進化する船は巨大な知的財産権のかたまりか
自動車は約7万件の知的財産権に囲まれたハイテク装置
私たちの身の回りにあるハイテク製品は、多数の特許、実用新案、意匠、商標などの知的財産権に守られている。たとえば、日常的に持ち歩いている携帯電話は、著作権まで含めると1万件以上の知的財産権のかたまりである。
大分前になるが、パソコンのプリンターはどのくらいの知的財産権に守られているか数社のメーカーに聞いたところ、大体、8000件だった。自動車は、一体どのくらいあるのだろうか。自動車業界の技術者に聞いても、よくわからない。
自動車部品のグローバルサプライヤーである日本ラインツ社の有馬徹部長は、次のように推計する。
車1台あたりの部品数は、1万5000点から2万点。部品1点あたりに関連する知的財産は10件~20件。そうすると車1台あたりに関連する知的財産は15万件~40万件となる。
このうち実際に、車に使用される件数がこの1/3から1/5とすれば、車1台あたりに使用される知的財産権数は、3万件~13万件程度ではないか。筆者は中をとって7万件程度と推定することにした。
ハイテク化した船にはどのくらいの知的財産権があるのか
今年の1月、日本郵船の新春メディア懇親会に出席したとき、広報資料として掲示されていた最新の船のハイテク化を見て驚いた。最近の船は燃費節約、環境対応でハイテク技術に囲まれており、第一感として知財のかたまりではないかと思った。
太陽光発電で航行する「アウリガ・リーダー(Auriga Leader)」
太陽光モジュール328枚を搭載し、出力40KWである。
たとえば、三菱重工業神戸造船所で建造し2008年12月に竣工した、太陽光発電モジュールを搭載した「アウリガ・リーダー(Auriga Leader)」は、技術革新を起こした船舶として評判になった。
船舶がハイテク化してきたのは、燃料の節約や環境負荷の対応を迫られているからでもある。NOX、SOX、CO2など排気ガス対策、フロンやハロンの排出対策、船底塗料の溶出、船底にたまった汚水の排出、バラスト水の張排水対策などである。
国際海運の2007年のCO2排出量は、約8.5億トンで世界全体の約3パーセントを占めている。
国際海事機関 (IMO:International Maritime Organization)で定めているSOXの規制では、一般海域では現行4.5パーセントを2012年からは3.5パーセントに、2020年からは、0.5パーセントに低減となっている。
このような規制値をクリアするためにも、日本郵船は長期展望に立った船舶の技術革新に取り組んでおり、水の抵抗抑制や低燃費などによる省エネ、環境負荷低減、運航・物流の改革に取り組んでいる。
運航・物流改革はフリーとモニタリングシステムと呼んでおり、船舶の運航状況を陸のオペレーターがモニター・情報を共有し、省エネ運航を実現するために船陸協業で行うシステムである。
日本郵船の「NYK Cool Earth Project」の 長期ビジョンによると、2050年までに世界の温室効果ガス排出半減に貢献するために、2013年までに2006年度比原単位でCO2を最低でも10%削減の目標を掲げている。
このような船舶のハイテク化では、多数の特許技術やノウハウなどの知的財産権が生まれているはずだが、日常的にはほとんど話題になるわけではなく、気がつけばハイテク船に生まれ変わっているということになる。
三菱重工船舶・海洋技術部開発計画課開発第一チーム統括の上田直樹氏の推計によると、数万件から10万件程度であり、自動車並みと考えていいだろうとしている。
日本郵船は、この春から運航時の燃費と二酸化炭素の排出量を10パーセント削減し、水より抵抗が少ない空気の泡を船底に吹き付けて抵抗を減らす技術導入を目指している。すでに多くの知的財産権が生まれているだろう。