コラム

知財振興に取り組むサウジアラビアの本気度

世界最大の産油国の変貌
サウジアラビアは世界最大級の石油埋蔵量を誇る産油大国である。輸出総額の約9割、財政収入の約8割を石油に依存しており、OPEC(石油輸出国機構)の指導国として国際原油市場に強い影響力を持っている。
そのサウジアラビアが、にわかに知財に取り組む国策を打ち出し、次々と制度新設をはかり、知財新興国へと舵を切り始めた。

サウジアラビアが、知財に取り組みだしたのは、産油関連以外の産業を生み出し、それを効率よく権利化して石油が枯渇しても国家として繁栄持続をはかろうとしているからだ。
長期展望を見据えた国家戦略だが、産業振興と同時に知財に力を入れだしたことに時代の風を感じる。その変貌ぶりは、世界知的所有権機構(WIPO)の目にもとまったようであり、「WIPO マガジン」(N0.3 2020年9月)でも特集したほどだ。
https://www.wipo.int/wipo_magazine/ja/2020/03/article_0008.html
そのあらましを紹介したい。写真は同マガジンからの転載である

改革開放で知財大国を目指す
サウジアラビアの国土は、日本の約5.7倍、しかし人口は3472万人で日本の3%以下である。
一人当たりのGDPは、2万ドルちょっと、日本が4万ドルちょっとだから半分である。石油依存からの脱却が最重要課題であり、石油部門以外の産業を興すため、大げさな言い方になるが国家の命運をかけている。

知財人材の育成、外資導入、市場開放などに取り組み出し、国営石油会社の一部株式公開など抜本的な改革開放策を打ち出した。それが2016年4月に発表された「サウジ・ビジョン2030」である。

サウジアラビアが知財に本格的に取り組みだしたのは、1982年、WIPOに加盟してからだ。著作物保護のベルヌ条約、意匠の国際分類を定めるロカルノ協定、パリ条約、標章の国際分類の設定をするウイーン条約などに次々と加盟してきた。

さらに2018年になって、サウジアラビア知的財産総局(SAIP)を設立し、知的財産権の保護、規制、施行に関連する全ての処理をワンストップ・サービスで行う機関を目指している。

知的財産権の保護、規制、施行に関連する全てを
ワンストップ・サービスとして取り組むSAIP

知財意識の目覚めと活動の上昇
本格的な知財取り組みを始めてまだ日は浅いが、WIPOの統計によると特許、商標、工業デザイン(設計数)の出願数は、年々、右肩上がりのトレンドであり、
着実に新しい産業振興に歩み始めているようだ。

出典:WIPO発表データ

SAIPがいま最も力を入れているのは、大学などの知的財産アカデミーと協力して、知的財産サマースクール、共同知的財産マスタープログラム、知的財産トレーナープログラムなど知財人材の育成である。

知的財産に対する一般の理解と認識を高めるために、メディアキャンペーンを展開し、「コンピュータソフトウェア、衛星放送、印刷物、視聴覚資料に関する著作権侵害の社会的・経済的悪影響についての認識を高めることを目的とした著作権の行使キャンペーン」(WIPOマガジン)を様々な地域で展開しているという。

日本特許庁とも、2020年1月1日から2022年12月31日までの3年間の予定で特許審査ハイウェイ(PPH)試行プログラムを開始した。将来は中東および北アフリカ(MENA)地域の知財覇権国を目標に置いているのか、その意気込みが伝わってくる。

知財の時代認識とは何か
サウジアラビアは日本と比較にならないほどの知財実績であり、まだ始まったばかりの知財振興国家であるが、なぜサウジアラビアを取り上げたのか。それはサウジアラビアが世界で特異な国家ではなく、世界の流れのひとつの例であり、産業活動を取り巻く知財状況は、刻々と変革していることを示したかったからだ。

「WIPOマガジン」で取り上げたのも、そうした流れを世界に伝えたかったからだろう。中国の知財大国への道は、21世紀に入って急速に進展し、あっという間に日本に追いつき抜き去っていった。

このような世界の知財振興の流れは、21世紀に入ってからのIT産業革命と歩調をひとつにしたものであり、技術革新の波がもたらした現象である。中国はじめ韓国、台湾など東アジアの工業国家・地域が次々と日本の製造業の市場を奪い、IT技術革新に乗ってきたのは時代の趨勢だろう。

その中で日本だけが変わらずに足踏みしているように見える。サウジアラビアが着々と知財地歩を固めるのを黙って眺めているのは、時代認識に欠けることではないか。そのような思いからサウジアラビアの知財を紹介したものだ。

日本は戦後の経済復興時代から産業振興で奇跡の工業国家を築いてきた。技術開発も創意・工夫に優れている日本人は合っている。そうした基盤があるのだから、ここから反転して再び知財立国へと舵を切ってほしい。そのためには、企業、大学だけでなく行政と司法の役割は大きい。

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