コラム

知財の正当な権利を認めた中国・雲南省の裁判所(3)

正義も義理も人情もない中国人技術者と闘った日本企業の全面勝訴

中国の知財違法活動は第3世代まで進化してきた

 

第1世代は丸ごと真似するデッドコピーが大半だった

中国は2000年代に入ってからITツールと手段をフルに活用してもの作りに取り組むようになった。中国人はもともと器用であり、もの作りに向いて いる。しかし、手段は手に入れても営々と築き上げてきた技術蓄積がなく、製品を世に出す企画力も先進国との格差が大きかったために外国製品との競争力がな かった。

そこで出てきたのがおびただしい模倣品である。10年前、北京の秀水市場というプレハブが並ぶ市場に行くと、世界の有名ブランド品のバッグ、装飾品などのニセモノを山積みして販売していた。服飾品からカメラ、時計などまでおよそあらゆるニセモノを売っていた。

秀水市場はいま瀟洒なビルに変わり、模倣品の販売は姿を消した。しかし周辺に行くと、個人的に模倣品を売る人々が声をかけてくる。

日本製のオートバイや家電製品などのニセモノが大量に出たのもこの時代である。日本企業の社名やブランド名を勝手に使ったり、外見がそっくりのニセモノがあふれていた。DVDなどの海賊版も、堂々と店を出して販売していた。

しかし、中国政府の取り締まりが厳しくなり、堂々と大ぴらに販売する光景はほとんどなくなってきた。

第2世代は「先取り商標ビジネス」に進化

それから進化したものが第2世代の知財違法行為である。もっとも典型的なものが「先取り商標」である。日本の有名商標を勝手に中国で登録される。その商標を中国で使用しようとすると、権利を持っている中国人から権利を主張される。

「クレヨンしんちゃん」事件が典型的な例である。「クレヨンしんちゃん」の商標を持っている双葉社が中国で商標登録する前に中国企業が勝手に登録し、日本企業が「クレヨンしんちゃん」のキャラクターをつけて商品を販売しようとしたら、商標侵害で差し止めをされた。

この事件はその後、双葉社が著作権侵害で訴えて勝訴し7年以上かかった紛争にピリオドを打った。ただし、合法的に商標登録されたものはまだそのまま権利が残っており、「クレヨンしんちゃん」事件は完全解決には至っていない。

「先取り商標」した大半の中国人や中国企業の権利者は、登録した商標をビジネスに使っていない。単に先に登録しておき、日本企業が中国で使用するのをじっと待っている。使用しようとすると権利を主張し、困り果てると商標権を売却するように持ちかける。

中国では販売しないで日本だけで販売する製品でも、中国で製造する場合は商品名や企業名を商標登録しておかないと、ひどい目に合うことがある。中国 で製造し、日本向けに輸出しようとすると、税関でストップをかけられる。中国でいつの間にか勝手に商標登録され、権利者が権利を主張して輸出を差し止める ことができるからである。

港で製品がストップをかけられて困った荷主、つまり日本企業は、製品を日本へ持ち込むために自社の社名や製品名の商標を中国の権利者から法外な値段で買いとることになる。

理不尽な行為と言っても、国際的なルールがあるので、やられた方が馬鹿を見ることになる。

日本の県名や有名地名などが勝手に商標登録されているのも、いつかこれをネタに買い戻しに来るのを待っている企業や中国人がいるからである。このように商標権利をタテにして、買い取りを迫る人々のことを商標ビジネスと呼んでいる。

第3世代は先取り特許と実用新案で権利を主張

第3世代の知財違法活動は、特許、実用新案など技術内容を権利化して、何らかの利益を取ろうとする手口である。特許、実用新案を先に登録して日本企 業の経営活動を邪魔したり、場合によっては権利を主張してライセンスを持ちかけ、応じなければ侵害訴訟を起こして和解に持ち込もうとする。

この欄で紹介してきた中国・雲南省の実用新案先取り行為がそうである。企業に所属している間にこっそりと実用新案の権利を取得し、その実用新案をもとに工場を設立し、実用新案の技術を自社のPRとしてホームページにも掲載している手口である。

日本の政府機関のスタッフは「雲南省の事案は、中国の司法が職務発明であるとして元勤務していた企業に権利を戻した判決を出しており、中国でも認め られない違法活動だった。これを放置しておけば、今度は権利を主張され、ロイヤリティの支払いを求めてきたかもしれない。日本企業は、第3の知財違法活動 の防止について研究しておく必要がある」と語っている。

さる4月11日、雲南省の違法実用新案登録事件の被害にあったバイオジェニック社の社長は、アスタキサンチンを扱っている業界関係者の集まりで、今回の事件の内容をあらまし報告した。そのとき開示したのが、日本で活動するある企業の業界紙広告である。

その広告には、雲南省の裁判所で係争になり、中級人民法院と高級人民法院の判決の双方で言い渡されている「実用新案の発明者にはなりえない」と言われた被告らの工場の総経理が、業界紙広告に掲載されていた実用新案の発明者になっていた。

雲南省の裁判所で「発明者になりえない」と判決されていた人物の発明実用新案3件が、日本にある企業の宣伝キャッチフレーズとともに掲載されてい た。この事実は、日本の業界でも以前から知られており、業界関係者の間では、日本のその企業は雲南省の工場と深い関係があると理解されていた。

この広告の案件についてはいま、日中の間で検討されている事案との関係があるので、ここではこれ以上触れることができない。

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