コラム

知財活動でも躍進する鴻海精密工業(ホンハイ社)

1990年代から始まったIT(情報科学)産業革命の寵児である台湾の鴻海精密工業(ホンハイ社、郭台銘社長)は、世界の製造業の中で彗星のように 出現した企業である。1974年に白黒テレビ用のコネクターの製造企業から出発した。その後、大手PC製造企業からコンピューターのコネクター、そして PCのマザーボードやメモリーのコネクターの受注も手掛けるようになり、PCの普及に代表されるIT産業の急拡大の波に乗って同社も急拡大していった。

いまでは世界最大のEMS(Electronics Manufacturing Service)に成長している。EMSとは電子機器メーカーから製品製造を受託生産するサービス企業である。EMSは、90年代頃から普及した業態であ り、製造業のアウトソーシングと言われている。

つまり相手先ブランド名で製造するOEM(Original Equipment Manufacturer )、相手先企業の上流工程である製品の仕様や設計まで手掛けるODM(Original Design Manufacturer)まで拡大していった。

ホンハイ社が製造している代表的な製品は、アップル社のiPodシリーズ、Macシリーズ、モトローラやノキアの携帯電話機、インテル社のマザー ボード、ニンテンドーのWii、DSなど、デル社、HP社のPCなどである。携帯電話機だけで1億台の生産と言われている。世界の携帯電話の生産台数は年 間、10億台と言われているのでその1割がホンハイ社で供給していることになる。世界中の人々が日常的に持ち歩いて使用している機器の1割を1社で賄うと いうことは想像を絶する製造力である。

今では売上約8兆円、従業員100万人という巨大企業に成長してしまった。

表は、2010年にアメリカ特許商標庁に登録された企業別登録件数のトップ20位のランキングである。この表で見るように13位にホンハイ社が入ってきた。2001年には334件の特許登録でしかなかったが、この10年で3.3倍へと増加している。

同社の技術力が高く評価されているため、EMS企業として急速に台頭してきたものだが、注目したいのは最近はODM企業としても存在感を増している 点だ。相手先企業の製品の仕様や設計まで手掛けるため、その過程で新しい発明が生まれるのだが、これはすべてホンハイ社の知的財産権となっていることが分かる。

 

企業 2010年
1 IBM 5896
2 サムスン電子(韓国) 4551
3 マイクロソフト 3094
4 キヤノン(日本) 2552
5 パナソニック(日本) 2482
6 東芝(日本) 2246
7 ソニー(日本) 2150
8 インテル 1653
9 LG電子(韓国) 1490
10 ヒューレットパッカード 1480
11 日立(日本) 1460
12 セイコーエプソン(日本) 1443
13 ホンハイ精密工業(台湾) 1438
14 富士通(日本) 1296
15 GE 1225
16 リコー(日本) 1200
17 シスコテクノロジー 1115
18 本田技研工業(日本) 1050
19 富士フィルム(日本) 1041
20 ハイニックス半導体(韓国) 973

ホンハイ社の工場の8割以上は中国にあるのだが、中国での特許出願でもトップ3に入るまでになっている。

ホンハイ社の強みは、知的財産権を重視する技術開発と郭社長の迅速な判断と決断力にあるとされており、台湾を代表する世界的な企業に成長したもの だ。韓国のサムスン電子、台湾のホンハイ社はともに2000年代になってから急速に企業業績を伸ばしたものだが、日本企業の中でこのように伸びた企業はな いのは残念だ。

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