H2ブロッカー
今も昔もあまり変わらないかも知れませんが、人は外部からの様々な刺激を受け、早い話がストレスに晒されています。
熱い寒いといった外気、騒音やニオイなどの五感によるストレスもありますが、化学物質、放射能などが要因となり、物理・化学的なストレスもあります。厄介なのが精神的な緊張によるストレスです。社会生活を送る上では様々なストレス要因がたくさんあり、ストレスにある程度耐える強い人にならなければならないのでしょう。
私もサラリーマン時代には、多くのストレスを受け、それなりに耐えてきたつもりでした。しかしある仕事を任され、多くの人との間で仕事を進める上では少なからずストレスが溜まっていたようです。数十年も前のことですが、あるコンピュータシステムの開発中に、胃炎が始まり、最後は胃潰瘍、十二指腸潰瘍だと医者に言われ、仕事を少なくしろとまで言われたのです。
全社向けのコンピュータシステムのキックオフを一週間後に控えたある日の夜中、胃がねじれるような激痛が何日か続き、吐血までしてしまいました。会社の病院にいったところ、直ぐ入院して手術をしなければならないと通告されてしまいました。先生にあと一週間は何とかなりませんかと懇願したのです。そこで先生からこんな薬があることはあるのだけれど言われたのが、アメリカで開発された胃壁からの胃酸分泌を促進するヒスタミンH2受容体をブロックするシメチジン(タガメット)でした。潰瘍は手術が妥当だが、新しい薬を確かめてみるかと言われたのです。先生は自分も処方の実績がなく、これが確実に効くかどうか分からないが、そこまで手術を固辞するなら仕方ない。少し困った顔で薬が効かなかったら手術だよと念を押され治療が始まりました。
新薬は色々な副作用が人によって出ることがあるので、その辺も注意深く処方するからと、まさにお医者さんにとっても可能性を確認するとの意向が伝えられました。製薬会社に勤めていた友人によると、創薬競争が激しく世界中の製薬会社で研究され、構造の似たような化合物が作られましたが、発癌性がありほとんどが脱落したそうです。
受診した病院の先生は、より良い薬ができると、私への処方薬を変え、H2ブロッカーの薬としては二番手のラニチジン(ザンタック)、さらに三番手のファモチジン(ガスター)と20から30年以上順次処方され、手術なしで私の潰瘍は快癒しました。
ファモチジンは、日本で発明・開発されて1985年に登録になった特許第1272484号(特公昭59-48810号)「ニカルジピン持続性製剤用組成物」です。発癌性の無い素晴らしい物質で、アメリカの大手製薬会社にも技術供与して、世界でも百カ国以上で販売されるH2ブロッカーの代表になったのです。製薬のライセンスだけでなく、原材料の供給権を確保したことがビジネス面での成功につながったそうです。
この特許は、医薬品特有の特許期間延長、さらには後発薬対策、スイッチ薬(薬局での対面販売)、口の中で溶ける錠剤などの開発と、着実な延命が実行されました。