直近20年の日中比較から見た世界の激変
‐大躍進する中国、足踏み状態の日本-
20年前の中国の知財現場を見た
直近20年(2006~2025年)に、国の人口数と面積はほとんど変わらない日本と中国の、各種指標データをまとめてみた。
2006年は、筆者が東京理科大知財専門職大学院の常勤教授となり、それまで読売新聞で勤めあげた新聞記者活動から一転して、大学の教員になった節目の年であった。
そのころ筆者は、中国から毎日、切れ目なく伝わってくる日本製の偽物、まがい品、知財侵害技術の情報洪水に、振り回されていた。
それから数年、頻繁に中国通いが始まった。
模倣品製造国家の実態とそれを取り締まる中国当局の有様を取材するためだった。
そこで知った筆者の二大印象は、次のようなものだった。
* 中国と中国人は、モノを製造する技術、技能に他のアジア諸国・地域の人に比べて優れている。
中国の職人は日本の職人と変わらぬ技能者である。
* 中国の国家知識産権局(中国の特許庁)と知財関係者らは、模倣品製造は国家の恥であり、これからは知財重視の政策を強化する。
この2つの見方をする人は、当時、日本にはほとんどいなかった。
特に中国が知財重視の国家になることには、懐疑的だった。
筆者は、模倣品製造業者の摘発に関与していたある調査会社に深く食い込み、模倣工場と製造者らを取材する機会があった。
そこで見た中国の職人たちは、日本の職人の腕と心構えとほぼ同じであり、機械と技術さえ与えれば、相当なるモノ作りの成果を出すと確信させるものだった。
その成果は「中国ニセモノ商品」(中公新書ラクレ)として出版し、書籍を20冊ほど中国に持ち込み、中国の知財関係者に進呈した。
日本では「そんなことをしたら中国で身柄拘束されるぞ」と心配する声もあったが、筆者は自信があった。この本の後半は、モノつくりの日本の歴史に触れた点があり、そこで明治維新後の日本の技術革新も欧米列強の「物まね」から始まり、工業国を築き上げたことを書いた。
その例を挙げながら中国の技術革新は、もっとスピード感があり、いずれ日本を追い越すという見解をにじませており、日中の一部の識者は「全く同感だ」と語っていたからだ。
一方、中国の知財当局者は、例外なく模倣品国家は世界の恥であるという気持ちを持っていた。
言葉ではそうは言わなかったが、話をする過程でよくわかった。
北京であるとき、セミナーがあるからと公民館に連れていかれた。
大教室ほどの部屋に入りきれない人々が押し寄せ、講習を受けていた。
教材を見ると、日本で使っている、特許・実用新案、意匠、商標などの参考書類を日本語のままにまとめた冊子を配布し、壇上で白板に次々と中国語で書き連ねながら、知財の重要性を語っていた。
その中で、「日本を見ろ。戦後の廃墟から、世界の工業国になったのは技術開発と知財である」と熱弁で語っていたことが、ひどく印象に残った。

国際連合(人口)、世界銀行(GDP)、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)、UNESCO Institute for Statistics、中国教育部、厚生労働省、世界知的所有権機関(WIPO)、特許庁、中国知識産権局、中国科学技術部、「QS World University Rankings」、「Fortune Global 500」、などを基に筆者が作成
中国の大学初任給、大学進学率は都市部の統計を示した
20年間で激変した中国の国情
この一覧表を見ると、直近20年間の中国の躍進は眼を見張るものがある。
一方で日本は、足踏み状態で20年間、過ごしてきたような状況だ。
途上国だった中国がこの20年間で先進国の仲間入りしたこと、GDP、自動車保有台数、世界トップ大学数、特許出願件数、世界有力企業数などをみると明らかである。
こうした統計を調べてみると、中国は北京、上海、広州、深センなどの大都市と地方では大きすぎる差があるので、このような表にはまとめにくい。
例えば、大学卒初任給などは、北京、上海の事情を中国の知人に聞いてみると、トップクラスの企業の初任給は、日本企業のそれを超えている例を聞く。
