商標取消事件における部品及び内部部材の使用について
商標登録を維持することができるか
馮超 森康晃 張夢伊
中国の『商標法』第四十九条には、
登録商標が3年間連続して使用されていない場合、
如何なる単位又は個人も商標局に当該登録商標の取消を申請することができると規定されている。
当該規定は主に、
商標登録者がその登録商標を積極的に、真実に、合法的に使用することを促し、
商標資源の遊休、行政資源の浪費を防止するためである。
3年連続不使用商標取消事件における「商標使用」について、関連法律では次のように規定される:
『商標審査審理指南』の第十七章第5.2条:
▶商標の使用とは、商標の商業使用をいう。
商標を商品、商品の包装又は容器及び商品の取引文書に使用し、
又は商標を広告宣伝、展示及びその他の商業活動に使用し、商品の出所を識別する行為を含む。
▶商標登録者が提供した商標使用証拠については、
その市場主体の種類、実際の経営形式、商標登録状況を踏まえて、
その商標を真実、公開、適法に使用しているか否かを総合的に判断しなければならない。
▶商標登録者は、指定された商品に登録商標を使用しなければならない。
商標登録者が指定された商品に登録商標を使用する場合、
当該商品と類似する商品における登録は維持することができる。
商標登録者が指定商品以外の類似商品に登録商標を使用することは、
その登録商標の使用とみなすことができない。
▶係争商標が実際に使用される商品は
『類似商品及び役務区分表』における規範的な商品名称に該当しないが、
係争商標の指定商品と名称だけが異なり、本質的に同一商品に該当する場合、
又は実際に使用する商品が指定商品の下位概念に該当する場合、
指定商品における使用を構成すると認定することができる。
『北京市高級人民法院商標権利付与・権利確定行政事件審理指南』において:
▶19.4条
次に掲げる状況のいずれかに該当する場合において、
当事者が商標登録の維持を主張するときは、これを支持しない:
(1)指定された使用範囲外の類似商品又は役務にのみ係争商標を使用する場合、
(2)係争商標を使用しているが、商品、役務の出所を区別する役割を果たしていない場合、
(3)係争商標の登録を維持するために象徴的に使用する場合。
▶19.9条
係争商標が指定商品において使用を構成する場合、
当該商品と類似するその他の指定商品における登録を維持することができる。
『最高人民法院による商標の権利付与・権利確定行政事件審理における
若干の問題に関する意見』第20条:
▶人民法院は、3年間連続して使用してない登録商標の取消に関わる行政事件を審理する際に、
商標法の関連規定の立法精神に基づき、
当該行為が実際の使用を構成するか否かを正確に判断しなければならない。
実際の商業経営において、自社のブランドを保護するために
商標登録者はその生産、販売する製品以外に、
同時に部品、内部部材、周辺製品などの商品についても商標を登録することがよくある。
このような状況は工業、電子類商品に多く見られ、
例えば第7類機械類商品、第9類電子商品等である。
ところが商標登録者が普通に製品を販売しているが、
部品、内部部材等の商品に対して直接に契約締結、支払、領収書発行等の商業行為を行っていない場合には、
商標取消事件において商標の登録を維持することができるかについては、
司法実務における判例を通じて絶えず明確にする必要がある。
(2019)京行終7158号国家知識産権局等と北京衝撃波電子有限責任公司との
商標取消再審二審行政紛争事件
本件の係争商標は、
第9類の「測定機器、測定器具、集積回路、眼鏡」商品項目に指定されている。
商標評審段階において、商評委は、
北京衝撃波電子有限責任公司が提出した証拠は「スピーカー」商品における
その使用を証明するだけであり、
係争商標の「集積回路」商品が指定期間内に商業的な意味で
使用されたことを証明することはできないと判断した。
北京衝撃波電子有限責任公司は、審判裁定を不服として北京知識産権法院に提訴した。
一審段階において、北京知識産権法院は
北京衝撃波電子有限責任公司が行政段階及び訴訟段階で提出した複数の証拠は、
相互に裏付けられて完全な証拠チェーンを形成し、
係争商標が指定期間中に指定商品において商業使用されたことを証明することができると判断したので、
係争決定を取り消す判決を下した。
その後、国家知識産権局はこれを不服として、北京市高級人民法院に上訴した。
北京市高級人民法院は、二審判決において、まず事件証拠を総括した。
「係争商標が指定商品の集積回路に使用されており、
当該集積回路が「紅色恋人」型スピーカーの内部構成部品であることを証明することができる。
スピーカーという商品自体の性質から、
スピーカーが商品全体として販売される場合には、集積回路もスピーカーの商品部品として、
必然的に一緒に販売されることになり、これはスピーカーの商品性質及び取引慣習に合致する」。
また、次のような論評もある:
内部の構成部品である集積回路の商標は、消費者に一目で識別されにくいが、
衝撃波電子公司は使用説明書、宣伝パンフレット及び製品のウェブページの紹介に
いずれも「iHome集積回路」関連の文字を印刷しており、
係争商標が指定した集積回路を特別に表記し、広告宣伝及び展示に用いて、
