北京市企業データ知的財産権
『業務指導(試行)』と新展開
馮超 森康晃 陸益凡
泰和泰(北京)法律事務所
データ財産権制度はデータ要素を起点とし、データ財産権登記制度の確立を発展の第一歩とする。
2022年12月19日に『中共中央 国務院によるデータ基礎制度の構築により
データ要素の役割をより良く発揮することに関する意見』(以下「データ二十条」という)は、
データ財産権制度の構築をめぐって「データ財産権登記の新方式を研究」を打ち出し、
中国のデータ財産権保護の発展方向を明確にした。
2022年11月国家知識産権局は
北京市、上海市、江蘇省、浙江省、福建省、山東省、広東省、深セン市など
8つの省・市でデータ知的財産権業務の試行を展開した後、
深セン市はまず、2022年11月29日に
データ知的財産権登記情報化システムである「データ知的財産権登記システム」をリリースし、
その後、中国初の「データ知的財産権登記証書」を発行した。
同時期にこの背景に基づき、北京市も試行都市として
制度建設や登記実践などの方面から模索を展開し、
2023年5月12日北京市知識産権局が『北京市データ知的財産権登記管理弁法(試行)』を発表し、
データ知的財産権登記の対象、内容及び関連手続きを規範化し、
北京市知的財産権保護センター情報プラットフォーム
及び北京国際ビッグデータ取引所等の機関を通じて、
データ財産権の登記実践及びデータ要素の取引流通を実施した。
1年近くの試行を経て、北京市は立法の面での改善と規則の確立を続け、
財産権登記においても深化し、
さらには北京インターネット法院、北京国際ビッグデータ取引所などの機関と共同で、
データ知的財産権登記、取引流通、紛争解決、プラットフォーム建設、人材育成などの
多分野の協同協力の構築を模索している。
最近発表された『北京市企業データ知的財産権業務指導(試行)』を基に、
北京がデータ基礎制度先行区として
この1年間にデータ知的財産権試行業務において得られた
新たな進展及び目に見える新たな特徴を概観し、
企業がそのデータ財産権資産化業務の構築・推進においての参考に供する。
- 『北京市企業データ知的財産権業務指導(試行)』の内容と重点。
2023年12月北京市知識産権局は
北京市経済及び情報化局、北京市人民検察院と共同で
『北京市企業データ知的財産権業務指導(試行)』は、
企業の視点からデータ知的財産権業務の各プロセスに基づいて
企業にデータ知的財産権の登記、流通及び資産化等の内容を指導するものであり、
強制的な規定ではないが、
企業のデータ知的財産権業務の改善を支援する上で指導ツールとしての役割を果たす。
『北京市企業データ知的財産権業務指導(試行)』(以下、『指導』という)は、
デジタル経済時代にサービスを提供する企業に目を向け、
データ及びデータ資源、データ製品を有している企業という主体が
その経営活動において革新性、積極性を十分に発揮し、企業の選択性を豊かにし、
データ要素の発生、流通、取引及び使用を促進し、経済市場を活性化することを目的とする。
『北京市データ知的財産権登記管理弁法(試行)』(以下、『北京弁法』という)の延長として、
『指導』はこれと同じ原則と論理を持ち、
企業が『北京弁法』を実行するためにヒントと指導を提供しており、
「『北京弁法』を効果的に補強することができるとともに、相乗効果がある」。
『指導』主体部分は全5章で、
データ知的財産権の創造、データ知的財産権の運用、データ知的財産権の管理、データ知的財産権の保護、渉外データ知的財産権等の多方面を含み、以下の内容は企業の注目に値する:
- 総則
『指導』は「データ保有者」「データ処理者」の権益保護を目的とし、企業が「データ保有者、処理者」の身分によりデータの知的財産権を創造、運用、管理、保護できるようリードし、企業がデータ要素の価値を絶えず放出し、市場を活性化するようインセンティブを与えることを目的としている。『北京弁法』と一致して、『指導』は法に基づき収集し、又は契約の約定に基づき取得し、一定の規則(通常はアルゴリズム)により処理され、実用価値及び知的成果の属性を有するデータ集合が有する権益を規範化し、現在の制度においてデータ及びデータ集合を知的財産権保護とする特徴を浮き彫りにし、企業がデータを重視し、データ経済活動において積極的に企業の資産又は資源に転化する主体性を引き出すのに有益である。
- データ知的財産権の創造
