コラム

学校給食と食育は日本のソフトパワー

認知度がなぜ広がらないのか
日本の学校給食は戦後、食べるものに事欠いた時代から徐々に整備され、いまやレストラン顔負けのおいしい給食にまで進化した。
それだけでなく栄養摂取も合理的で、「日本人の長寿の原点は学校給食にあり」という主張は、筆者がことあるごとに公言してきたコメントである。

日本一おいしい学校給食コンテスト
さる12月7日、第20回全国学校給食甲子園が開催され、東京都代表がコンテストの3冠を独占するという劇的な結果を出して衝撃を与えた。
全国学校給食甲子園は20年前、食育基本法が制定され、栄養教諭制度が始まった翌年から筆者が始めた。
文科省の食育委員会の委員を委嘱され、法制度の整備に深く関与していたが、一般国民には食育とはなにか、理解度が全く進んでいなかった。
食育の基本は学校給食としていたが、学校給食は当たり前という認知度しかなく、健康と栄養という観点では無関心だった。
そこで食育と学校給食の正しい理解を広げる目的でこのコンテストを始めた。

栄養摂取基準が理解されない
学校給食はただ、おいしければいいというものではない。
学校給食の献立は栄養士の資格のある栄養教諭しか作成することができず、しかもトレイに乗ってくるランチの栄養素は、国が定める栄養摂取基準を満たす必要がある。
学校給食の栄養基準を決めたもので、家庭料理で不足しがちのビタミン、ミネラル、食物繊維を学校給食で補充し、摂り過ぎになっているたんぱく質、脂肪、食塩を少なくし、カロリーを抑えるように義務付けられている。

下の一覧表を見ていただきたい。国が定める学校給食栄養摂取基準である。


文部科学省・学校給食摂取基準報告書をもとに筆者が作成

この摂取基準に縛られながら栄養教諭献立を作成し、調理員が調理して子どもたちに提供する。
子どもたちは忖度しないから、まずければ食べないで残すし、おいしければ完食となる。
給食は毎日、残食重量を測って記録し、当局に報告する義務がある。
このように厳しいルールの中で食材を吟味し、栄養を確保し、おいしく食べてもらうというのは並大抵のことではない。
しかし現実には、社会一般には理解されていないのではないか。
学校給食の一番身近にいる保護者たちに、理解されているかどうかも疑問だ。

栄養摂取基準の中でも、栄養教諭が泣いているのが食塩摂取基準だ。日本食は世界の食事の中でも塩分が強く、日本人に脳卒中、胃がんなど多い原因と言われてきた。
小学校3,4年生の学校給食は、2.0グラム未満とされている。
塩分はおいしさを感じる重要な食味であり、薄味を物足りないと感じるのが普通だ。
物足りなければ子どもたちは、まずいと思って食べない。残食が多くなる。
このような制約と、近頃の物価高で購入資金に配慮しながら学校給食は、おいしさを求め、子どもたちの健康と成長を願って作られている。
このような配慮をしているのは、世界で日本と韓国だけではないだろうか。
韓国は日本方式を取り入れて進化したと言われているが、いまは日本を超えて韓国の方が進化しているとも言われるほどだ。
韓国を見習う時期に差し掛かってきたのではないか。

三冠とは何か
第20回全国学校給食甲子園で東京代表の新宿区立西戸山小学校の菅田望・学校栄養職員と吉田美由紀・調理員のペアが史上初の三冠を手に入れた。
 ① 決勝大会でペアが優勝
 ② 食育授業コンテストで菅田先生が最優秀賞
 ③ 調理員特別賞に吉田さんが受賞

全国学校給食甲子園のウエブサイト
こちら ⇒ https://kyusyoku-kosien.net/

「内藤とうがらし」って知っていますか
審査委員をうならせたのは、地場産物が少ないと言われてきた東京代表が、内藤とうがらしという江戸時代から新宿辺りの宿場町で栽培されていたとうがらしを7粒の種子から育て上げた食育活動と、それを使った「内藤とうがらしのうまみコーンご飯」、「内藤とうがらしのかおりピリから豚汁」だった。

東京は地場産物が少ないと言われているが、そんなことはない。
全国学校給食甲子園のルールでは、都道府県単位の地場産物だから、東京の場合、八丈島から三多摩の県境まで広い。
東京代表は、そのルールをうまく使って、八丈島の魚や野菜、小松菜などを食材として使い、子どもたちを喜ばせた。

食育授業コンテストでもカリスマ授業
菅田先生の食育授業コンテストでの最優秀賞も審査委員をうならせた。
これは応募したトレイの給食の中身について、5分間の授業を行うもので、22人が出場資格を獲得して授業を展開した。
菅田先生の語り口、興味を持たせる内容など他の出場選手より優れた点が多いことが最優秀賞に選ばれた理由だろう。

こちらから、全出場者の動画を見ることができます。
第20回全国学校給食甲子園食育コンテスト

AIを取り入れて進化する学校給食と食育
食べることは、日々の行動の中でも、最も重要なことだ。
栄養と健康という面だけでなく、食の楽しさと文化を学ぶ時間でもある。
栄養教諭が作成する毎日の献立表は、子どもたちに配布し家庭に持ち帰るので、保護者も毎日見ている。

それが今は、全国的にネット配信するようになり、スマホで全国の学校給食の献立やトレイを見る時代になってきた。
しかしこれには温度差が大きく、先端を走る栄養教諭と地域の行政の取り組みと旧態依然として進歩のない行政と栄養教諭の間では、格差が広がっている。
食育も学校だけでなく生産者や保護者、流通業者など外部とのコミュニケーションを広げて楽しく立体的な授業をする先生と、教室で講義だけに終わっている学校では、子どもたちへの訴える力がなくなり、学校間の格差が出てきている。

AIを利活用して献立作成に利用したり、家庭とのコミュニケーションに利用する栄養教諭も出てきており、動画やイラストの作成、写真のトリミングや改造、紙面の編集など多彩な使い方が急速に発展しており、AI産業革命の波が押し寄せている。
今後、数年間で学校給食と食育に関する学校と教室の現場は、驚くほど変革する予感がする。
AI産業革命はどのように進展していくのか。
学校給食・食育から見ていきたい。

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