コラム

一瞬の衝撃 一流と超一流

大谷翔平、無条件に誰もが認める超一流のベースボールプレイヤー。
世の中には彼のように一流の上に超を付けて形容される人達が色々な分野に存在する。
多くはスポーツ界や芸能エンターテイメント界で使われる「超一流」とはどんな一流?
定性的な定義はともかく、個々人が自分に親和性の高い分野で感覚的に一流か超一流かを捉える事が一番自然に思える。 

私は学生時代にモータースポーツに夢中になった事があり、それなりには努力はしたように思う。
大学を休学してレーシングドライバーに挑戦したい旨相談した主任教授から「君は大人に成りきっていないな。」と一蹴されたのも今は良い思い出になっている。 

その後自動車関係の仕事に就いたとは言え、そうそう誰もが機会を持てるものでもない自動車レースの最高峰F1グランプリ(F1GP)関係のいくつかのイベントに出会えたのも、学生時代の心の残り火の誘いだったかもしれない。
VIP席で観戦の機会を得た、2005F1GPシリーズ開幕戦のメルボルンGPで、スタート直後右へ左へと走行スペースを求めながら時速300キロ近くまで加速するマシン群が、まるで忙しく動き回る昆虫のように見えた事や、F1レーサーも憧れの華やかかつ難しい市街地コースといわれるモナコの下りヘアピンコーナーを歩き、こんなコースでは例え自転車競走でさえ先行車を抜くのは難しいだろうと驚嘆した事等、良い思い出として残っている。 

世界で限られたレーサーだけが地上最速を競うF1GP、そんな中で「これが一流と超一流の違いかな」と、その後の私の評価軸になった出来事がある。

半世紀近く前になるが、圧倒的な速さを誇ったニキ・ラウダと言うドライバーがF1界を席巻していた。
オーストリア出身の彼は、レース中の事故で大やけどを負いながらも短期間に復活を遂げた。顔の半分以上に残る火傷の跡は凄絶な事故を物語っていたが、全くそれを感じさせない走りで関係者を驚愕させていた。 

F1レースはモータースポーツの頂点であるが、その下部に、いつかは頂点を狙うレーサー達がしのぎを削るいくつものカテゴリーが存在していた。
サッカーのJリーグで例えるとJ1J2J3のような構図で、当時はF1に最も近いカテゴリーとしてF2が位置付けられ、F1と遜色のないパワー、スピードで観客を魅了しながら主にヨーロッパを転戦していた。
このカテゴリーがF1への登竜門の最終関門だったように思う。
ニキ・ラウダがF1で活躍していた同時期に、このF2 にほぼ無敗のチャンピオン、ブルーノ・ジャコメリと言うドライバーが君臨していて、あまりの強さにF1への昇格はもとより、F1チャンピオンも手に入れるだろうと多くの関係者も期待していたようだった。 

ブルーノ・ジャコメリが完全にF1に昇格した後だったのか、その前段階としてスポットで出走した時だったのか等の詳細な記憶は確かではないが、ニキ・ラウダとブルーノ・ジャコメリが、あるF1GPで争った時のエピソード。
この世界に強い関心を持っていた私はスーパースター二人の勝敗の行方に興奮を隠せなかった。 

その場面は、何らかの事情でブルーノ・ジャコメリの車がニキ・ラウダに対して周回遅れになりかけた時にやってきた。
激しいレースにも暗黙のルールがあり、周回遅れになりそうな車は抜き去るだろう車に先を譲らなければならない。
その際は、スピードと先のコース形状に応じて相手が取るであろう走行ラインを邪魔しないよう適切なタイミングで自分のラインを変えなければならない。
トップレーサーとしての経験を十分すぎる程積んで来たブルーノ・ジャコメリもそんな事は百も承知のはず。相手(ニキ・ラウダ)がフルスロットルのまま抜きやすいだろうとイン側を空け自車のラインをアウト側に寄せたが、いち早くアウト側から抜きかけていたニキ・ラウダはさらにアウト側に押し出される形となり、エスケープゾーンと呼ばれるコース外に片輪を落としながらもブルーノ・ジャコメリを抜き去っていった。
どちらも常人には及びもしない動体視力、状況判断力の中、ベストタイミングで採った動作だったはず。
トップドライバーとして採るべき行動を採りながらもブルーノ・ジャコメリがレース後にニキ・ラウダから𠮟りつけられた事等、後日談はさておき、それ以降、私の中では瞬時に起きたこの出来事が「一流」と「超一流」をイメージする時の代表的なものになった。

私たちは誰もが、何に対しても、初心者から始まり***流、三流、二流、一流そして超一流への道の前に立っている。
一般的な評価はともかく、大事な事は絶対評価は無いと言う事。
上記の例も、私個人が何にしても次へのステップアップはそう容易いものでは無いと自分を戒めたり慰めたりする為の一エピソードに過ぎない。 

社会の中での多くの役割は、例えば、課長、部長、社長のように段階的に変化をするがそれだけでは能力は変化しない。
この事も上記の例は端的に教えてくれているように思う。
ブルーノ・ジャコメリはF2からF1に段階的に上がったが、必ずしも上記エピソードが原因だけでなく残念ながらF1では活躍できなかった。 

最後に、色々な判断を概念的な座標軸で行うのは難しい我々だからこそ「何が一流で何が超一流か」だけでなく「何が勇気ある行為で何が卑怯な行為か」「何が親切で何がそうでないか」等を自分なりの具体的イメージとして持っておく事を勧めたい。

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