3Dプリンターに見る技術革新と特許(6)
ノーベル賞も夢ではない発明
3Dプリンターの発明物語と特許について、筆者は思い入れがことのほか強い。それは小玉秀男氏という素晴らしい発明家でありその後弁理士になった方を取材して、世界初のその業績を最初にきちんと紹介したのは筆者だという自負があるからだ。
2000年に上梓した「大丈夫か日本のもの作り」(プレジデント社)で、その顛末を書いている。それが最近になって、小玉氏には国際的な名のある業績賞を受賞してもらいたいという期待感がにわかに高まってきた。
最高の顕彰はノーベル賞であるが、決して夢ではない。最初に原理原則を発明し、その後実用化で世界に貢献した場合は、工業生産に近い原理原則の発見者やその技術の発明者にも、最近はノーベル賞を出しているからである。
もし発明貢献した技術の応用製品の市場が、年間1兆円を超える規模になった場合、ノーベル賞の価値があるといいうのが筆者の予想である。もしノーベ ル賞受賞という栄誉が実現するなら、受賞者は小玉氏とチャールズ・ハル氏というランク賞受賞者のコンビになるだろうと予想している。
基本特許が切れて実用化が爆発的に広がる
3Dプリンターの基本となる特許は、次々と切れたので実用化が爆発的に広がってきた。製薬の世界でもジェネリック薬剤が市民権を得て爆発的にひろ がっていることと似ている。製薬業界では、ジェネリック製薬を「ゾロ品」と呼んで格下に見ていたが、いまでは世界中が認めるようになってきた。
このシリーズの第1回目に書いた中央線中野駅に隣接するブロードウエイ地下にある「あッ3Dプリンター屋だッ!! 東京メイカー×ストーンスープ」で行っていた3Dプリンターコンテストもこのような流れの中で出てきたものだ。
「あッ3Dプリンター屋だッ!! 東京メイカー×ストーンスープ」では、いくつもの3Dプリンターを並べて、製品製造のコンテスト行っていた。
ここにある製品は、いずれも「あッ3Dプリンター屋だッ!! 東京メイカー×ストーンスープ」の3Dプリンターで製造したものだ。金型では製造できない網目透かしなどの造形も簡単にできてしまう。
2013年2月に行われたオバマ米大統領の一般教書演説の中で3Dプリンターに言及した。米国は製造業復活の要として積層造形に注力し、製造業復活 に挑戦しようと呼びかけたのである。すでに2012年8月にはNAMII (National Additive Manufacturing Innovation Institute:全米積層造形イノベーション機構) を創設しており、次世代もの作りへの基盤を作ろうとしている。
3Dプリンターをめぐる最近のニュースを見ると産業現場の技術変革の真っ只中に位置して来たことが分かる。9月2日付け日本経済新聞夕刊は、オー ダーメード携帯、宇宙船部品、住宅部材まで広がっていると報道している。グーグルと3Dシステムズ社が顧客の好みに合わせた携帯電話を作る3Dプリンター を開発したという。
素材も金属、セラミックス、コンクリートなど多彩になり、いずれガラスもこれに加わるだろう。もの作りの中核技術になってきたのである。
従来は、試作品のアウトプットとして活用できるとして脚光を浴びていたが、いまは最終製品の製造装置となってきた。樹脂だけでなく金属素材を使って 製造できるようになり宇宙・航空関係の精巧で少量部品を直接製造する装置として主流になろうとしている。もはや熟練職人も金型もいらない時代になってき た。
3Dプリンターの市場は、3Dシステムズ、ストラタシス社が実用化で先行し、この2社で世界のシェアの70パーセントを抑えている。日本人が発明し、かつては日本のITメーカーなどが興味を示していたがこの技術の実用化で覇権を握ることはできなかった。
米国企業はこの技術の持っている威力をいち早く見抜き、製造業の中核技術まで成長させたところに企業戦略のすぐれた点がある。応用技術の開発で、世界中で新たな開発技術競争が始まり新たな知的財産競争が始まっている。