順調に進展する大学発ベンチャー企業
7年連続で増加を続ける大学発ベンチャー数
先ごろ経産省が公表した「2021年度大学発ベンチャー実態等調査」の結果によると、2021年10月時点の大学発ベンチャー数は、3,306社となり過去最多を記録したことが分かった。
沈滞する大学の研究を危惧する論評を書いてきた筆者にとっては、久しぶりの朗報でもあり、この活動に弾みをつけて日本の産業振興にも結び付くように頑張ってほしいと思った。
グラフを見るとその傾向は一目瞭然である。
大学発ベンチャー数の推移
出典:https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/univ-startupsdb.html
企業数のトップ10はほぼ前年並み
ベンチャー企業数の2018年度から20年度までの3年間を見ると、トップの東大から6位の九州大までは、順位に変化はあるものの顔ぶれは変わっていない。筑波大を除く5つの旧帝大が並んでいる。
ただ20年度に東京理科大が前年度の20位から7位にあげているが、8位から10位までは前年と顔ぶれが同じになっている。トップ10の11大学の内訳は、旧帝大が6、筑波大、東工大、私学の東京理科大、慶應義塾大、早稲田大となっている。
急激に増やした東京理科大は、大学の施設・設備の一定期間貸与、ソフト面では「東京理科大学発」の称号の授与をしている。また創業前や創業初期のマーケティング調査、事業計画書策定、人材紹介、資金調達など会社設立に向けての様々な相談や支援体制の強化をホームページなどで掲出している。
大学発称号を授与する方式は岐阜大学でも採用して大学発企業数を伸ばしており、大学の研究インフラを企業活動に役立てる支援でもあり産学連携の標準化になっていくだろう。
業種別ではバイオ、ITなどが伸びる
どのような業種でベンチャー企業が立ち上がったか。その業種別割合を複数回答可で調べた結果、トップは「その他サービス」1086となっている。2位はバイオ・ヘルスケア・医療機器1022であり、3位はIT(アプリケーション、ソフトウエア)982であった。
バイオ医療関連とIT関連は、21世紀に入ってからの産業変革の動向を反映したものであり、その他サービスもその流れである。製造業などものづくりで隆盛を誇った時代は後退したことがここでも出ている。
トップ3以下は、ものづくり(ITハードウエアを除く)532、環境テクノロジー・エネルギー292、IT(ハードウエア)277、化学・素材分野の自然科学分野(バイオ関連を除く)238となっている。
IPO(新規株式公開)は1社にとどまる
今回の経産省の調査によると21年度にIPOを果たした企業は、東北大学発の株式会社レナサイエンスの1社にとどまった。同社は東北大学大学院医学系研究科の宮田敏男教授らの研究成果を用いて、老化に伴う疾病及びメンタル疾患などの医薬品の開発と実用化を目指している。
2021年9月に東京証券取引所の新興市場マザーズに上場したもので、東北大と連携し、「新型コロナウイルス感染に伴う肺障害を解消する経口薬や慢性骨髄性白血病の治療薬に関し、治験を基に安全性や有効性を確かめ、実用化を目指す」(河北新報報道など)としている。
コロナ禍の時代とは言え、IPOが1社とは寂しい。大学発ベンチャー企業数が増加傾向にあることは嬉しい成果だが、まだ企業活動としての実績は未知数になっている。大学発ベンチャー企業を創設していく基盤が日本でも整ってきたという点ではいいが、これを産業構造の中で存在感を現わすまでに発展できるかどうか。産業界で発展させることは簡単ではない。
経産省の令和2年度産業技術調査事業「研究開発型ベンチャー企業と事業会社の連携加速及び大学発ベンチャーの実態等に関する調査」によると、2021年1月時点で上場している大学発ベンチャー企業は、合計66社となっている。上場を廃止した企業が1社出ている。株式の時価総額は 3兆630億円であり、前年から5,580億円増加したという。
報告書:
https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/start-ups/reiwa3_vc_cyousakekka_houkokusyo.pdf
https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/start-ups/reiwa3_vc_cyousakekka_gaiyou.pdf
2016年ごろから、創業10年未満でのIPOの割合は低下していると報告している。2021年度にIPOした大学発ベンチャー企業は2社だったが、IPOまでともに10年以上かかっている。
一方、調査対象期間(2019年10月-2020年10月)に、企業の合併・買収(M&A)を行った大学発ベンチャー企業は4社であり、前年度から1社減少したと報告している。
M&Aが最も多かったのは、前年に引き続いて「バイオ・ヘルスケア・医療機器」で、 次いで「IT(アプリケーション、ソフトウェア)」「その他サービス」と続いている。
大学発ベンチャー企業は、研究成果をネタに産業活動へと移行するため、博士人材の専門性を積極的に活用して技術開発を推進しているケースが多い。企業活動のレベルアップに寄与していることになり、ものづくり重視の産業基盤から徐々に脱していくことは日本にとって好ましいことになる。