コラム

知財立県を目指す福島県の挑戦

立ち上がった元日本弁理士会会長
2005年に日本弁理士会会長、その後内閣府知的財産戦略本部員を務め、特許業務法人創成国際特許事務所会長の佐藤辰彦弁理士が、郷里の福島県の知財活動を先導しており、福島県がにわかに知財活動県として全国から注目を集めている。
佐藤先生は、2017年8月4日から毎週金曜日に福島民報新聞に「知財ノート」のコラムを執筆しており、このほど100回を超えた。知財の実務や新たなテーマを解説・紹介する内容で、地方紙に知財コラムを長期連載するのは珍しい。
このコラムは毎回、知財普及のために重要な役割を発揮している。

 

佐藤先生のコラム「知財ノート」バックナンバー掲載サイト
www.sato-pat.co.jp/contents/pressrelease/co_press/press2017-1.html

コラムを書き始めたのは2年前である。佐藤先生の紹介で内堀雅雄福島県知事が日本弁理士会に依頼して、福島県郡山市で日本弁理士会主催の「知財広め隊」第1回のセミナーを行った。その年、日本弁理士会が全国各地で2年間で100回の中小企業経営者向けのセミナーを開催することを知った内堀知事が、第1回は福島県でやってほしいと要望し、日本弁理士会もそれを受け入れて実現した。
知財とはあまり縁がないと思われていた福島県だが、なんとセミナーには266人が参加し、会場は立ち見ができる盛況となった。その直後にこのコラムがスタートした。
それをきっかけに福島県や郡山市などがにわかに知財活動に乗り出し、別表にあるように次々と活用支援が広がってきた。

支援の相乗効果でたちまち知財立県への挑戦へ
福島県がその秋には補正予算を組んで知財活動を支援し、郡山市が日本弁理士会と支援協定を結ぶ。会津大学には特許庁審判官が派遣され、さらに特許庁と郡山市が連携し、金融機関向けのセミナーも開催された。
福島県の太平洋側に位置する13市町村の中小企業は、震災復興特区を活かして特許庁料金が4分の1に減額されることになる。
特許庁、東北経済産業局、金融庁、日本弁理士会に福島県と県下の市町村が加わり、たちまち日本ではこれまで例のない知財活動特別県になってしまった。

「知財広め隊」第1回ミーティングは、参加者が通路まであふれた

魅力的な構想と重厚な支援事業
佐藤先生から提供された基本的な施策のカテゴリーと活用支援事業を見ると、魅力的な構想と重厚な支援事業で埋まっている。
2019年7月から年度内の2020年3月までに予定されている知財イベントを別表で見ると、21の開催イベントがひしめいており、そのうちセミナー・講座・塾が半分の10イベントもある。これらはいわゆる知財の座学であり、福島県全体が知財漬けになっている。

福島県の知的インフラは途上にある
佐藤先生に取材を申し入れ、これまで僅か2年間でかたまってきた知財活動の現場を語ってもらった。
筆者は、長いこと文部科学省の地域イノベーション施策の委員を委嘱されてきたので、日本全国の主な産学連携現場の状況を知っている。
福島県は、大震災の被災県でもあるので、国としても研究と産業活性化への取り組みは力が入っていた。しかし全国的なレベルから見ると、有力な大学が少なく産業現場に寄与できる知的インフラはいま一つ力強さを感じさせていなかった。
どこの地域でも長い間に蓄積された研究・産業のインフラにはそれなりの特徴がある。だから急に施策を企画立案しても軌道に乗せるのは容易ではない。ましてテーマが知財である。ごく簡単に言えば、発明・創造する人がおり、それを権利化する仕組みが準備されており、さらに権利を実施する産業現場がなければならない。
座学で知識を磨いても、実務でその知識を発揮できなければ効果は半減する。
こうした率直な筆者の感想をぶつけてみたが、佐藤先生はさすがに「福島方式」とも言うべき戦略を準備していた。その代表が「川崎モデル」の導入である。

2019年1月31日開催の「知財セミナーinいわき」でスピーチする佐藤先生

川崎モデルを福島県に導入する
川崎モデルとは、神奈川県川崎市で取り組んでいる大企業と中小企業の知的財産マッチング支援施策である。川崎市は代表的な工業都市として栄えてきた。多数の大企業とその周辺に多数の中小企業がある。大企業には保有する特許でも未使用の休眠特許が多数ある。これを開放してもらい市が中小企業に橋渡しをし、中小企業の製品開発や技術力の高度化、高付加価値化を支援する事業に乗り出した。
支援は大企業や研究機関と中小企業が知財を通じて相互に交流する場を市が提供するとともに、川崎市産業振興財団の知的財産コーディネータが、マッチングから契約交渉、事業化まで一貫したサポートを行うものだ。
コーディネータによるサポートの具体的内容は次のようになっている。
•製品像・事業化計画の具体化
•大企業とのマッチング
•契約交渉の代行と手続き支援
•製品化支援(開発パートナー探し、性能評価など)
•資金獲得支援(公的助成制度活用など)
•事業化支援(広報媒体作成、特許等出願、販路開拓など

川崎モデルを進展させた福島モデル
佐藤先生の縁で福島県でもこの川崎モデルを知り、大企業の開放特許を県内の中小企業に導入し、知財活動を活性化させようという戦略に取り組むことにした。広い意味のオープンイノベーションでもある。川崎市ではこれまで大きな実績を上げてきている。
しかし、佐藤先生は「川崎モデルをそのまま導入しただけでは、なかなかうまくいかないことがある。福島県ではこれを補う別の方式を考えた」という。

川崎モデルは、休眠特許を開放するので中小企業とライセンス契約を結び事業を起こしてほしいという狙いである。これはシーズオリエンテッドの事業といえる。
ところが、どんなにいい特許内容、つまりシーズであっても、地元の中小企業が求めているものと一致するとは限らない。
そこで佐藤先生らは、逆行するプロセスを考えた。それは中小企業が求めている技術・製品を特許情報から検索してマッチングさせるニーズオリエンテッド方式が必要ではないか。この検索を日本弁理士会が窓口になって展開するという。日本弁理士会の初めての試みである。シーズからニーズに切り替えた戦略で、実現性を高めようという戦略である。
これが成功するかどうかは未知数だが、発想の転換を図りながらより良い効果を見つけようとする戦略である。
福島知財戦略はまだ、始まったばかりである。様々な試行を繰り返しながら是非効果をあげて、日本の地方の知財活動モデルを確立してほしい。
福島県の知財活動は、これからも折に触れてこのサイトでも報告していきたい。今回はそのスタートという位置づけである。

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