『北京市データ知的財産権登記管理弁法』に基づき、
データ知的財産権登記制度における論争問題を模索
馮超 森康晃 陸益凡
泰和泰(北京)法律事務所
2023年5月12日、北京市知識産権局は
『北京市データ知的財産権登記管理弁法(試行)』(意見募集稿)を発表し(以下、「『北京弁法』」と称す)、
北京市行政管轄区内のデータ知的財産権登記行為を規範化するために用いられます。
北京市は深圳市、浙江省、江蘇省に続いてデータ知的財産権登記関連の法律文書を発表した地域であり、
2022年12月に国務院が発表した
『データ基礎制度の構築によるデータ要素の役割のより良い発揮に関する意見』(以下『データ二十条』と称す)における
「データ財産権制度の構築、データ財産権登記の新しい方式の検討」に関する要求への対応であり、
北京市が国家データ知的財産権業務試行地方としてデータ知的財産権登記制度を模索する上での実施でもあります。
本稿では、『北京弁法』から着手し、
『深圳市データ知的財産権登記管理暫定弁法』(以下『深圳弁法』と称す)、
『浙江省データ知的財産権登記弁法(試行)』(以下『浙江弁法』と称す)、
『江蘇省データ知的財産権登記管理規則(試行)』(以下『江蘇規則』と称す)等の
地方性文書に配慮し、
業界内で注目されているデータ知的財産権登記制度の論争問題についてさらに整理し、模索しようとします。
一、『北京弁法』の核心内容
『北京弁法』には総則、登記内容、登記手続き、管理監督、付則に分けて五つの章が設けられており、
深圳市、浙江省、江蘇省のデータ知的財産権登記管理弁法・規則を整理し、比較して、
企業は次の要点に注目すべきであると考えています:
1、北京市データ知的財産権登記管理は北京市知識産権局が統一的に計画し、北京市知的財産権保護センターが担当
『北京弁法』第4条によると、
北京市データ知的財産権登記管理機関は北京市知識産権局であり、
これは浙江省、江蘇省と基本的に一致します。
知的財産権局を主導とするデータ知的財産権管理は、
北京市のデータ財産権に対する管理及び保護が知的財産権保護制度に依拠しており、
データ処理者を申告主体とすることにより、
データ製品を知的財産権保護範囲に客体として組み入れていることを示しており、
即ち、国家知的財産権局副局長の胡文輝氏が国務院新聞弁公室の記者会見で紹介したように、
「国家知的財産権局は現段階でデータ処理者を保護主体とし、一定の規則処理を経て未公開状態にあるデータの集合を保護対象とし、登記方式によりデータ処理者に一定の権利を付与する」
というデータ財産権管理及び保護モデルです。
これは、発展改革委員会を統括主管部門とし、データの分類・権利確認を通じて、
データ要素の流通価値の登記体系を構築し、
データの「三権分置」を分ける深圳市の管理・保護モデルとは大きく異なります。
2、データ知的財産権の登記は権利帰属記載型
知的財産権保護制度を利用してデータ知的財産権を確認するデータ権益保護メカニズムは、
権利帰属記載型登記です。
3、登記主体はデータ保有者及びデータ処理者
『北京弁法』第2条では、登記主体をデータ保有者及び処理者に拡大しており、
データ知的財産権保護の特徴に基づき、
登記主体の拡大は直接に登記保護に組み入れられるデータ客体の範囲の拡大につながり、
より多くのデータが権利確認登記及び流通取引を獲得する可能性があります。
4、登記対象者に対して、データが商業的価値を有しており、未公開状態にあることを強調
データ知的財産権登記制度は、データの流通を奨励し、データ取引をリードし、
データ財産を最大限に実現し、保障するために設立されたので、
登記データの商業価値を強調することは、
企業がデータ登記を行うか否かを目的の方向で検討することを促進するのに現実的な意義があります。
また、多くの企業は未公開のデータをその核心的な競争資源と見なしており、
これらのデータの収集、処理、展示に莫大な投資をしており、
重要なデータ資産となっており、権利確認及び登記保護の意義が極めて高いです。
「微博が今日頭条を訴えた」事件等の司法事件において、
審理を行う法院により確認されていると同時に、司法の実践において、
法院もデータ公開の権利を企業自身に付与する傾向が強いため、
企業の重要なデータが未公開の状態で登記し、権利確認することは侵害を受けた際の保護と救済に有利であり、
企業がデータ資源の流通を通じて利益を得ることにも有利です。
5、登記前にデータの保存又は公証を完了しなければならず、かつデータの権利帰属に紛争が存在しない
