コラム

パイロットランプとアナロジー

国の内外を問わず情報メディアの役割が取り沙汰されている。
特に、民主主義の根幹である選挙において、公益性を重んじてきた既存の報道機関の役割を心配する声が強い。
悪意のあるフェイクニュースでも影響を受ける人が多ければ、民主主義国家においては力を持ちかねない。 

ドイツ第3帝国の独裁者ヒトラーが、1933年に就いた首相の座もクーデターなどの力による奪取ではなく、制度的には民主的な選挙を経ての結果だった事を考えると、我々もそんな流れの入り口に立たされているかもしれない。
倫理的に問題視されるSNSの情報や悪意的な拡散行為であっても違法性が無い限りにおいて、その影響がもたらす将来の結果責任は、皆で負わざるを得ないのが現状である。
かつて国威発揚、戦争遂行の一翼を担った反省から、主な新聞、メディアは、多少左右色はあるものの、情報の精度、客観性及び速報性を最重課題としているはずであり引き続きその担保強化を期待したい。 

私は、かつてその報道機関から組織の機能強化へのヒントを貰ったことがある。
それは、上記、最重要課題の中の情報の速報性についての疑問からであった。
ここからは、「疑問」「推測・納得」「自分のマネジメント策との対比」と変遷した考え方の紹介になるが、特に「推測・納得」の部分の正誤についてはご容赦いただければ有難い。 

よく報道機関やニュースメディアでは「特ダネ合戦」なる事を見聞きする。
ドラマなどでは特に強調され、ガラの悪い上司が「・・・社なんかに先にすっぱ抜かれやがって、何やってんだ!!」などと叱責するアレである。
いち早い情報の伝達の重要性は十分承知の上で、私は常々、一般人の殆どはそれが夕刊に間に合おうが翌日の朝刊に載ろうが大差は無く受け止めるのではないのかと思っていた。
わずかの遅れを、致命傷のように騒ぐのか?との思いであった。 

これを報道機関側から見ると合点が行く景色に変わった。
最新情報への感度を研ぎ澄ましておく機能保全の為の活動と見たらどうだろうか。
例えは悪いが、猟犬を飢えさせておくように、理屈抜きに新しい情報を狩り求める能力を保っておくには簡潔で良い仕掛けと納得した。
機能保全を測るパイロットランプとはまさにこのようなものかと。
パイロットランプは、業種や必要性に応じて千差万別である。 

類似の思考的変遷を経た事案をもうひとつ紹介したい。
それは警察による現場検証である。
高速道路上での所謂あおり運転の現場検証。
加害者が威嚇しながら被害者に暴力をふるう様子までドラレコ、スマホ映像に鮮明に写されていたケース。
場所の特定はおろか犯行形態まで明確な犯人を高速道路まで連れ出し、交通の大動脈を制限してまで何を検証しなければならないのか。
その様子に気を取られた反対側車線の車両が脇見運転事故を起こした事も、そんな現場検証の必要性の疑問に拍車をかけた。 

これも警察捜査の機能保全の観点から見ると合点が行く。
一見明白な事案であっても、寸分の狂いもない事実確認を行う機能を磨き保全しておく為の重要行為で、刑事訴訟法上の理由はあろうが、効率重視で警察の捜査全体がずさんな方向に向かわない為の機能保全的パイロットランプと解釈すると納得がいった。 

知的財産部の責任者をしていた時、私の採った機能保全のパイロットランプ的仕掛けは積極的な他社との争いである。
きな臭い一文に見えるが、知財機能だけでなくビジネスマンとしてのステップアップも期待できる仕掛けと位置付けていた。 

具体的な指示はひと言「毎年、必ず自社特許の権利行使をしよう」だけであった。
権利行使とは自社の保有特許に対して競合他社による侵害の責任を問う行為である。
考え方は極めてシンプルで、これを遂行する為には、先ずは、詳細な他社情報の入手・解析、自社特許の有効性に確証を持つ為の確認(特許庁で認められたものであっても念のための有効性確認)、他社が侵害行為を構成しているかの鑑定的検討等特許実務の英知全てが必要となるだけでなく、その後、もし戦略通りに権利行使できなかった理由の解析と見直しを必須とすれば、おのずと将来発展へのフィードバックループも構築出来て行く事になる。 

更にこの権利行使行為は組織の総合力の底上げに使える意味も併せ持っていた。
それは権利行使の行為の態様にあった。
上記を特許能力要件絡みとすればビジネス能力絡みと言えるものでもある。
先方に出す書面の内容、適切な交渉相手の選択やアポ取りの仕方、説得力は勿論節度ある交渉態度、さらに身だしなみの適否までビジネスマンとして自分を磨ける内容が満載である。
人の洗練度は時に軽視されがちな事もあるが、企業力はその受付を見れば分かるとさえ例えられる事を考えると、総合力は外見的な面も含め高いレベルでバランスが取れている事に越した事は無い。 

このような思いから、特許権の積極活用が知財部能力の健全性を保つものとの思いの中でマネジメントはしていたが、多少なりとも他社からの不満が聞こえた事、時間のかかる割には実益は上がらなかった事(所謂コスパ)などから、それで良かったのかとの迷いもあった私に、報道機関の特ダネ合戦や警察の現場検証の持つ意味の解釈が助け舟を出してくれた。
両者と同じように「権利行使マネジメント」は知財機能を保全するパイロットランプだったのだと。 

例示させてもらった両事案の解釈自体に手前勝手な感は否めないが、重要な事は、自分の思考や行動の理屈に力をつけて貰えた事である。
自分の決断や行動に迷いや弱気が生じた時、社会科学に留まらず、自然科学の現象との類似性(アナロジー)を考察する事は意味のあることかもしれない。
特に一見合理性を欠いたように見える事案、現象を裏側から見る事で私たちの迷いを消してくれる事も稀ではないように思う。

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