コラム

知財の正当な権利を認めた中国・雲南省の裁判所(4)

正義も義理も人情もない中国人技術者と闘った日本企業の全面勝訴

ジェトロ北京事務所と日本大使館に報告

このシリーズでは雲南省で起きた中国人技術者らの実用新案の冒認出願・登録を取り上げているが、先ごろ日本の政府機関の幹部から昆明バイオジェニッ ク社に対し「この問題は放置しないほうがいい。中国のジェトロ北京事務所と日本大使館に報告して今後の摘発、対応方法について意見を聴くべきだ」との助言 があった。

さる6月11日、この事件の被害者である昆明バイオジェニック社董事長の渡部政博氏、この事件の対応で助言している北京銘碩国際特許事務所日本代表 の朴木理華さんらは、北京市にあるジェトロ北京事務所および日本大使館に出向き、担当者に詳細な記録資料を提出するとともに、その一部始終を報告した。

中国で企業活動する日本企業にとって、今回の事件は看過できない様々な要因を含んでいる。特に中国のコピー工場で産生されて加工された製品が日本に輸入されて販売している実態は、誰もが許されないという見解を示している。

ジェトロ北京センター及び日本大使館での説明内容などについては、今後の中国側の対応があるのでここでは書かないが、その訪問結果は大きな前進の一歩だった。この冒認出願は、多くの日本企業に知ってもらう方法も論議して方向性を確認した。

世界トップの特許出願と知財紛争件数

ところで、中国の知財紛争は増加の一途であり、それは異常なほどの紛争件数になっている。

まず2011年の中国国家知識産権局(SIPO、中国特許庁)で受理した中国の特許出願件数は、52万6412件であり、2011年統計では米国を抜いて史上初めて中国が世界トップになることは確実となった。

ちなみに実用新案出願件数は58万5467件で、これは10年以上前から世界トップである。日本が1万件内外であることを考えると異常な数字であ る。特許出願件数のうち約20パーセントは外国からの出願であるが、実用新案の外国出願はたった3パーセントである。ここにも中国の特徴が出ている。

中国で特許出願している外国企業のトップ10を見ると、次のようになる。

企業名 件数
1 ソニー 2430
2 パナソニック 1802
3 マイクロソフト 1625
4 クアルコム 1374
5 ジェネラル・モーター 1311
6 GMグローバル・テクノロジー・オペレーションズ 1293
7 キヤノン 1289
8 フリップス 1286
9 シャープ 1257
10 セイコーエプソン 1171

出典:CHINA SINDA

中国でブランド力があり多くの製品を市場に出している韓国のサムスンが、トップ10に出ていないのはちょっとおかしいと思うが、推測するにサムスン の中国での戦略は実用新案出願に主力を置いているからではないか。特許出願よりも実用新案出願の方が費用は節約できるし、すぐに権利化できる点も魅力的だ からだ。

日本企業では、ソニー、パナソニック、シャープなど業績不振になっている企業が中国で知財戦略を積極的に進めているのが眼を引いている

次に2011年に中国の司法に提訴された知財関連の訴訟件数は、5万9612件にのぼっている。これはアメリカの3660件の16倍という多数になる。一審で判決が出た案件は47パーセントにのぼっている。

さらに知財に関する刑事事件は5707件という統計である。(いずれも出典は、CHINA SINDA)

中国は急激に知財大国になると同時に、急速に知財紛争大国にもなっていることが数字の上からもわかるのである。

一方、侵害訴訟のときにどのような請求を原告が行っているのか。北京市第1中級人民法院(日本的に言うと北京地裁)のウエブサイト掲載の内容を分析 したところ、侵害停止が61件、損害賠償金の請求など153件、公開謝罪8件、影響除去8件、権利の無効2件、無効審決の取り消し請求112件、商標の無 効審決の取り消し請求338件、契約解除9件、権利所属確認19件などだった。

それにしても2009年の1年間だけでこれだけの訴訟を処理する裁判所の機能は、日本と比べると驚くほどである。中国の裁判所の陣容がどの程度なのか分からない点もあるが、毎年、多くの司法試験合格者を出しており、司法への人材投与は半端ではないとも聞く。

原告―被告の企業類国籍別統計

案件総数 判決数 勝訴 敗訴
中国―中国 291 257 49 208
日系―中国 22 17 6 11
欧米―中国 110 101 31 70
他国―中国 8 8 0 8
中国―日系 0 0 0 0
中国―欧米 6 6 3 3
中国―他国 0 0 0 0
欧米日―欧米 1 1 1 0
他国―日系 4 4 0 4
合計 442 394 90 304

出典:ジェトロ北京事務所知的財産権部(2011年5月)

この表は、北京市第1中級人民法院の2009年の知財に関する原告―被告を国籍別に見た統計である。案件総数とあるのは、実際の判決数、和解、調停、訴訟撤回による結審も含まれている。

これを見ると、中国の企業同士の訴訟案件が圧倒的に多いことが分かる。中国の弁護士ら司法関係者は「日本企業は、中国での知財訴訟が多くなってきて いるというが、実際には中国の企業同士の訴訟案件は、日系企業の知財訴訟の10倍以上ある」と語っていた。この統計を見ると言われてきたことが間違ってい ないことが分かる。

日系企業の知財訴訟は、日系企業が原告となる訴訟が22件であるが、中国企業が原告になって日系企業を訴えるケースはゼロになっている。また、これまでよく分からなかった欧米企業が中国企業を訴える件数は、110件になっており、日系企業の5倍もある。

原告の勝訴と敗訴の件数を見ると、中国企業同士の原告勝訴の割合は19パーセントにとどまっているが、日系、欧米企業が原告になった場合の勝訴の割合は30パーセントを超えている。

合計の統計から勝訴・敗訴の割合を出してみると、総合計394件のうち勝訴したのは90件であり、割合は23パーセントでしかない。中国の司法判断もかなり、原告側に不利であることがこの統計からもうかがわれる。

これらはいずれも北京第1中級人民法院が公開している統計だけであり、中国全土の統計は分かっていない。しかしこの内容から、中国での知財紛争の司法判断の全体像が類推できるので参考になる。

こうしてみると、雲南省のコピー工場の実用新案権の取戻し訴訟が、中級、上級人民法院ともに原告勝訴した判決は、やはり珍しいケースであると理解してもいいだろう。

以上

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