『北京弁法』第9条に基づいて登記しない場合により、データ知的財産権の登記において、
データは既に保存又は公証が完了しており、かつ権利帰属に関する紛争が存在しないことが要求されています。
データ登記機関はデータの権利帰属・権利確認の実質的審査を提供しません。
6、データの所有権を薄くし、データの使用を重視して、データの流通を促進することを目的とする
『北京弁法』による登記対象はデータ保有者と処理者であり、
データ流通の各段階において法律法規又は契約の取り決めにより、
データ使用権を取得したデータ保有者と使用者はいずれもデータ知的財産権の登記を行う権利を有し、
データ知的財産権登記証書を合法的な証憑として保有する者は、
第13条に基づき、データの加工・使用及び収益取得の権利を享有します。
また、第15条では、データの知的財産権は取引、質権設定、使用許諾を行うことができ、
変更登記又は申告を提供して制度的保障を行うと規定しており、
同時に、申請者の組織に合併、分割、解散、破産等の状況が発生した場合、
又は自然人の申請者が死亡した場合にも変更登記を行うことができ、
この一連の措置は、データが財産的権益として市場で流通及び使用するのを推進し、
保障する役割を果たしています。
二、『北京弁法』から現在注目されているデータ知的財産権登記制度における論争問題を模索
1、データ権利の性質に関する問題
理論と司法実践のいずれにおいても、データ権利の性質、
すなわちどのような法益でデータ資源を保護するかという問題に対して、
長期的に意見の相違が存在しています。
実際には、データ資産が侵害された場合、企業は通常、不正競争行為の存在
(例えば、「微播視界科技が創鋭科技を訴えた不正競争事件」及び「漢涛公司が百度を訴えた不正競争事件」)、
及びデータベースを著作権又は商業秘密とし、
著作権侵害(例えば、「漢涛公司と捜狐公司との著作権紛争事件」
及び「仏山鼎容公司と済南白兎公司との著作権紛争事件」)
又は商業秘密の侵害(例えば、「衢州万聯公司と周慧民らとの営業秘密侵害紛争事件」)
を理由として司法救済を開始し、いずれも法院の確認を得ることに成功した前例があり、
そのうち、不正競争行為の存在を理由として訴えられた件数が多く、応用範囲も広く、
監督管理部門からも重視されています。
2022年11月に国家市場監督管理総局が公布した
『中華人民共和国反不正競争法(改正草案意見募集稿)』第18条で、
市場監督管理部門が企業の不正な手段で取得したその他事業者の商業データを
開示、譲渡又は使用し、関連製品及びサービスの実質的な代替を招く行為に対して
行政処罰を科す権利を有することが確定されたのは、この問題への回答です。
データ権益の司法救済は行為の規制に重点を置いており、
その中にはデータ権に対する権利の確認は往々にして発効判決によって完成されることが含まれています。
司法手続から抜け出してデータ権益が侵害される前の事前防御メカニズムを模索する際に、
『データ二十条』はデータの権利確認と財産権登記の新たな構想を打ち出しました。
しかし、データの権利確認と保存登記メカニズムの構築はデータ権利の性質と保護モデルの選択の問題にかかわり、
理論界にもこれに対して一貫して意見の相違が存在し、
理論の相違はデータ権利保護制度の異なる立法選択を招き、
現在は主に所有権(物権)保護説、知的財産権保護説、債権保護説と新型権利保護説があり、
これにより現在の2つの異なるデータ財産権構築の構想と方向が生まれています。
『データ二十条』発表後、国家発展改革委員会は新型物権の構想により、
データの収集、収集、加工使用、取引、応用の全過程における各参加者の権利に焦点を当て、
分類して権利を確認し、流通の各段階に適合する登記体系をそれぞれ構築し、
2023年1月の
『中国特色のあるデータ基礎制度体系の構築を加速 人民全体にデジタル経済発展利益を共有させ』
を通じてデータ資源保有権、データ加工使用権、データ製品経営権の「三権分置」を明確に確立しました。
『深圳弁法』は同ルートに基づき率先して模索した初歩的な成果であり、
データ資源とデータ成果の2大登記対象をめぐり、
データ資源保有権、データ加工使用権、データ製品経営権などの3種類の権利類型が
初回、許可、移転、変更、取消、異議などの登記を行うことを確認し、
最終的にデータ資源登記証書、データ資源許可証憑及びデータ製品登記証書を形成します。
『北京弁法』と浙江省、江蘇省の規則は、知的財産権局に依拠して、
