コラム

米国特許商標庁(USPTO)の特許登録件数から見た世界の企業の知財戦略

米国特許登録は大幅増加傾向に

2012年に米国特許商標庁(USPTO)で登録された特許の企業別件数が発表された。
特許のデータベースや分析サービスを提供している米国のIFI CLAIMS® Patent Services によると上位20位は次のようになっている。

米国特許商標庁(USPTO)の特許登録件数上位20社

順位 企業 2012年
1 IBM(米国) 6478
2 サムスン電子(韓国) 5081
3 キヤノン(日本) 3174
4 ソニー(日本) 3032
5 パナソニック(日本) 2769
6 マイクロソフト(米国) 2613
7 東芝(日本) 2447
8 鴻海精密工業(台湾) 2013
9 GE(米国) 1652
10 LG電子(韓国) 1624
11 富士通(日本) 1535
12 セイコーエプソン(日本) 1461
13 日立(日本) 1436
14 リコー(日本) 1410
15 ヒューレットパッカード(米国) 1394
16 GM(米国) 1377
17 クアルコム(米国) 1292
18 インテル(米国) 1290
19 トヨタ自動車(日本) 1285
20 ブロードコム(米国) 1157

 

USPTOへの総登録件数は、前年2011年よりも約13パーセント増加しており、総数では過去最多の25万3155件に達している。上位50社のうち前年比10パーセント以上の登録件数を伸ばしている企業は32社になっている。

企業別登録件数のトップは、米国IBM社で連続20年間、トップの座を譲っていない。サムスン電子が2位となりキヤノンが3位で、この順位は前年と同じ。業績不振のソニーが前年の7位から4位に浮上、代わって4位だったパナソニックが5位に後退した。

注目されるのは台湾の鴻海精密工業(ホンハイ社)である。前年9位から8位になり順調に増加している。逆に日立は前年10位から13位に後退している。この2社については、後半で戦略について分析をしてみたい。

上位20位の国別・地域別色分けは、日本9社、米国8社、韓国2社、台湾1社となっている。IT産業革命が勃発してから後進国、途上国でも知財戦略 はおろそかにできなくなったため、特許出願、登録件数は世界的に増加傾向にある。ただし日本は、近年、国内出願件数は減少傾向から横ばいになっており、減 少した分は外国への出願に向かっているようだ。

3年前と比較するとホンハイ社が急増

米国特許登録件数の推移は、世界の企業の消長とも関係がある。過去にも企業活動が隆盛だった企業は登録件数でも上位にランクされていたが、企業業績が下降線に向かうと登録件数も減少する。

そこで、3年前の2009年の登録件数と2012年の登録件数を比較してどのようになっているかを調べて見た。ここでは上位15位までのデータで比較した。

2012年のアメリカ特許商標庁(USPTO)への特許登録件数トップ15位の2009年登録件数との比較

順位 企業 2012年 2009年 2012/2009年
1 IBM(米国) 6478 4887 1.32
2 サムスン電子(韓国) 5081 3592 1.41
3 キヤノン(日本) 3174 2241 1.42
4 ソニー(日本) 3032 1656 1.83
5 パナソニック(日本) 2769 1759 1.57
6 マイクロソフト(米国) 2613 2929 0.89
7 東芝(日本) 2447 1669 1.47
8 鴻海精密工業(台湾) 2013 666 3.02
9 GE(米国) 1652 1379 1.20
10 LG電子(韓国) 1624 1064 1.53
11 富士通(日本) 1535 1615 0.95
12 セイコーエプソン(日本) 1461 1328 1.10
13 日立(日本) 1436 2146 0.67
14 リコー(日本) 1410 985 1.43
15 ヒューレットパッカード(米国) 1394 1269 1.10

 

これを増加率で並べ直してみたのが次の表である。

 

企業 2012/2009年 順位
鴻海精密工業(台湾) 3.02 1
ソニー(日本) 1.83 2
パナソニック(日本) 1.57 3
LG電子(韓国) 1.53 4
東芝(日本) 1.47 5
リコー(日本) 1.43 6
キヤノン(日本) 1.42 7
サムスン電子(韓国) 1.41 8
IBM(米国) 1.32 9
GE(米国) 1.20 10
セイコーエプソン(日本) 1.10 11
ヒューレットパッカード(米国) 1.10 12
富士通(日本) 0.95 13
マイクロソフト(米国) 0.89 14
日立(日本) 0.67 15

 

この表で見ると、鴻海精密工業(ホンハイ社)が図抜けて増加させている。このように上位にランクされる大企業で、3年間に特許登録件数を3倍以上に急増させた実績は、おそらく史上初めてではないだろうか。

