コラム

大学教育の立て直しを考える (上)
シンポジウムで出た大学教育現場の惨状

ピラミッド型を崩せない大学ヒエラルキー
さる7月18日に東京・プレスセンタービル10階の大ホールで開催された
「大学教育の立て直しを考える」(主催・認定NPO法人21世紀構想研究会)をタイトルにしたシンポジウムでは、
大学の教育現場は国際競争力低下の歯止めがかからず、
中国、韓国などかつての後発国にも抜かれていく現状が次々と示された。

大学教育は、日本がいま抱える課題の中でも将来の国家の命運にも関わってくる最大のテーマである。
シンポジウムの討論をもとに2回にわたって報告し、ともに考えるきっかけとしたい。

シンポジウムは、安西祐一郎(日本学術振興会顧問・公益財団法人東京財団政策研究所所長)、
黄鴻堅(ウイ ホンキエン、元麻布大学獣医学科教授、JSTさくらサイエンスプログラム・アドバイザー)、
各務洋子(駒沢大学学長)とモデレータの橋本五郎(ジャーナリスト、読売新聞特別編集委員)さんの4人。

発言の中で象徴的な言葉は、
安西氏が語った日本の大学は東大を頂点とするピラミッド型に層化された強固な現状である。
これを崩す新たな大学価値観をつくる必要性に言及したものだ。
後述するが「これを崩すのは容易ではない。
社会から大学・高校へと逆流する方向で変えていく方法がある」との考えを示した。

旧7帝大とは、明治維新以降、日本を近代国家にするために
政府が1886(明治19)年に帝国大学令によって順次設立していった各地の帝国大学のことである。
設立順に東大、京大、東北大、九大、北大、阪大、名古屋大となり、
戦前あった京城帝国大と台北帝国大は敗戦とともに消滅した。

学術研究を発展させるために政府が拠出している
競争的研究資金である科研費(科学研究費補助金)の2021年度の配分額を見ると、
多い順から東大・京大・阪大・東北大・名古屋大・九大・北大となっている。
公正な評価基準、査定に従って国が配分している研究費だが、
旧7帝大が依然として上位を独占している現状は、
明治以来の高等教育施策がいまなお、続いているように見えてしまう。

 

白熱した討論が展開されたシンポジウム

不愉快な層化したグループ呼称
東大を頂点とするミラミッド型大学の層化は、大学のヒエラルキーでもあり、
受験戦争で定型化されてきた偏差値史上主義の産物でもある。
シンポジウムでそれをズバリついたのは、
マレーシア国籍の黄鴻堅(ウイ・ホンキエン、この稿ではウイと表記)先生である。

過度な受験戦争が生み出した偏差値至上主義が、
大学教育だけでなく、日本社会全体をゆがめているもので、
大学を実質的に差別化し、グループ化した呼称であると指摘した。

この呼称は、ほとんどの人が知っているだろう。
「旧7帝大」、「GMARCH」、「日東駒専」、「早慶上理UCA」、「関関同立」、「産近甲龍」、「大東亜帝国」・・・・。
旧7帝大グループはさておき、こうした呼称を不愉快に思っている学生・社会人は多いのではないか。

ネットでは、日常的にこの呼称が流れており、一部のメディアでも使っている。
この日、ウイ先生は、あえて言及しなかったが、
こうしたグループでひとくくりにした中に入らない「Fラン大学」と呼ばれる大学がある。

日本には、国公私立大学が807あるが、偏差値でグループ化された大学はほんの一握りであり、
偏差値が50未満とされる大学は「Fランク大学」あるいは「Fラン大学」とも言われている。
FはFreeの意味のようだが、ようするに誰でも容易に入学できる大学と勝手に決めて言っていることだろう。
これほど失礼な言い方はない。

ウイ先生が発表したパワーポイント

大手予備校が言い始めてから定着してきたようで、受験産業のゆがんだ商業主義の思想からでたものだろう。
ウイ先生は、その事情を知っていただろうが、この日のシンポジウムではあえて、ここには触れなかった。
あまりにひどい言い方だからではないか。

それぞれの大学には、教育方針があるし建学の歴史、経営哲学などがある。
それを無視して単に偏差値という数字だけで層化した呼称は使用するべきではないとし、
ウイ先生は「不使用運動」を提唱している。

筆者も同感である。
偏差値だけでこうしたグループ化した言い方を当然のように使用しているのは
世界でも日本だけだろう。
大学教育を愚弄した恥ずべき言い方である。

眼を覆う日本の大学の凋落ぶり
日本社会と大学の停滞ぶりは、2000年以降から始まっている。
その現況を語ったのが各務先生である。
各務先生は、各種の統計をもとに「日本危うし」を語ったもので、項目別に記載してみる。

・IMD(国際経営開発研究所)の世界競争力の日本の順位は、
 1993年に2位だったものが、2023年に35位に下落。
・因子レベルの国際順位は、インフラ23位、経済26位、政府42位、ビジネス47位。
・男女格差(ジェンダーギャップ)指数を見ると146カ国中138位。
・日本のデジタル競争力は、29位。
・日本の国際人材競争力は、63カ国中で41位。
・世界大学ランキング(2023年)で、東大は39位。
・大学進学率の国際比較では、日本は51%(韓国71%)。
・25歳以上の学士課程への入学者の割合は、日本は2%でOECDの中でも極端にすくない。
・学士・修士課程の留学生の割合は、OECD平均7.8%に対し、日本は2.9%。
・人口100万人あたりの博士号取得者数は、韓国の3分の2。
・人口100万人あたりの修士号取得者国際比較で
 日本は、フランス、韓国の3分の1、米独英の5分の1以下。
・企業の博士号取得者の国際比較を見ると日本は、イタリア、台湾、トルコなどより低い。

 

人口100万人当たりの修士号取得者数の国際比較

こうした現状の中で駒澤大学は、
デジタル化の推進による大学のマネジメント改革やダイバーシティ(多様性)の尊重による
個を活かす大学に取り組んでいる現状を報告した。

社会から高校へと逆流させる改革
安西先生が語った社会から逆流させる改革とは、
企業が大学から人材を採用する場合、偏差値で差別化された大学重視の視点で採用することをしないで、
学生の個別能力を見極めて採用し、大学の格差意識を撤廃させていくという方法だ。

具体的な方策までは時間の都合で語られなかったが、こうした採用状況が標準化され
大学の偏差値格差意識を壊す効果があれば、
高校と高校生が大学を選択する際の基準を変えることになり、
現在のような偏差値グループ化で固まっている日本型大学入試制度に風穴を開けることになる。
つまり社会全体でピラミッド型の偏差値構造を崩すことにつながる。

安西先生は、大学教育の構造的問題点の一部をこのように発表した。

現在、大学3年生になると企業のインターン制度が始まり、企業がめぼしい学生の囲い込みに走っている。
これは企業側の自社に都合のいい人材の囲い込みであるが、
学生側にとっては一生の進路を決めることになりかねず、勉強どころではなくなってくる。

大学の名前に影響を受けた新人の採用はしたくないと考える企業も出てきており、
エントリーシートの選別や入社試験では、大学名をマスクして見えない状態で審査している企業もある。

安西先生は、高校生にとって、固定化したミラミッドでは選択肢が乏しくなる。
「ここの大学に入れなければ一生ダメというような状況」ではなく、
入試を受ける大学の選択肢が広がる社会に作り替えていくことを主張した。

(下)につづく

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