知的財産権保護説を採用し、データ処理者を主体とする知的財産権保護の考え方を適用し、
データ処理者の権利登記を集中的に行い、データを知的財産権の範囲に入れて保護するということです。
2、審査及び登記制度の問題点
データ財産権を登記する際に、登記機構が実体審査を行うべきか、形式審査を行うべきか
ということはずっと議論されてきました。
現在、4地の登記弁法はいずれも登記機構による形式審査規則を採用しており、
申請資料の完全性、合法性について審査義務を負っています。
特に『北京弁法』は制定において『著作権法』を参考にし、
知的財産権に類する方式でデータを保護し、著作権分野において、作品は自発的に登記する原則を実行し、
著作権登記は実体審査を行わず、データ知的財産権登記も形式審査を原則とします。
しかし、登記制度の選択は立法の方向性と登記権利の保護目的に依存します。
データ財産権の登記は健全なデータ開示制度であり、
データ流通の促進、データ取引の安全保障を目的とし、
審査基準の選択時に取引の安全と効率に配慮しなければなりません。
同時に、データ製品が比較的高い技術性を有し、データの真実性、出所の合法性、データ内容及び
処理のコンプライアンス性が審査の必要性を有するか否か、
登記機構の審査範囲が変化するか否かを考慮すると、
依然として関連法律法規の公布に注目する必要があります。
『深圳弁法』は実体審査義務を第三者機関に委託し、
『最高人民法院によるインターネット法院の審理事件における若干問題に関する規定』を参考に、
指定技術手段又は証拠収集・保存プラットフォームによる証拠の認証、
又は将来のデータ財産権の実体審査に類似した発展傾向がある可能性が見えることを要求し、
データの出所の合法性とデータの内容及び処理のコンプライアンスについては、
法律チームが技術者を補助して審査意見を作成する方式で実現することが可能です。
3、データ財産権登記の効力と役割の問題
前述したように、『北京弁法』は
データ保有者及び処理者に付与する知的財産権の証憑を基礎とし、データ所有権を薄め、
データ使用権を強化し、データ保有者及び処理者がデータの加工・使用、収益を得る権益を保護し(第13条)、
データ財産権の更新、変更登記等の方式により取引の安全を保護し、データの取引及び流通を促進しており、
データの開発・利用を奨励し、データの流通を促進し、データの商業価値を発揮する役割と精神が
『北京弁法』の多くの条文に体現されていると言えるでしょう。
また『北京弁法』によると、データ財産権登記証書は今後、行政法執行や司法裁判でも積極的に運用され、
証明の効力を十分に発揮する見込みです。
これは発展改革委員会を主導とするデータ財産権の構造的な分置と多くの一致する役割と目的を持っています。
『中国特色のあるデータ基礎制度体系の構築を加速 人民全体にデジタル経済発展利益を共有させ』において、
国家発展改革委員会は
データ財産権登記制度の構築を通じて、データ使用権を強化し、データ製品の経営権を解放し、
さらにデータの開発・使用を奨励し、データの秩序ある流通を推進し、データ取引をリードし、
データ要素の価値を解放する役割を果たすことを重点的に強調しています。
これは『データ二十条』がデータを新型の権利及び生産要素とし、
データ財産権の構造的な分置及び秩序ある流通を推進する目的と相互に裏付けられており、
将来のデータ財産権制度の政策発展方向になるかもしれません。
現段階では、『深圳弁法』はデータの流通及び開発・利用を促進することを目的とし、
取得したデータ財産権登記証書、許可証憑をデータ取引、会計計算等の業務に使用し、
将来的にはデータを生産要素として企業の資産計算及び融資抵当に使用し、
及び紛争仲裁の重要な根拠とします(第6条、第8条6項)。
2022年12月、深圳市はデータ知的財産権の登記を最初に申請した企業である
深圳市前海データサービス有限公司と広東省坤輿数聚科技有限公司に
『データ知的財産権登記証書』を授与し、
データ知的財産権登記試行業務の重要な一歩を率先して踏み出し、
データ権の帰属が不明という取引の難題を解消し、
企業のデータ資源の「取引できない」、「取引する勇気がない」という現状を改善しています。
現在、深圳市及び浙江省はデータ知的財産権登記システムを構築しており、
今後さらに多くの地域でこのようなシステムを構築し、
より詳細な立法を通じて知的財産権登記証書の応用を積極的に後押しし、
司法証拠認定に使用し、データ知的財産権証書を企業経営とデータ市場取引に応用させます。