産業スパイ
1980年代に日本を代表する鉄鋼メーカの技術屋さんが、韓国のメーカに多額の現金と引き換えに高級鋼板である方向性電磁鋼板の製造技術を流してしまい不正競争防止法による営業秘密の漏洩に問われ争われた事件がありました。
技術者個人が追求され訴訟になっていましたが、最近のニュースでは最終的に和解に至り一人で1億円もの解決賠償金を支払った人も出たとの話が伝わりました。
関係した技術者は10人を超えたそうで、グレーな人を含めると20名近くに及ぶとの話も伝わり、関係技術者は相当な数になるようで部門を挙げての不正ともいえるかもしれません。
そもそも、事の発端は韓国メーカが作る鉄板の品質が急激に上がり、日本のメーカは市場を失う危機に陥ったのです。さらに、中国のメーカまで品質が向上して来て、技術力の進歩に差がなくなる大競争時代が指摘されました。
そうした中で、韓国から中国への国家的な機密情報の漏洩が起こり、韓国メーカの技術者が、社内の独自開発の機密情報を提供したと疑われる事件が明るみに出ました。韓国での被疑者が流した技術は、メーカ独自開発の技術ではないと主張し、日本の技術だったと言って罪を免れようとしたのです。そしてその事件で証拠として提出された図面や書類が、なんと日本の鉄鋼メーカのモノであることが判明したのです。誰が流したかということで問題になったのです。日本の企業秘密が韓国に流れ、さらには中国に流れていったことになります。動かぬ証拠が出てしまい、金銭で釣って技術を盗み出す、まさに産業スパイ事件として、日本のメーカから韓国メーカが訴えられて、最終的には300億円の和解賠償金で会社間の争いは収まりました。
しかし、日本のメーカは漏洩に加担した、元従業員個人の責任を追及して損害賠償の請求をすべきとの裁判を2012年に起こし争われていたのです。実は2013年には不正競争防止法にノウハウ流出を刑事罰に問うことができることになったのですが、その法律が施行される前であったため、民事事件として損害賠償を争ったのです。
元従業員が亡くなってしまっている場合には遺族である相続人からも損害を賠償させました。遺産相続した現金や資産の中に機密漏洩の見返りが含まれているとしたのです。相続人がそうした色のついたお金であるかどうか識別出来る可能性は極めて少ないと思いますが、遺族からも解決金を得たということです。
企業の危機管理・問題提起の見せしめ的な要素があり、企業の悪事を許さない徹底的な姿勢は見て取れますが、社内の危機管理意識の徹底と教育、機密情報の管理体制、再発防止の対策の方が重要だと感じたものです。
最近でも大手の企業での粉飾決算などが後を絶ちません。意識や常識の判断が会社のためという正義感で行ってしまっているケースが目立ちます。
会津には昔から「ならぬものはならぬものです」という掟が伝わっています。