IP HOUSE・発明通信社共催のセミナーから見た 中国知財司法活動の現況 -(中)
外国企業の知財の保護状況
中国で活動する外国企業は、長い間、中国の模倣品活動に悩まされてきた。ITによる技術革新が
まだ進展していなかった時代は、工業製品や製造技術の分野で侵害が横行していた。
IT産業革命が進展してくると高度で専門技術をめぐる侵害紛争に広がっていった。そのような歴史の
進展に合わせ、中国の知財制度も急速に整備され、保護する制度として知財司法が進歩してきた。
こうした背景を踏まえながら、知財宝の普翔・CEO(最高経営責任者)の講演を紹介してみたい。
外国企業の知財紛争が増加
中国で活動する外国企業は、かつては初歩的な模倣品被害に悩まされていたが、
中国の技術向上が非常に早く、最近は先端技術をめぐる知財訴訟が増えてきている。
著作権、商標、特許のいずれの分野でも2013年から2016年まで確実に増えている。
なお、中国の特許とは、発明特許、実用新案、意匠の3つの権利を合計した数字である。
上の表は、2013年から16年までの外国企業が原告になって侵害訴訟を起こした場合の勝訴率を出したものだ。
著作権、商標、特許のいずれも徐々に勝訴率が下降している。なぜ下げてきたのか。
普先生は「いま調査中であり、掘り下げて分析したい」と言うにとどめている。
これは、被告になった中国企業が抗弁できるスキルを磨いたのか、あるいは紛争になった権利内容をめぐって
中国企業が対抗できるまでに向上しているのか、まだ不明だという意味だろう。
なお、普先生が示した特許紛争の内容で注目したいのは、意匠権の紛争が増加してきている点だ。2013年から
16年までの司法の判決件数をみると、発明特許は160件、実用新案は14件、意匠は105件となっている。
中国の意匠権は、日本で権利になる部分意匠が認められていないが、それなのに意匠権をめぐる紛争が
増えてきているように感じる。中国の意匠は、実体審査を行わない登録制度になっているので
登録件数は多いが、権利にならない、いわゆるジャンク意匠も多いというのが専門家の指摘でもある。
しかし、いつまでも中国の意匠が低レベルで推移するとは考えにくい。いずれ意匠権をめぐって
日本企業が提訴される時代が来るような気がする。最近は、日本の部分意匠権を導入するべきとする
中国の知財関係者も出ており、意匠権に対する動向に注目していきたい。
また、外国企業の知財訴訟と中国企業の知財訴訟の判決で出ている賠償金支払い額の比較では、
特許ではほとんど差がなく、著作権、商標ではやや外国企業の支払額が多いことを指摘している。
日本企業を巻き込んだ知財司法の動向
中国の司法で、判決に至った日本企業の訴訟の統計はどうなっているのか。
普先生の発表内容を見ると、グラフのように2014年がピークになっている。
被告に立たされた件数は異常に少なく、原告となった件数は、2014年の29件だったが、2016年は
途中経過の数字であり4件になっている。
中国での外国企業の侵害訴訟の原告総数と日本企業のそれの割合を見ると、日本企業の原告の割合が
減少傾向にあるという。これは、訴訟の総件数が増えてきたために相対的に日本企業の原告数の割合が減少
しているように見えるという解説だった。
講演後の討論も熱心に展開された
平均賠償額で日本は3位
注目すべき統計は、特許紛争事件の取り下げ率である。
日本企業の取り下げ率は18パーセントで、全企業の取り下げ率の中で突出して少ない。
オランダの52パーセント、中国の50パーセント、韓国の44パーセントと比べても異常に少ない。
これは、日本を原籍とする日本企業は訴訟に持ち込む場合は、証拠揃えなど準備を重ねて臨むために
容易に引き下がらないということではないか。
ところが、中国で活動する日系企業の取り下げ率は、ベルギー系92パーセント、
韓国系64パーセントについで、日系企業は59パーセントと高い。
普先生は「中国での日系企業は、話し合いによって取り下げていることが多い」とコメントしている。
その一方で日本原籍の日本企業の特許紛争の勝訴率を見ると、日本企業の勝訴率は59パーセントで、
上位10か国中のトップである。これは取り下げ率が低いことと相補的な関係にあり、「訴訟に万全の準備をし、証拠固めもしっかりとしているからだろう」と普先生は語っている。
さて、特許侵害事件で勝訴した場合の賠償金額だが、知財司法が判決を出した平均賠償額で、
日本企業はシンガポール、カナダに次いで3位になっている。
平均賠償額は、シンガポールが32万元(日本円でおよそ544万円)、カナダは25万元(同425万円)に次いで
日本は20万7千元(同352万円)となっている。
意外なのは韓国だ。トップ10にも入らないのは、どのように解釈したらいいのか。
和解で決着することが多いのかもしれない。
(つづく)