コラム

3Dプリンターと魂

私はまがりなりにも自動車会社でお世話になり、車と言う移動手段を愛している以上その価値についての考えは全く変わらない。
ただ、科学技術の指数関数的進歩に触れた第2報を引き合いに出すまでもなく、ほぼ人類の想像を絶する速度で進化する日常を見るにつけ、自動車を必要としない物理的なトランスポーテーションの究極の姿と、人の魂の問題を夢想する事がある。

今でこそ粛々と社会実装が進みつつあるが、一時的に爆発的話題をさらった3Dプリンターを思い起こして欲しい。
玩具から家庭用グッツ、産業機器から今や家までを設計通りにプリンター技術で作っている。
素材となる物質を揃えて置くことで、設計された化学情報をもとにハードな部分を作り上げるものである。
不可能な部分も沢山あるだろうがそれらも克服される将来はちかいだろう。

この延長にライフサイエンスを重ねてみると何が見えるのか。
言うまでもなく人を始めとした生命体は全て化学物質で出来ている。
表現しようもない複雑さは伴うにしても我々が小学校から習い始めたシンプルな分子構造を皮切りに、その詳細がやっと解明されたものまで、無限と言う表現に値するデーターで構成されている。

もし一方(仮にA地点とする)に人間を構成するすべての化学物質とこれをつかって有機的な構造物を作れる装置(言わば3Dプリンターのようなもの)を用意し、他方(仮にB地点とする)でスーパーCT状の装置を使って、人の構成に必要な全ての情報を過不足なく読む事が出来れば、情報の転送をする事で、A地点にB地点の人を瞬時に作る(つまり移動させる)事は出来ないのか?
スーパーCTのデーターは正確に読まれるので、脳の老化などにより末梢神経系に及ぼす後天的な特徴さえ全て移せる事になる。
東京で7時55分のCT操作だけでニューヨークの朝8時のアポに本人を出現させる事ができるのか、ここまでは多分にドラえもんの世界かも。

ただ、スーパーコンピューターで万年単位でかかる計算が数日レベルで完了する能力が期待されている量子コンピューターや、もうすぐ人類を超える英知を持つと予想されているAIにより今は非現実的に見えるドラえもんの世界が可能になったら何が残るのか。
同じ人物が同時に存在するわけにはいかないので、上記の流れで行けば、Bからは人を消してAに同一人物を存在させる事になる。
その時クローズアップするのが「魂」の存在である。
全く同じ素材の構造体が出来ると仮定したときに脳の機能は同じと想像は出来るが、魂はどうなるのか。
科学的には魂は脳の働きでしかないとの説も聞いたことはあるが、その真偽はいかに。
市井で良く使われる「魂の叫び」「魂が震える」「三つ子の魂百まで」から仏教的な「入魂供養」「入魂式」など我々の周りには常に何らかの魂が飛び交っている。
しかも洋の東西を問わず有史以来であろう。
瞬間移動の研究が進むか否かはともかく、科学で魂なるものの実態が明らかになった時、人類はどんな活動や選択をするのか。
科学者が全てを知りたがるのは素晴らしい事だし、多分野で、多くの犠牲を払いながら我々に福音をもたらしてくれている事には心から敬意を払いたい。
一方、私たちの心のどこかには、わからないまま残しておいて欲しい事があるのも正直なところであろう。
ここで一言、「謎のまま残したい事」と「そこまで知りたくない事」とは本質的に違うのは
ご承知の通り。
そこまで知りたくない事とは、妻や夫の本音、上司や部下の本音、親子の本音等。
因みに私はかつて、グループ構成員が全ての本音をまず出し合いお互いをよく認識した上で、チームビルディングをし直すことによって組織力を上げる、と言うコンサルによる研修を受けた事がある。
顔かたちの好みや、においの好き嫌いまでテーブルに乗せる手法には全く賛同できず、「妻にでさえ言ってしまったら修復不能なことも有るのに全く賛同できない手法論だ」と反論した事があった。
今もその研修がどこかで続けられているのなら私の理解不足であったのだろうが。

日常的には、そんな卑近な本音の暴露や秘匿に悩む私達だからこそ時には時間をかけて考えてみてはどうだろうか?
あなたなら何を「未知のまま残したい」ですか。
生命科学、宇宙の摂理、死界の存在や異次元への入口の有無等々。
本来人類が踏み込むべきではない領域との境界線が見えてくるかも。

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