コラム

国家を持たない原子力潜水艦との戦い

コラムの掲載も34報になった。
日々のニュース、過去の経験そして自分の心情と題材を求めるに当たり、執筆エネルギーに大きな差がある事を改めて認識している。
その源は、読者への伝達欲求だったり自己思考の整理欲求だったりと色々だが、最も高レベルエネルギーを与えてくれるのが怒りである。
対象は国際政治もさることながら、使命感よりも自己利益が優先されているようで“コスパ最悪”に感じる我が国の政治家達になる。
もっともそれは彼らの雇い主である我々の選挙結果で自業自得でもあるのだが。

日本の国際的な存在感や競争力の低下が指摘されるようになるまで後手後手を踏んだ政治家たちへの辛辣なコメントは、書き始めはどうあれ何とか持論で締めくくれるだろう。
ただ、怒りが先行して罵詈雑言に発展する嫌いがある事、時に無神経に他者の思想を傷つける可能性がある事を考えるとどうしても敬遠しがちになる。

次に高エネルギーを与えてくれる対象のひとつは、圧倒的に不平等な条件下で理不尽な戦いを仕掛ける者達に対する怒りだろうか。
そこで今回はそれを取り上げてみたい。

子供の頃私が忌み嫌ったのが、自分だけ安全地帯に身を置いて他者を攻撃する行為である。
例えば、庭先に繋がれた犬に石を投げつけたり棒切れでいたずらしたりする行為がその典型だろうか。
いたずら小僧がやりがちとはいえ、自分が攻撃されない確信の上で相手を攻めるような事がとても許せず、それをめぐり親友と大喧嘩したこともある。

昨今こんな私の前に、時を超え規模とテクノロジーの鎧をまとって現れているのが相次ぐランサムウェア(Ransom=身代金とSoftware=ソフトウェアの造語)のニュースである。
企業や病院のコンピューターにウイルスとして入り込み、データ類を暗号に変えた上で復元の為の身代金を要求するもので、既に直接的または間接的に不都合を被った方も多いはず。
ニチレイ物流サービスが攻撃を受け業務に支障をきたした案件がニュースを賑わせたのはつい最近の事である。
ほとんどのサイバー攻撃の場合、攻める方の実態は解明されず、どこかの国家絡みだとか、国際連携のシンジケートレベルだとか、出された犯行声明などから推測は出来ても特定・反撃は困難である。

企業知財の場に身を置いてきた私の中に、より生々しく、腹立たしい記憶として残っているのが米国のNPEとの特許戦争である。
NPEとはNon Practicing Entity(実業の無い主体)の略で、特許だけを持ち、狙いとする企業に特許侵害を申し立て、和解金の獲得を主目的とる連中の事である。
我々は当初、彼らをパテントトロール(トロールとは北欧発祥の怪物)、つまり特許怪物と蔑んだが、彼らからすれば立派なビジネスモデルという事になるのかもしれない。

特許侵害を理由に差し止めや損害賠償を申し立てる事自体は通常のビジネス範疇である。
これが同業者間の戦いであれば、特許侵害を訴えられた側にも通常有効な防衛手段がある。
保有特許によるカウンター攻撃である。
勿論攻められた側が攻撃に使える特許を持っている事が前提になるが攻撃側も無傷ではいられない。
圧倒的に優位であっても、骨を断つには肉を切られる程度の覚悟は要る為、攻められる側にも所謂ディールの余地は残る形になる。

NPEからの攻撃は、前記ふたつの事例と同類ではあるが、より直接的には、かわぐちかいじ氏原作の『沈黙の艦隊』(核兵器搭載の原子力潜水艦を独立国として世界に大胆な要求を受け入れさせようとする物語)に例えた方が分かり易い。
いたずら小僧と犬の場合、犬の拘束が解かれた途端10倍返しが待っているし、ランサムウェアの場合、相手の実態に潜り込めれば壊滅的ダメージを与え得るだろう。
NPEからの攻撃は、相手の実態(原潜)はそれなりに分かるものの実業(国家)を持たないので反撃対象(国家)が無いのである。

私は特許の世界で100対0の戦力構図はあり得ないとの認識で戦ってきた。
攻撃してきた主体が直接競合相手ではなく反撃が難しい場合、つまり一見こちらの特許が全く無価値に見えるような状況でも、実態のある事業者さえあれば、その取引相手企業等への攻撃をちらつかせる事で攻撃主体を退ける戦術にも繋げて来た。

ところが上記のような間接的戦術も取り得ないNPEとの戦いは、これ以上ない不平等条件下のものだと種々の講演・講義で喧伝して来た。
戦略的な動きとしては、何らかの法解釈的制限を課して貰うべく、「米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の首席判事」等に折をみては面会し窮状を訴えた。
その後の権利行使の制約の強化には多少の貢献があったが、未だに悩まされている業界、企業も多いと認識している。

それでは、NPEとの戦いに対抗手段は無いのか?
まずは、理不尽な要求には徹底抗戦する事であろう。
交渉や裁判を長期化させる事で相手を経済的に疲弊させてこちらの有利な条件で決着させる戦術が王道である。これは世間に「組みし難し」と知らしめ後続のNPEに警告を送るものでもある。
簡単な和解より高くつく事も多く、それでも戦い抜く強い意志(近視眼的な損得勘定に耐える胆力)と資本力、そして何よりも使える手段を総動員できる能力が要る。
昨今ではNPEも投資家という資本力を背後に持つことが多く、容易な戦術で無い事も覚悟しなければならない様だ。

『沈黙の艦隊』の構図から考えると、反撃対象の国家がないならばピンポイントではあっても原潜を無力化する戦術が残っていそうに見えるだろうか。
NPEとの戦いにおいては、相手の原告適格性、特許取得過程の不適切行為等がこれに当たりそうだが、これらは恐らく王道の徹底抗戦戦術の中で網羅され尽くすはずである。

私は既にNPEに対して何が出来るだろうかと眠れない夜を苦しむ立場ではなくなった。
こんな私が素晴らしい提言のないままこのコラムを書いた理由はひとつ。
自分が発案出来なかった戦略、戦術をどなたかからご教示頂ければ有難い。

fbシェア xポスト

Contact

まずはお気軽にお問合せください

受付時間:平日9:00〜17:00 03-5281-5511 03-5281-5511
お問い合わせフォーム