係争商標が商品の出所を識別する役割を果たすようにしている。
「商品の出所を識別する役割を果たす」ことは、
商標取消事件における商標使用の有無判定の本質である。
本件において、スピーカーと集積回路は全体と部分の関係であるが
本件の商標登録者はスピーカー製品を販売すると同時に
関連する宣伝紹介においても、集積回路の文字を明確に表示している。
法院は単に「集積回路」がスピーカー製品全体に依存しているからといって
商標登録者が「集積回路」商品に使用していないと直接認定しているわけではないことがわかった。
(2021)京行終7490号国家知識産権局等と成都旭光光電技術有限責任公司との
商標取消再審二審行政紛争事件
本件の係争商標は、
第9類の「探知機、ボイラー制御機器、火器用照準望遠鏡、光電管、センサー、
工業操作遠隔制御電気機器、高圧防爆配電装置、工業用放射設備、火災警報器、警報器」商品項目に
指定されている。
商標評審段階において、
商評委は成都旭光光電技術有限責任公司が提出した証拠は
係争商標の査定商品における使用を証明するには不十分であると判断し、
係争商標の取消を裁定した。
成都旭光光電技術有限責任公司は審判裁定を不服として、北京知識産権法院に提訴した。
一審段階において北京知識産権法院は、
係争商標が実際に使用される商品のハードウェア構成には
探知ユニットと警報ユニットが含まれるため、
係争商標が「警報器、探知機」商品において真実かつ有効に使用されたと
認定することができると判断した。
その後、国家知識産権局はこれを不服として、北京市高級人民法院に上訴した。
北京市高級人民法院は二審判決において事件の証拠が相互に裏付けられると認定し、
旭光公司が指定期間内に
係争商標を表示した動力電池ボックス安全モニタリング保護システム商品を販売し、
かつ当該商品に探知ユニットと警報ユニットを備えていることを証明することができる。
したがって、本件証拠を総合的に考慮すると
旭光公司が係争商標に対して真実の使用意図を有し、
指定期間内に係争商標を査定された「センサー、警報器、探知機」商品において
有効な商業使用を行ったと認定することができる。
実際の商業経営の中で多くの製品は単一に販売することができなくて
その技術、性質の違いによって、
多くの製品は複数の機能、複数の細分化された製品の集合によって1つのシステム製品になる。
本件において、係争商標が使用されているのは、
そのような複雑なシステム製品である。
法院は本件判決において
製品のハードウェアにすでに探知ユニット及び警報ユニットが
含まれていることを詳細に分析し
その他の証拠を総合して
商標登録者に「係争商標について真実の使用意図がある」と認定し
商品の「警報器」及び「探知器」の登録を維持した。
(2018)京73行初7941号北京永安世達科貿有限公司と国家工商行政管理総局商標評審委員会との
商標取消再審一審行政紛争事件
本件の係争商標は
第9類の「コンピュータソフトウェア(収録済み)、マイクロプロセッサ、カウンタ、
出勤機、遠隔操作機器、工業操作遠隔操作電気機器、電子盗難防止装置」商品項目に指定されている。
商標評審段階において商評委は
広州東望電子科技有限公司が提出した証拠は
「コンピュータソフトウェア(収録済み))、マイクロプロセッサ」の査定商品における
係争商標の使用を証明できると判断したので、
前記商品における係争商標の登録を維持する決定を下した。
北京永安世達科貿有限公司は審判裁定を不服として、
北京知識産権法院に提訴した。
北京知識産権法院は一審判決において
まず、「3年連続使用停止」取消制度の立法意図は商標資源を活性化し、
遊休商標を整理することにあり、取消は手段であって目的ではない」と明確にした。
そして北京永安世達科貿有限公司は、
係争商標の使用製品が指定された
「コンピュータソフトウェア(録画済み)、マイクロプロセッサ」商品ではないと主張しているが、
広州東望電子科技有限公司の製品構造図及び対応する設備を合わせると、
ビルの自動制御システムにはソフトウェアが含まれており、
デジタルコントローラ等の部品はデータの取得及び処理、
管理及び制御の機能を発揮することがわかるが
マイクロプロセッサは同様に演算処理及び制御の機能を発揮する部品であるため
係争証拠により、広州東望電子科技有限公司が
「コンピュータソフトウェア(収録済み)、マイクロプロセッサ」商品に
係争商標を使用していることを証明することができると認定した。
本件が前述の2つの事件と異なるのは
前述の2つの事件はいずれもハードウエア面での部品の検討であるのに対し
本件はソフトウエア面における商標の使用と係争であることである。
本件商標登録者が実際に使用した製品は「ビル自動制御システム」であり
このシステムには「コンピュータソフトウェア」が含まれており
同時に「マイクロプロセッサ」もその機能を発揮する部品の1つである。
法院は判決を下す際に製品の機能及び構成状況を十分に考慮し、
商標登録者の権益を保護し「取消は手段であって、目的ではない」ことを裏付けた。
(2018)京行終4595号国家工商行政管理総局商標評審委員会等と徐少華等との
商標取消再審二審行政紛争事件
本件の係争商標は