同指導は企業に対し、全市の統一したデータ知的財産登記プラットフォームを通じてデータ資産の登記、抹消、変更登記などを行うよう求めている。また、データ知的財産権によるデータ資産の形成を促進するため、特に北京国際ビッグデータ取引センターが設立した北京社会データ資産登記センターの役割を発揮し、北京国際ビッグデータ取引センターがデータ知的財産権の規範化において重要な役割を明確にし、企業がその上でデータ資産の登記を行うことを奨励した。そのほか、この部分は企業がデータ製品サービスの供給能力を高め、データ知的財産権の価値を増進し、知的財産権のコア競争力を育成することも提唱している。
- データ知的財産権の運用
データは価値のある資源として、革新と応用分野に投入されれば企業の重要な無形資産に算入でき、データ知的財産権登記制度の確立は企業のデータ資産の資産負債表に入れることを推進し、データ資産化、資本化運営を促進し、さらにデータ流通市場の繁栄を助長するので、『指導』は企業がデータ資産負債表に入れることを積極的に展開して企業価値と競争力の向上を促進することを提唱している。
データ要素は企業新型資産に構成するのはまだ発展の初期であり、『指導』はリーディング企業、インターネット企業がデータ知的財産権の運用とデータ要素の流通・使用の面で積極的にモデルを示し、大中小零細企業のお互いの公平授権モデルを模索し、ひいては社会全体が開放・共有するデータ革新生態を構築することを奨励している。また、北京国際ビッグデータ取引所などの取引プラットフォームを通じてデータ知的財産権の取引を行い、データ知的財産権を経済分野に応用するだけでなく、データコンプライアンス審査、資産価格決定、標準契約、紛争仲裁、実践実施、取引追跡及び監督管理などの分野でデータ知的財産権の積極的な役割を発揮する。また、企業がデータ知的財産権の運用に積極的に参加することで、同分野の国際的、国家的、地方的、業界的な基準の誕生も促進される。
- データ知的財産権の管理
データ知的財産権管理の面では、『指導』は企業に対して具体的な要求を提出し、企業はデータの全ライフサイクルをカバーするデータ管理システムを構築し、データ管理能力を強化し、データ知的財産権業務をサポートすることを含む。データ運営管理のニーズに合わせて、企業のデータ知的財産管理を健全化し、データ知的財産コンプライアンスをデータコンプライアンス及び知的財産コンプライアンス業績評価体系に組み入れる。
- データ知的財産権の保護
『指導』は、企業が定期的に経営製品、ソフトウェア・ハードウェア施設及び業務プロセスにおける他人のデータ知的財産権に関わる可能性のある状況を分析すると同時に、法律違反及び不正競争行為を回避することを奨励しており、これには、窃取又はその他の違法な方法によるデータの取得、データの濫用、不当使用及びその他の不当なデータ処理、アルゴリズム、プラットフォーム又はその他の規則手段を利用した競争の排除、制限、データ独占、データ覇権、及びその他のデータに関わる不正競争、違法データ取引又は違法データ知的財産権取引等が含まれるがこれに限らない。また、企業も自社のデータ知的財産権保護を強化し、事前に関連部門と共同で、調達、研究開発、生産、マーケティング及び技術移転(ライセンス)と提携、データ取引、委託加工、輸出入貿易、資産評価、投資合併・買収、上場等の段階で関わる可能性のあるデータ知的財産権リスクに対して合理的な保護措置を制定する必要がある。
- 渉外データ知的財産権
『指導』は、企業が国際デジタル貿易及びデータ越境移転業務を展開する際に、対象市場のデータ保護及び知的財産権の法執行、司法環境の変化にタイムリーに注目し、対象国又は地域のデータ政策及び業界の知的財産権状況を理解し、データ知的財産権の海外リスク早期警戒及び紛争解決メカニズムを積極的に構築し、企業のデータ知的財産権競争力を強化するよう注意を喚起した。
- データ財産権登記制度における企業の証拠保存技術の使用の重要意義を強化。
現在のデータ知的財産権の発展はまた、データ知的財産権登記制度において、
証拠保存技術が軽視できない役割を果たしていることに現れている。
浙江データ知的財産権登記プラットフォームは6社の証拠保存プラットフォームと、
証拠保存、登記、取引譲渡の全プロセスが有機的に連携し、
共同で処理できることを確保している。
『指導』は、データ知的財産権登記の価値を肯定するとともに、
データ知的財産権登記における証拠保存技術の使用の重要な意義も明確にした。
先に公布された『北京弁法』は、
登記出願には必ずデータの出所、データ集合の形成時期及び
関連する証拠保存・公証状況を含めなければならないと規定しており、
全プロセスにおける証拠保存の重要性を示している。
