論文と特許情報
特許の調査をやっている人から聞いた話です。研究や開発に着手する前や、新たなビジネスを始める前に、他社がどのような開発を行っているか、どんな技術がすでにあるのかを調査することは、常日頃から行われていることと思います。
我々も、こうした調査や検索の支援を行うことが少なくありません。調査したテーマや内容を明らかにすることはできませんが、特許の調査を通して、自社と他社の位置づけや、技術の開発動向が分かることは愉快なことです。
だいぶ前ですが、ある調査の中で、ちょっと面白いことがありました。開発された関連製品の部品の特許を調べた時のことだそうです。この技術はヨーロッパの某研究所の人がどうも世界で一番最初に発表して、もちろん特許出願をしていたものです。
論 文の受付日が1988年8月24日で、発行日は11月21日です。特許の出願日は1988年6月16日でした。これに対し、日本のA社はこの特許の出願日 と論文の発行日の間の7月21日に関連の特許出願を3件していました。この出願の技術は相互に似た技術だそうです。日本出願はヨーロッパの研究所の特許に 比べると周辺の細かい工夫を押さえたものだそうで、技術的な詰めが甘いとのことでした。
最初の特許が日本で公開になったのは1990年3月1日でした。すると日本のB社が公開から2週間ほど後の3月16日に、その改良と思われる特許を出願し たというのです。偶然だったかも知れませんが、調査した人によれば、公開公報を見てから改良特許を出したのではないかと指摘されていました。
こ れらのことが事実だとすれば、なんとも情報を巡るすさまじい、動きがあったように思うのです。A社は独自に開発したものか、何かの情報を掴んで細かい所を 出願したのかも分からないのですが、なぜもっと基本的なところを押さえなかったという疑問が残ります。また、B社は特許の公開公報をつぶさにマークしてい ることになるのです。相互の発明は結構ギリギリのところで、少しづつ異なるそうで、技術の開発や論文の発表が同時進行型で行われていることを物語っていま す。
こんなことは日常茶飯事で、起こり得ることだとは思うのですが、ちょっと心配なことがあります。インターネットです。このインターネットを通して多くの研 究成果が流通したり、質問に答えたりと大変に結構なことなのですが、日常の開発成果がチョコチョコと発表され流通すると、特許出願の前や論文に書くより前 に、結果として他人に課題や解決のヒントを教えてしまった、ということにならないかどうかです。特許や論文となると身構えて書きますが、インターネットの フォーラムやSNSの仲間内の情報交換となると気安くという安易な気持ちにはならないでしょうか。
発表の前に特許出願を済ませておくこと は、既に疑う人はいないと思いますが、素晴らしい成果が出ると、少しでも早く世に問いたくなるのが人情です。ネット社会の発達で、世界中に瞬時に情報は伝 わります。気軽に発表の機会があっても、特許出願をしてからにと我慢しないと、虎視眈々と情報を狙っている人がいるかも知れないのです。