駆け出願する条項の違反を規定している。

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