商標法44.1項の適用
——盗用商標の数が少ない場合の悪意登録の認定
馮超 森康晃 張夢伊
泰和泰(北京)法律事務所
前書き:
『商標法』第44条第1項に規定された「その他の不正な手段で登録を得た」というのは包括条項に該当し、具体的な適用条件及び事実の基礎は明確ではない。
近年、悪意登録に対する国家知識産権局の取締り強化に伴い、商標の権利付与・権利確定事件においてこの条項が適用されるケースがますます多くなっている。
このことに基づいて、筆者は、国知局が最近下したこの条項を適用した無効宣告裁定を分析することによって、読者とこの条項が実際には、盗作商標の数が少ない場合に適用される考慮要素について議論する。
事件説明:
自然人の鐘某は2020年9月28日に「turnitin svip」という商標登録出願を提出し、第9類の「全世界のコンピュータネットワーク及び無線設備を通じてダウンロードできるコンピュータゲームソフト、ダウンロードできるコンピュータアプリケーションソフト、録画されたコンピュータプログラム、インターネットサーバー、インターネットを通じてダウンロードできるコンピュータゲームプログラム、コンピュータネットワークサーバー、インターネットからダウンロードできるデジタル音楽、コンピュータプログラム(ダウンロードできるソフトウェア)、ダウンロードできる映像ファイル、ダウンロードできる携帯電話アプリケーションソフト」の商品に指定されており、商標番号は第50119521号である。
当該商標は2021年6月7日に登録された。
商標第50119521号「turnitin svip」に対してTURNITIN,LLCは無効宣告請求をし、係争商標の登録はTURNITIN,LLCの先行商標「TURNITIN」に対して悪意の盗用、模倣を構成し、正常な商標登録秩序を乱し、『商標法』第44条第1項の規定に違反しており、無効宣告を行うべきであると判断した。
先日、国家知的財産権局商標法は第50119521号商標「turnitin svip」の無効宣告裁定書を出し、係争商標の無効宣告を裁定した。審判理由は主に次の2点に基づいている:
- 出願人が提出した証拠によると、係争商標の出願日前に、出願人の商標「TURNITIN」が論文盗作検知等の関連商品に使用されたことにより、既に一定の知名度を有していた。出願人の商標「TURNITIN」には強い独創性があり、係争商標に出願人の商標「TURNITIN」が完全に含まれていることを考えると、偶然の一致とは言い難い。
- 被出願人は、出願人の先行商標「TURNITIN」をめぐり、第9、35、38、41、42類の商品及び役務において複数の商標「TURNITIN SVIP」を登録した。また、被出願人は他の有名文献検索システムを模倣した商標「CPCIEISVIP」も登録した。被出願人は8件の商標を出願登録しただけであるが、ほとんどが他人の特定分野における強い独創性を有する著名商標の盗用、模倣である。被出願人の上述の行為は信義誠実の原則に違反し、正常な商標登録管理秩序を乱し、公平な競争の市場秩序を損なうものである。
事件分析:
現行の『商標法』第44条第1項には、「既に登録された商標が、第4条、第10条、第11条、第12条、第19条第4項の規定に違反し、又は欺瞞的手段又はその他不正な手段で登録を得た場合、商標局は当該登録商標の無効を宣告する。その他の組織又は個人は、商標評審委員会に当該登録商標の無効宣告を請求することができる」と規定されている。
このうち、「欺瞞手段又はその他の不正な手段で登録を得た」部分の規定は、実際は「第4条、第10条、第11条、第12条、第19条第4項の規定に違反する」以外の包括的な制限条項である。
「欺瞞的手段又はその他の不正な手段で登録を得た」条項は、最初は1993年『商標法』第27条第1項に書かれたものであり、当初は「特定の民事権益を損なう」ことの保護のために設立された。
その後、社会環境の変化及び司法実践の調整に伴い、この規定は悪意のある登録を取り締まり、公共利益を保護するレベルに調整された。