第9類の「燃料計、水道メーター、計量器、測定装置、電力量計、
スマートカード(集積回路カード)、ガスメーター、光通信設備」商品項目に指定されている。
商標評審段階において商評委は
第三者である上海星空自動化儀表有限公司が提出した証拠に示された
実際の使用商品と係争商標の指定商品である「スマートカード(集積回路カード)」とは
同一又は類似していないが、
関連性を考慮して係争商標の登録を維持すると判断した。
徐少華は審判裁定を不服として北京知識産権法院に提訴した。
一審段階において北京知識産権法院は、
上海星空自動化儀表有限公司が提出した証拠はいずれも、
指定期間内に係争商標が「スマートカード(集積回路カード)」商品において
公開、真実かつ合法的に使用されたことを証明するには不十分であると判断した。
その後、国家知識産権局はこれを不服として北京市高級人民法院に上訴した。
北京市高級人民法院は、
二審判決において上海星空自動化儀表有限公司が提出した証拠について
次のように論評している:
「星空公司が提出した製品宣伝広告ページ及び製品取扱説明書によると
スマートICカード計量計流量制御システムにはスマートICカードが含まれているが、
スマートICカードプリペイド式計量計流量システムは計量計であり、
その製品機能は流量を計測・制御することであり、
スマートICカードは料金のチャージ、プリペイドなどの補助的な役割を果たす」。
最後に北京市高級人民法院は
「スマートICカードはプリペイド式計量計流量制御システムの一部であり、
星空公司が上述のスマートICカードが
単独で流通分野で取引できることを証明する証拠を提出していない場合には、
スマートICカード計量計流量制御システムの広告宣伝だけでは、
関連公衆が係争商標を通じて
スマートICカード商品と商品提供者との間のつながりを構築することができず、
すなわち、スマートICカード商品に指定使用された係争商標は
商品の出所を識別する役割を果たすことができないため、
上述の使用行為は、
スマートICカード商品における係争商標の商標使用とみなすべきではない」と認定した。
司法実践における事例でわかるように
商品全体に使用されるすべての部品、内部部材は登録を維持することができるわけではない。
本件は、その典型的な事例である。
法院は判決において、
商標登録者の製品「スマートICカード計量計流量制御システム」には
「スマートICカード」が含まれているが、
この2つの商品の主な機能は一致しておらず、
また、係争商標が「スマートICカード」に単独で使用されている宣伝又は紹介もないので、
係争商標が「スマートICカード」にも商品の出所を識別する役割を果たすと
認定することができないことを明確に指摘した。
このように、法院はそのような事件を審理する際に非常に厳格であることがわかる。
ここで部品、内部部材等の商品に対する取消事件において、
係争商標が商品の出所を判断する役割を有するか否かを
判断する法院の考慮ポイントをまとめてみる:
1. 部品、内部部材商品は必然的に製品全体と一緒に販売されるか否か。
商品の性質及び取引習慣により
部品、内部部材商品が必然的に製品全体と一緒に販売される場合にのみ、
消費者は部品、内部部材商品と製品自体とを「結び付けた関連関係」を構築することができる。
消費者は、製品全体に使用されている係争商標を見て初めて
製品を構成する部品、内部部材商品を連想する。
このとき係争商標も消費者が部品、内部部材の商品の出所を判断するのに
用いられる可能性がある。
2. 宣伝紹介資料にも部品、内部部材商品の紹介や展示があるか否か。
商標登録者が製品を販売する際に部品、内部部材についても
宣伝、紹介を行うことにより、
消費者は製品を購入する際に、
同時に商標登録者が生産し使用する部品、内部部材も購入したことを知ることができる。
このような部品、内部部材に対する紹介及び展示は
消費者が主観的に部品、内部部材と製品全体との間に関係を構築するのに協力するだけでなく、
商標登録者自身の係争商標に対する真の使用意図を同時に記録することもできる。
3. 部品、内部部材商品の機能が製品全体の機能と一致しているか否か、
又は製品全体の中核機能を担っているか否か
部品、内部部材商品の機能が製品全体の機能と一致していない場合、
又は部品、内部部材商品が製品全体において補助的な機能しか担っていない場合、
消費者は製品を購入又は使用する際に、
当該部品、内部部材を無視する可能性が高く、
当該部品、内部部材と商標登録者との自然なつながりを構築することも難しい。
さらに、消費者は係争商標に直面するときに、
この部品、内部部材の出所を識別することが難しくなる。
上記の事例と分析を総合して、
商標登録者が部品、内部部材、周辺製品等の商品においても
商標を登録しているのであれば、
できるだけ部品、内部部材にもその登録商標を表記するように注意すべきであることを提案する。
商業経営においても、
それらの部品、内部部材を製品の説明書、パンフレット等の資料に加え、
消費者がこれらの部品、内部部材を同時に購入したことを容易に知ることができるように注意し、
消費者と製品全体及びその登録商標との関係を構築しなければならない。
これにより、登録商標が取り消されるリスクを低減することができる。