コラム

自民党が知財改革で取り組む本気度

自由民主党・知的財産戦略調査会(会長・保岡興治衆議院議員)「知財紛争処理システム検討会」(座長・三宅伸吾参院議員)は、日韓にも追い抜かれていると一部で指摘されている日本の知財制度強化のために、改革に取り組む姿勢を強めている。

これまでの知財改革に積極的な意見を持っている有識者や知財関係者を検討会に呼んで意見を聴いており、近く改革のための提言を発表する予定だ。

これまでの検討会での意見表明とその場での論議や自民党の知財有力議員の意見などから、提言の方向を予想してみた。

厳しい現状認識から危機感を持った

自民党知財調査会が、現在の日本の知財現場に対する認識は、検討会の論議から次のようになる。

まず、日本の特許侵害訴訟数は極めて少ないことだ。訴訟が多いことがいいことではないが、知的財産が重視される時代を迎えて相応の紛争があってしかるべきだという認識だ。つまり知的財産の権利意識が薄いのではないかという警告でもある。

さらに紛争処理システムが有効に機能しているとは言い難いと認識している。知財の権利意識が低いのは、大企業同士の話し合いで解決する昔ながらの日本的紛争解決という背景もあるだろう。

自民党は、個人発明家、ベンチャー・中小企業においては、特許訴訟一般の勝訴率、賠償額が低いと指摘している。侵害訴訟に勝っても、代理人の弁護士費用も出ないというケースが多い。これでは訴訟を諦め、泣き寝入りする中小企業もあるという認識だ。

権利が正当に守られないことになれば、特許を取得しても意味がなくなる。アメリカ企業は、すでに日本での特許取得をしない方針を出しているところもある。韓国の大手企業も、日本への特許出願を抑える方針と聞く。侵害訴訟の賠償金支払い額は、日本はアメリカの大体100分の1程度である。アメリカから見ると、弁護士費用も出ないような国では訴訟をしても意味がないということになり、特許を取得する意味もなくなってしまう。特許出願件数の減少も国内より外国重視の傾向があり、その背景にはこうした権利意識の変化もあると思われる。

【日・米・中・韓・独の特許出願件数の推移】

損害賠償額を引き上げるべきだ

自民党が目指している重要な点のひとつは、侵害訴訟での損害賠償額の低さである。日本では、特許権の侵害についても刑事罰が規定されてはいるが、訴追されることはほとんどない。

侵害された場合の損害補てんは、民事訴訟で勝つよりないが、損害賠償は十分とはいえない。さらに裁判所は、損害賠償を限定する解釈をしている。また、証拠開示でも被告側が有利になるような訴訟指揮がみられることも認識しているようだ。

こうした現状を改善しないと日本の知財制度は、いわゆるガラパゴス化して世界の潮流から遅れることになるという認識だ。

また、裁判所の情報公開も今の時代では不十分だという認識も持っている。特許侵害訴訟の動向は、訴訟当事者だけでなく、特許の有効・無効があるので利害関係者は多く、いずれも高い関心を集めている。

しかし判決しかネット公開されておらず、国民の知る権利が十分に尊重されているとは言い難いとの認識にたっている。

近く検討会から提言を発表

こうした課題については論議を煮詰めており、近く自民党から抜本的な制度改革案が発表される予定だ。具体的な提言を明記したものであり、知財制度改革ではかつてない内容になるという。

開会中の通常国会で関連法案を成立させ、一刻も早く世界の潮流に遅れの出ないように対応することを期待したい。

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