これと一致して、『指導』第20条は
企業がビッグデータ、人工知能、ブロックチェーンなどの先進的な技術手段を利用して
データのモニタリング、分析、証拠保存能力を強化することを提唱しており、
データ知的財産権管理におけるブロックチェーン証拠保存技術の重要な役割を示している。
第30条では、データ知的財産権紛争事件を処理する際に、
企業がデータ知的財産権登記証書を権益の法的証拠とすることができるという特性を指摘し、
データ知的財産権登記証書の法律面での重要性、
すなわち、データ財産権登記証書は企業がデータ資産の権益を保護する際に
有力な法的支援を提供することができることを明確にした。
証拠保存登記されていないデータ知的財産権については、
企業は十分な証明資料を提供して初めてその合法的権益を保護することができ、
登記時に証拠保存手続を完了する必要性が浮き彫りになった。
- データ知的財産権の流通の伸び率が上昇。
2023年11月に行われた北京データ基礎制度先行区始動会議で、
関係専門家は
「北京市がデータの「三権」分置制度の実施、データ流通取引、データインフラ建設などの分野で
模索、先行・試行を続け、データインフラの建設を推進し、多層なデータ流通取引システムを育成し、
より多くのデータを「活かす」ことができ、データを安全に「動かす」ことができるよう希望する」
と指摘した。
『指導』及びその解釈を通じ、
北京市はデータ知的財産権登記業務とデータ資産取引、データ要素の司法保護を効果的に連携させ、
企業のデータ知的財産権の革新と実践を強化していることが分かる。
北京市が講じた一連の試行措置に伴い、
データ知的財産権の流通の伸び率が明らかに上昇し、
データ要素市場が日増しに活発化している。
2023年6月に北京でデータ知的財産権登記が行われて以来、
2023年10月までに北京ではデータ知的財産権登記証書が30件近く発行されており、
また複数部門の協同メカニズムを展開しており、
北京インターネット法院との提携を通じて、
データ知的財産権登記証書の効力が司法裁判、法律監督において認定されるよう推進している。
2023年12月までに北京国際ビッグデータ取引所のデータ取引プラットフォームで
リリースされるデータ製品は770以上に達し、
情報伝送、ソフトウェアと情報技術サービス業、インターネット、IT、電子、通信業、
農林・牧畜・漁業、建設業、交通運輸と郵便業、金融業、
科学研究と技術サービス業、水利、環境と公共施設管理業、
文化、スポーツ、エンターテインメントなど多くの分野に関わる。
これらのデータ製品が流通市場に入った後、
2023年10月までに取得したデータによると、
北京国際ビッグデータ取引センターの今年の累計取引契約件数は7901件、
取引金額は15億元を超え、流通速度が明らかに強化された。
1月23日、
『国務院による<北京の国家サービス業拡大開放総合モデル区の建設業務深化の支援方案>に関する回答』の中で、
データ資源の開発・利用の推進、北京のデータ基礎制度先行区の積極的な創設の支持
及び各種制度の構築の推進が業務方案に入れている。
具体的には以下の通り:
データ財産権制度、データ要素の流通及び取引制度、データ要素の収益分配制度、
データ要素管理制度の確立・健全化を含み、
北京国際データ取引連盟を強化し、データ権利帰属登記及びデータ資産評価メカニズムの完備を推進し、
データ資産を資産管理体系に組み入れることを模索し、
データ取引標準契約指導を制定し、北京市に向けてデータ加工処理及び分析能力を備えた
経営主体の範囲を拡大し、知的財産権の標準化データを無料で提供し、
データ再加工コストを削減し、世界一流の知的財産権データベースの構築を支援するなど。
また、北京市は企業奨励措置を実施しており、
例えば『2023年北京市ハイテク産業発展資金実施指南(第3期)』に基づき、
北京国際ビッグデータ取引所で初めてデータ資産の登記を行い、
証書を取得した企業に補助金を提供するとともに、
初めてデータ資源を負債表に記入し、
金額が100万元を超えた企業に経済奨励を与えている。
企業のデータ知的財産権の規範化を推進する措置が更に深化し、
データ知的財産権の法規と政策も絶えず最適化され、
企業は上述のデータ知的財産権分野で極めて大きな開発スペースを持ち、
データ要素の革新と実践に伴いデータ知的財産権取引市場の活力を絶えず引き出し、
企業はデータ要素を通じて新しい取引機会を獲得し、
新しい企業資産を転化して企業の発展に巨大な潜在力をもたらすことを予見することができる。