選択と集中
流動化の時代、様々なビジネスで業務を見直し、新たな対応を図ることは何時の世も変わりません。そして投資対象の絞り込み、または人材の配置転換などを行いながら収益の確保に、どこの会社でも皆さん苦労されていることと存じます。
約20年前でしょうか、家庭電気メーカには大きな時代の流れを変える動きがありました。それまでの電気メーカは品揃えの豊富さを競い、どこのブランドでもアイロンから冷蔵庫、テレビなどすべての家庭電気製品を店頭に並べておりました。
現 在でも行われていますが、この当時はOEMといわれる相手先のブランドを付けることで設計や生産の効率化を図ることが盛んに行われておりました。つまり、 ある会社が多くのメーカの製品を同じラインで作り、中身は同じだが、微妙にデザインを変えたり、ブランドラベルだけ張り替えたりして販売先のブランドが多 様な品揃えを確保して、資源を集中する戦略が様々な商品や分野で行われていました。同じブランドでも価格帯で高額なものと安価なものを別のメーカが作り相 互に供給しあうなどということも実際に行われていたのです。
実際にある会社の工場を見学したことがあるのですが、ある商品は、そこの会社と 別の会社2社でしか作れない特殊な技術が必要な商品で、他のメーカでは製造できなくても品揃えを確保しなくてはならないという要望でOEMを行っていまし た。見学した工場では日本で流通している商品の7割を作っているとのことでした。そして一般に工場見学できるラインでは自社製品を作り、パーティションで 区切られた裏のラインでは全く別のメーカのモノを複数混在して作っていた現場を見たことがあります。
こうした時代を過ごして、現在を見ると、多くのメーカが自らの得意分野だけを作り、製品系列としての品揃えもない選択と集中が行われております。
典型的な商品に携帯電話があります。2008年には端末が1億台を超えたのですが、当時は日本一カ国で10社を超える様々なメーカが作り、開発競争が極めて激しい商品といえました。現在は日本のメーカでは数社が供給しているに過ぎません。
こ の携帯電話からの撤退が一番早かったのは三菱電機です。2008年の3月でしたが、当時Dの携帯として根強い人気があり、シェアもけっして小さくなかった のに何故なのかと話題になりました。三菱電機は自動車電話などの移動電話の時代から参入していたので、まさかといわれたのです。
原因は端末 価格が下落して原価削減に追い付かなかったのではと、もっぱらの評判でしたが、実は背景に特許が絡んでいたのです。特定の特許ではなく標準化された技術 で、複数の権利を使わざるを得ず、原価に占める特許実施料の支払いがコストダウンをすればするほど目立ってきたとのことです。当時を知る人の話では、いく ら作っても実施料支払いで他社を潤すだけだから、撤退せよとの英断がなされたとのことです。
通常は事業売却やOEM供給に切り替えるのでしょうが、完全撤退でした。現在の三菱電機は利益率が高く、こうした選択と集中が功を奏しているといえるのでしょう。