愛犬たちからの贈り物
私は、自己のプロフィールの中で紹介されているように愛犬家である。
子犬の時から18年以上も可愛がり2021年に別れた先輩ワンちゃん(トイプードル/マリリン)と、その時の悲しさと彼女を忘れないために2度と飼わないと思いながら2年、ついに寂しさに負け、最近また一緒に暮らし始めた後輩ワンちゃん(ティーカッププードル/リン)が傍にいる。
マリリンとは、いずれ彼女が待つ虹の橋のたもとで会えることを願いつつ、一緒に暮らし始めて1年半のリンとはずっと一緒に健全に老いてゆきたいと願っている。(愛犬は亡くなると虹の橋がかかる素敵な場所で、飼い主が亡くなるまでずっと待っていてくれるらしい。それも一番元気だった姿で。)
両者とも、プードルの特徴でもある活発かつ利発さで十分私達を癒し楽しませてくれていたし、くれている。
両者の違いはその体格(マリリン5㎏、リン1.7㎏)以上に性格が大きい。
マリリンは言わばご主人様命とばかりに私達ベッタリだった。
その裏返しに他人にはなつき難く、仲良く出来るワンちゃん友達も少なくて飼い主から見ると孤高な寂しげな存在に見える事もあった。
マリリンがまだ子犬だった頃のある日、自分のベッドやソファ等におやつを隠す事を覚えた。
そしてその行動に合わせて急に落ち着きが無くなった。
おやつをあっちへ隠しキョロキョロ、こっちへ隠しソワソワ。
もともとおっとりした性格ではないので、動きは活発だったが、それまでと違うおかしい動きを観察してみると何かに怯えているようにも見える。
どうも隠したおやつが気になって仕方ないらしかった。
家の中にいるのは大好きなご主人様だけのはず。天敵はおろかライバルの影もない。
何かを所有した途端に失うことを警戒していたのである。
本能的な行動だっただけに単純で分かり易い分、却ってハッと教えてくれた。
失うものがある者と無い者との心理的負担の差。
持っている物が大きい者程それを失うことを恐れる我々の世界。
歴史上絶大の権力と富を持った者が不老不死を手に入れようと家来を東奔西走させた事の真偽は分からないが、老害と揶揄されながらも自分の地位や権力にしがみつく権力者たちの行動原理も結局は「ワンちゃんレベル」のメンタリティーで単純化できると改めて考えさせられた瞬間だった。
後輩ワンちゃんリンに話を移そう。
自分で言うのも親ばかだが(世間では犬バカと言われているようだが)とにかく可愛い。
サイズや顔かたちと合わせ動き自体が愛くるしいのである。
人の世界では同じようなタイプを、すこし古いが「超ぶりっ子」とか「あざとい子」とでも揶揄するのだろうか。
マリリンの時、可愛いと近付いてくれた人を「すみません、この子は怖がりなので・・・」との決まり文句で、ことごとく遠ざけざるを得なかった反省から、リンはとにかく人も犬も好きになるよう育てた。
その甲斐あって、犬だけでなく老若男女、国籍人種を問わず誰にもフレンドリーな子に育ってくれた。
外国からの観光客、修学旅行生が圧倒的に多い平安神宮界隈が活動拠点となっているので、尚更かもしれないが、ほぼ先方が見初めて声をかけてくれる。
誰にも安心して撫でてもらえるし、中には急に抱き上げるご年配や、ぬいぐるみと間違えたかのようにハグする幼児もいるが、その都度短い尻尾をお尻ごと振って掛値なしに喜ぶリンを見るのは飼い主としてもとても嬉しい。
刺青の厳ついお兄さんまでが相好を崩して可愛がってくれる姿はすこし滑稽でもあるが。
リンのそんな振舞いを少し欲目でみると、すれ違った世界からの観光客にことごとく笑顔を運んでいるように見える。
外国からのお客様から写真を撮らせて欲しいと頼まれる事も多く、私も短い会話やおもてなしの笑顔で快諾している。
おこぼれにあずかる様に、かなりの国の人の写真にリンを抱いている手元だったり、お座りしているリンの横に立っている足元だったり、私の体の一部も小さく写っているはずだが、彼女が私より国際交流に貢献している事は間違いなさそうである。
他のワンちゃんと行き会った時でも、自分が小さい分だけ物理的にも下から挨拶をしているし、所謂マウントを取る、取られるなる言葉とは無縁の振舞いでとても微笑ましく、自分の喜びを素直に表しているだけで皆に好かれ可愛がられているリンには、その時の行動を縛る打算もプライドの欠片も見受けられない。
これに比べて我々はどうか?
自伝的映画によると、何かあっても自分の負けも過ちも認めない事を信条に生きてきたどちらかの大統領、とまではいかなくても、不要なプライドを持ったり、素直な謝罪ができなかったばかりに他人も自分も傷つけてきた事のない人は稀有なのではないだろうか。
こんなリンからは、癒しの中にも今からでも遅くない生き方のヒントを貰っている。
彼女の半分でも無条件で人を好きになり、それを素直に伝える事が出来れば違った景色が見えると信じ、努力をしてみようかなと思う。
当のリンだけでなく、今は写真立ての中にしかいないマリリン、いつか虹の橋のたもとで会った時、「おまえが教えてくれたワンちゃんとの楽しい暮らしのお陰でとても素敵な人生が送れたよ。」と抱きしめてあげられるように。