日本のあるIT企業の人から聞いた話では「中国の人材を採用しようと検討したが、日本は給料が安いから行かない」と中国の若者から言われたという。
筆者は数年前、大学進学者の文系・理系の割合を調べたことがあるが、日本は概ね6対4で文系が多かったが、中国はこの逆で6対4で理系が多かった。
世界のトップ大学100のランキングでも、中国はこの20年間に2校から10校と5倍に増やし、日本は5校から2校へ減少した。
日本は停滞なのか足踏みなのか
この20年間の日中のこの状況をつぶさに見てきた虎威グループ株式会社(本社東京)の李永虎社長(中国人弁理士、別名タイガー・リ)と、このテーマで討論したので、それを書いてみたい。
李弁理士は「日本人は悲観的に日本を見るが、成熟した国家とみれば、この数字も受け入れられるのではないか」と言う。
国家といえども未来永劫、右肩上がりに成長を続けるわけではなく、どこかで天井を打って別の成長課題に移っていくという見方である。
筆者は「これは足踏み状態に見える」と言うと「そうみても不思議ではない」ともいう。
そう言いながら、日本の「停滞」を心配する見解も語っている。
例えば知財活動の停滞ぶりである。
なぜ、日本は特許出願数で中国にも韓国にも抜かれ、知財制度設計でも後れを取っているのか。
たとえば中国では、知財訴訟はかなり早くからネットで口頭弁論を開廷していた。
国土が広いので原告・被告がいちいち大都市の裁判所に集まるよりも、ネットで開廷して進める方がはるかに便利だ。
IT産業革命の先端を走り始めた中国は、こうした制度設計でもITをすぐに取り入れ、近代国家へと衣替えしてきた。
制度が硬直化しても費用や人材面で近代化することがなかなかできない日本は、足踏み状態に陥った。
侵害者には厳罰主義で模倣社会を放逐
特許法も整備されて、知財権利は強化され、懲罰的損害賠償額もアメリカの3倍を超えて5倍に引き上げ、裁判所の判断もどちらかと言うと原告に有利になっているという。
そこには、侵害は許さないという中国の国家戦略が反映しているもので、厳罰を恐れる企業は、他のアジア諸国に生産現場を移転させる現象も出てきた。
中国当局の工場設置・設備での規制強化に嫌気をさした経営者が、中国を捨てて海外に向かう現象もあると李弁理士は言う。
厳罰主義は、徹底している。
模倣品を生産する特許侵害者への罰則は、きわめて重く、死刑判決も出ている。
ただし中国では「執行猶予付き死刑」という判決があり、これは日本でいう終身刑である。
中国は「AI産業革命」で世界の覇者になるか
世界史でみると人類は過去3回の産業革命を経てきた。
筆者が社会科の教科書で習った第1次―第3次産業革命は、歴史的に定められた事柄だが、第4次産業革命は、まだ定まっていない。
今後、50年、100年を経て今を振り返ったときに、確定するものであるが、筆者は様々なデータを基に、これまでの産業革命といま進行中の第4次産業革命を一覧表にまとめてみた。

各種データを基に筆者が作成
どの革新的技術を見ても、中国の存在感は日本に追いつき、追い越している分野がある。
デジタル社会の実現でも、中国の方が一歩進んでいるように筆者は感じている。
無人タクシーなどは、中国の方が先に広がるだろう。
外食レストランでの注文、支払いは、ほぼ10年前から中国ではスマホですべてできるシステムが普及し始めていた。
日本に先行すること5,6年前である。
中国人とレストランに行ったとき、店内に勝手に入り、勝手に座席に座り、スマホの写真を見ながら飲食を注文し、支払いもスマホでしていた。
複数で「割り勘」するのもスマホで登録すればできる。
そういう現実を見て、驚いたことがあった。
2年前に筆者が世界一周のクルージングで深センに上陸したとき、飲食レストランの支払いが持参したカードでは支払えないトラブルになった。
しかし「wechat」という日本のラインに似たネットワークに入っていたので、北京に住んでいる中国の友人に助けを求めた。
「心配なし。私がこのSNSで支払います」と言って、北京からサクサクと操作して簡単に解決した。
数分後には、「ちゃんと支払いました」のコメント付きで、領収証の写しが私のスマホに送られてきた。
デジタル社会では、完全に中国に抜かれたと実感した。