増加率で見ると、上位は日本勢の健闘が目立っている。業績不振に陥っているソニー、パナソニックが大健闘しているのは心強い。こうした技術が近い将来花が開くと期待したい。

東芝、リコー、キヤノン、セイコーエプソンも順調な推移ととらえたい。その一方で富士通と日立が減少している。特に日立は大幅に減少した。日立は業績が不振ではないだけに、米国での特許戦略に何らかの変化があったのではないかと思われる。

日立の戦略を分析する

日立の特許出願は、3年前の2009年には国内出願比率が53パーセント、国外が47パーセントだった。それが2011年には逆転して国内45パーセント、国外55パーセントとなった。PCT出願も13パーセントから20パーセントへと急増した。

日米の割合が減少した分、PCT出願が増加した。これは日米中心だったこれまでの特許戦略を、PCT制度を利用したアジア・新興国の特許戦略を強化したものだ。

半導体、液晶パネル、HDDなどから社会イノベーション事業として産業・交通・都市開発システム、情報・通信システム、電力システムにシフトしたものだ。事業を守るための差別化、牽制、事業の自由度の確保へシフトしていることが分かる。

同時に事業のグローバル化に伴って特許のグローバル化を推進している。エレクトロニクス量産品事業は、ライセンス獲得、支払低減、米国特許重視へと舵を切っているようだ。

日立が発表している知財創生活動の注力分野として、①高信頼クラウド、②スマートグリッド、③エネルギー(石炭火力技術など)、④グリーンモビリティ(インバーター・モーターなど)をあげ、社会イノベーション事業を支える技術のトップを目指すとしている。

事業を守る知財の活用としては、集束イオンビーム観測加工装置(FIB)のマイクロサンプリング技術をあげている。オンビームと微小プローブを用い て、バルク試料の任意の位置からマイクロサンプルを摘出することができるもので、超細密の位置精度で直接、数マイクロメートルから数十マイクロメートルの サンプルを取り出すことができる。

発表以来、電子顕微鏡用薄膜試料の作製に欠かせない装置として高い評価となっている。このような技術アップによる特許戦略に舵を切ることで大量出願・登録時代とは違った知財戦略に切り替えたように思われる。

自社製品を販売してきたホンハイ社

史上まれに見る登録数急増をさせているホンハイ社には、どのような知財戦略があるのだろうか。

同社は、家電などの受託生産のEMS(Electronics Manufacturing Service)専業企業である。最大の顧客は米アップルであり、同社のスマートフォン(スマホ)の製造を一手に引き受けるなどIT産業革命の波に乗って 2000年代から急激に業績を伸ばしてきた。

同社は台湾の町工場から出発してこの30年間で世界の代表的な製造企業に躍進した。ホンハイ社は、アップル社の製品だけでなくモトローラやノキアの携帯電話機、インテル社のマザーボード、ニンテンドーのWii、DSなど、デル社、HP社のPCなどを受託生産してきた。

いまや売上10兆円、従業員100万人の巨大製造企業にのし上がってきた。

ホンハイ社の企業業態は受託生産であり、日本的な言い方をすれば製造業の下請けである。自社で開発した製品を製造するのではなく、お得意様企業の製品を製造してやることが本業となる。本来なら自社で開発することは必要ないと考えてもいい。

ところが、ホンハイ社は米国特許登録件数で、この5年ほど前から急速に件数を伸ばしてきた。そのころから同社は、独自に製造品を開発して販売するのではないかと予想していたが、その予想は当たった。

先月、ホンハイ社は台湾傘下の家電量販店で、自社製品として60型の液晶テレビを発売すると発表した。米国の家電量販大手のラジオシャックとも提携しており中国でも拡販するという。

中国での人件費が上昇してきため受託生産の利益率が低下してきたので、事業モデルを製造販売にも注力して新たな成長を目指すとしている。

しかしこれは表向きの表明であり、ホンハイ社は相当前から自社製品の製造を目指して技術開発をし、特許出願・登録を増やしてきたことは間違いない。これは製造業の宿命である。他社の下請けだけで、言われた通りの製品を製造するだけでは物足りなくなる。

また製造ラインを実際に運用していれば、生の技術に触れることができるし、そこから改良改善もできるようになる。ならば自社でも開発できるのではないかと考えることは自然である。

これからホンハイ社は、自前で研究開発に注力して知財を蓄積し、自前で築いた小売り網で自社製品を販売する事業を展開することになるだろう。家電やIT業界の台風の眼になる可能性もある。

以上

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