コラム

科学技術政策の視点をどこに置くべきか

古川元久科学技術担当相の私的有識者研究会(吉川弘之座長)がこのほど、総合科学技術会議(議長・野田佳彦首相)の改組に取り組み、新たに顧問を設 けるよう求めた報告書素案を作成した。改組後には、科学技術政策の企画立案や総合調整などで強力な権限を持たせて、科学技術政策の司令塔の機能を強化しよ うとする改組である。

日本は、1995年から科学技術基本法を制定し、それに伴って第1期科学技術基本計画を策定した。日本は科学技術創造立国が国是であり、科学技術振興によって豊かな国つくりに取り組むことが基本的な施策方針であった。

1995年当時、日本の産業競争力が陰りを見せ始め、経済成長も思うように伸びなくなっていた。特許出願件数も、40万件前後で推移していたが、企 業の間では旧来からの特許戦略から抜け出ることができなかった。特許出願件数は、その後も横ばいで推移している。日本企業の特許戦略は、国内ライバル企業 を意識したものが大半であり、国際的に独占、覇権を握るような戦略で展開するものではなかった。

科学技術基本計画は、新しい時代に先駆けて日本全体の研究開発部門を活性化しようとする意気込みを持ち、施策として実現することを目指したものであり、その方向性は間違ってなかった。

政府は2001年からの省庁再編に伴って総合科学技術会議を発足させ、第2期科学技術基本計画へと引き継いでいった。

今回の改組は、このような流れから課題を抽出し、現行の総合科学技術会議の司令塔機能を強化することが大きな狙いとなっている。素案によると「科学 技術イノベーション戦略本部」の設置を目指しており、本部長は首相をあて副本部長は科学技術イノベーション政策担当相として、メンバーには関係閣僚と学 会、産業界の有識者で編成する案になっている。

戦略本部は、各府省に対して科学技術政策の方針を示す一方で、予算配分の指導性を発揮できるようにする。調査分析の予算を持たせることによって、シンクタンクの役割を持たせることも狙っている。

また「科学技術イノベーション顧問」(仮称)の設置も盛り込んでいる。この顧問の役割は、震災などの緊急時に発生する科学情報を、一元的に首相や関係閣僚に提供する役割も担うことになっている。さらに国会の同意を得て任命されるべきだとしている。

科学技術政策に関する財政支出は拡大傾向を続けており、社会保障関係費を上回る伸びとなっている。実額ベースで見ても、平成22 年度の科学技術関係予算は3兆5723億円となり、そのうち主要な経費である科学技術振興費は1兆3321億円となっているが、成果はなかなか見えてこな い。

たとえば、日本の経常収支の内数である「特許等使用料」は急増しているが、これは製造企業が海外へ生産拠点の移転させたことによる経営指導料収入の 増加が大半になっている。日本では産学連携の推進を文部科学省、経産省などが力を入れてきたものの、グラフ1で見るように大学のライセンス収入は、思うよ うには伸びない。

日米での比較でみるようにアメリカの大学のライセンス収入と日本そのそれとはなぜこれほどまで差があるのか。その分析と対応策も不十分とされている。

 

グラフ1 日米大学のライセンス収入の比較

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
アメリカ 96,710 132,557 125,176 154,857 151,405 149,843 176,352 145,259 244,920
日本 252 543 543 639 801 774

出典:米国AUTM、文部科学省資料

また理科離れに見られるように、日本全体の理系マインドが低下していることが危惧されている。グラフ2は、「科学的発見」に対する関心度を指標にして国際比較したものである。先進国の中でも、日本は非常に低く科学的発見に無関心層が多いことを示している。

スマートフォンなどにみられるように、身近に使っているツールは最新技術を駆使したものが多く、一般の人にとって技術に対する理解度は難しくなっている。一方で科学を文化として位置づけ、広く理解させる科学リテラシーの向上に取り組む必要性も出てきている。

このような課題を解決することによって日本の研究開発のレベルを引き上げ、研究開発でも世界のリーダーを保持することが期待される。科学技術の推進では予算や組織の改組だけではなく、個別課題をどのように解決するかその視点を問われていることも忘れないようにしたい。

 

グラフ2 「科学的発見」関心度の国際比較

指数得点
フランス(1992) 68
アメリカ(1999) 67
ギリシャ(1992) 67
イタリア(1992) 65
カナダ(1989) 63
オランダ(1992) 63
デンマーク(1992) 62
EU(1992) 61
スペイン(1992) 58
ベルギー(1992) 53
ドイツ(1992) 51
アイルランド(1992) 49
イギリス(2000) 47
ポルトガル(1992) 46
日本(2001) 44

出典:文部科学省「科学技術に関する意識調査」

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