ここ数年、実践において、国家知識産権局の悪意ある登録の取締りが強化され、多くの事件において第44条第1項の規定が適用されている。
2019年の『北京市高級人民法院商標権利付与・権利確定行政事件審理指南』の第17.3条には、「その他の不正な手段」の状況認定が初めて示されている。
以下の内容が含まれる:
「係争商標出願人による複数の商標の登録出願、また、他人の比較的強い顕著性を有する商標又は比較的高い知名度を有する商標と同一又は類似を構成する場合には、異なる商標権利者の商標が同一又は類似の商品又は役務で登録出願するものも含まれ、同一商標権利者の商標が同一又は類似しない商品又は役務で登録出願するものも含まれる」。
2022年1月1日に実施された『商標審査審理指南』第16章第3.2.2条では、「その他の不正な手段で登録を得た」場合には、「係争商標の出願人が複数の商標登録を出願した場合、かつ、他人の一定の知名度又は比較的強い顕著な特徴を有する商標と同一又は類似を構成する場合」が含まれると規定されている。
以上の内容によると、上記の規定は、「不正な手段」の認定について、いずれも「複数の商標の登録出願」と表現しているが、具体的な数量についての規定はしていない。
一般的に、商標出願人が比較的高い知名度を有する他の先行商標を盗用、模倣した数が数十枚、もしくは数百枚に達する場合には、実際には往々にして直接に「不正な手段で登録を得た」状況を構成すると認定されることがある。
しかし、悪意のある登録の件数が少ない場合には、商標出願人が何件かの商標を抜け駆け出願したことは、「その他の不正な手段で登録を得た」状況を構成すると認定されるであろうか。
悪意のある登録の数量的要素は、『商標法』第44条第1項の規定を適用する際にどのように考慮されるだろうか。
具体的に本件について言えば、鐘某名義の商標出願は8件のみであり、件数は少ないが、国家知識産権局は依然として「不正な手段で登録を得た」ことに該当すると認定した。
本件の無効宣告裁定の内容から、筆者は3つの重要な要素をまとめた:
- 模倣された商標の知名度及び顕著性。
国知局は、無効宣告請求人であるTURNITIN,LLCが提出した使用証拠に基づいて、先行商標「TURNITIN」が既に一定の知名度と独創性を有していると認定した。
- 商標出願人の主観的意図。
主観的意図の面では、国知局は「係争商標に出願人の商標「TURNITIN」が完全に含まれていることを考えると、偶然の一致とは言い難い」と判断した。また、鐘某の所有する商標の数は少ないが、すべての商標が他の有名商標から盗作されている。
- その他の悪意のある情状。
国知局も裁定において、「ほとんど他人の特定分野の商標の盗作である」と強調しており、つまり鐘某が商標を盗作した商業経営分野が集中しており、これは側面において鐘某の悪意が明らかであり、故意に商標登録の管理秩序を乱していることを示している。
このことからわかるように、商標出願人が他人の先行商標を盗用し、先に出願した件数は、公式に「不正な手段で登録を得た」と認定する決定的な要素ではない。
具体的な事件では、盗用された商標の知名度と顕著性、商標登録者の主観的悪意、及び悪意の情状の認定を補助するその他の事実状況を総合的に考慮する必要があり、この場合、出願人の盗用商標の件数は「ラクダの背中を折る最後のわら」である。
国家知識局が「不正な手段で登録を得た」ことに該当するか否かを考慮する際には、事件の具体的な事実と証拠の中で、商標出願人の登録出願が善意であるか、正当であるか、商標登録秩序、管理秩序、商業市場秩序にマイナスの影響を与えるか否かを判明することが多い。
以上から、第50119521号商標「turnitin svip」の無効宣告事件は、現行の『商標法』第44条第1項の「不正な手段で登録を得た」状況の判断基準に対する国家知識産権局の適用を十分に体現しており、商標出願人の盗用件数が少ないが、悪意が明らかなその他の異議、無効審判事件に対して、高い参考的意義と指導的価値があると筆者は考える。