印刷屋
先日ある印刷会社の社長さんに会う機会があり、近頃の印刷業界の話をうかがうことができました。印刷会社といっても、規模は小さい所ですので、社長が営業を兼ねてあちこち回っているのです。企業の中にパソコンが普及しており、少量の印刷物なら、自前でコピーしてしまうことが少なくなく、仕事が激減しているそうです。
名刺一つとっても、昔は一文字ひと文字の活字を拾っていたのが、今ではパソコンの出力で美しいものができる時代です。現在のプリンターの技術ですと、少し前の印刷より格段に美しいカラー印刷ができます。活字を拾って作っていた頃には、活字を購入した当初は良いのですが、ある回数使うと、活字が丸くなってしまい。どうしても良く使う字と、滅多に出現しない字では減り方が違うため、同じ活字かと思う位に変わってしまったといいます。
文字がドットやアウトラインフォントでコンピュータの中で作られてしまうのですから、電子的にコピーされるため、品質の劣化がないのです。これは、大変なことで、減ってしまった活字を買い換えなくとも良いわけです。昔の印刷屋は明朝・ゴシックなどといった文字フォントの他に、複数の大きさの活字を用意しておいて、用途にあわせて印刷面を飾っていたのです。この活字をたくさん揃えて、バリエーションを豊かにすることが多様なニーズに対応して商売もうまく進められていたのだそうです。それこそ投資が大変で大手の印刷屋と弱小の印刷屋の差が歴然としてしまったといいます。ところが、我々が家庭で持っているパソコンでも文字フォントは数え切れないほど入っています。文字の大きさだってたくさんあります。出力するにも、素人が見たら印刷屋さんの印刷物と区別が付かないくらい美しいプリントが家庭用のプリンターでもできます。
もう印刷屋さんの登場する機会が少なくなることは目に見えています。印刷屋の社長さんによると大量な印刷物に限られてしまい。しかも、印刷屋に頼んだ以上は、自分の所のプリンタで出力したものより、美しいことも求められるそうです。また、昔のような手書きの原稿は少なくなってしまい、現在は色々なメーカのワープロソフトの文書や図面に、いかに対応していくかが鍵だともいっていました。もう活字よりも、複数のワープロソフトから印刷版下に変換できるソフトの数で受注できる仕事が決まるのだそうです。このように大きな変化が、着実に進んでいるなかで、印刷屋さんは生きる道を探しながら、日々の注文を取ってゆく。こんな世界でもっとうまく立ち回れる仕組みはないのでしょうか。
出版業界では電子出版もはじまっており、印刷の要らない刊行物という概念が浸透しつつあります。世の中のあちこちで従来型のビジネスが崩壊してゆき、新たなビジネスが生まれて来ています。こうなりそうだとか、こうなるべきだとか、こうなっていると良いといった、色々な産業やサービス、ビジネスの行き着く先を、我々の立場で見ることにより、新たな仕組みを再構築し、先取りした発明が生まれそうだなと思いながら帰途につきました。