産学連携は順調に進展するもまだ道半ば
文部科学省が2022年版を公表
順調に推移する産学連携活動
文部科学省がこのほど発表した「大学等における産学連携等実施状況について、令和2年度実績」(https://www.mext.go.jp/content/20220125-mxt_sanchi02-0000000020147_1-01-1.pdf)によると、直近5年間の産学連携活動は、順調に上昇機運に乗っていることが分かった。
下のグラフで見るように、研究資金受入額は、2016年の3158億円から2020年には3689億円と1.17倍に増加している。増加率は緩やかだが、コロナ禍で社会全体が停滞している中での増加であり、評価できるのではないか。
特に知財活動は2016年度の35億5400万円から2020年には55億5400万円と1.56倍にまで増やしており、今後さらに期待できる推移である。
共同研究、受託研究、治験等の資金受入額をみても、緩やかながら増加傾向で伸びているのは心強い。研究論文数、論文引用10%、同1%などが停滞している中で、産学連携が順調に伸びているのは、研究巻き返しにいい刺激を与えるのではないかとの期待を抱かせる。
項目別の推移を見る
*研究資金等受入額
研究資金等受入額(共同研究・受託研究・治験等・知的財産)は、約3.689億円と、前年度と比べて約206億円増加(5.9%増)した。
*民間企業からの研究資金等受入額
研究資金等受入額(共同研究・受託研究・治験等・知的財産)は、約1.224億円と、前年度と比べて約38億円増加(3.2%増)した。
このうち、共同研究による研究費受入額は約847億円と、研究資金等受入額全体の約69.2%を占めている。
前年度と比べて、「共同研究」は約50億円増加(6.3%増)し、「受託研究」 は約13億円減少(9.1%減)した。
* 知的財産権等による収入額
約56億円と前年度と比べて約4.1億円増加 (7.9%増)した。収入額の内訳をみると、「特許権(約40億円)」が全体の 72.6%を占めている。次いで「マテリアル(約5.9億円)」が10.7%、 「その他(ノウハウ等) (約5.0億円)」が9.0%、「著作権(約3.8億円)」 が6.9%となっている。
* 民間企業との共同研究
民間企業との「研究実施件数」は28,794件と、前年度と 比べて488件減少(1.7%減)したが、「研究費受入額」は、約847億円となり、前年度と比べて約50億円増加(6.3%増)した。
「1件当たりの受入額が1,000万円以上の共同研究」による受入額は、合計約466億円と、前年度と比べて約54億円増加(13.2%増)した。民間企業 との共同研究全体の約55.0%を占めている。
1件当たりの受入額の平均は、約2,94万円であり、前年度から約22万円増加(8.1%増)した。
* URAの配置
URA(University Research Administrator)とは、大学などの研究組織で、研究者や事務職員とともに、研究資源の導入促進、研究活動の企画・マネジメント、研究成果の活用促進を行い、研究活動の活性化や研究開発マネジメントの強化を支える人材のことである。
このURAを配置している機関数は、182機関となり前年度と比べて5機関増加 (2.8%増)した。配置人数は1,512人と、横ばいであった。
* クロスアポイントメント制度の導入
クロスアポイントメント制度とは、労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結び、一定期間継続して勤務することである。新型コロナウイルスで影響を受けた企業が、従業員の雇用を守る手段として、この制度を活用するケースもある。
クロスアポイントメント制度を導入した機関数は199機関であり、前年度と比べて12機関増加(6.4%増)した。この制度を活用した教職員を分析すると、「企業への出向」が 36人、「企業以外への出向」が414人だった。
*大学発ベンチャー
大学発ベンチャーの設立数は233社であり、前年度と比べて29社増加 (14.2%増)した。
起業を目指す学生・研究者らへの支援として、「GAPファンドプログラムを実施」した機関数は35機関だった。
GAPファンドとは、企業ニーズや事業化の可能性の高い研究に対し、少額の開発資金を供与して試作レベルまで進めるものである。さらに研究論文や特許だけにとどまっている研究成果が、事業化可能と判断した場合は、技術移転や大学発ベンチャーへと進める基金として活用されるものである。
また、「アクセラレーションプログラムを実施」した機関 は36機関であった。これは短期間で事業を成長させるためのプログラムであり、ベンチャー企業や中小企業を対象に、アクセラレーターと呼ばれる支援者との定期的な面談を通して、事業アイデアや新規ビジネスの検証する支援となる。各分野の専門家を招聘することで、短期間での事業化・事業成長を効果的にサポートする制度になっている。
この実態を一覧表にしたのが、次の表になる。
実態を見ると国公立大学に集中
産学連携の実績のあるトップ20大学をグラフとして見ると下記のようになる。大学名の冒頭についている矢印は前年比からの動向を示している。(左:企業からの研究費受入額トップ20大学 右:企業との共同研究実施件数トップ20大学)
グラフの左側の研究の受け入れ額トップ20を見ると、旧帝大7、国公立大学7、私立大が6大学と圧倒的に国公立に偏っている。上位には旧帝大が並んでおり大学の多くの分野・項目のランキングとほぼ同じ傾向を示している。
一方、共同研究実施件数のトップ20を見ると、旧帝大など国公立が18大学、私大は慶應義塾、早稲田の2大学である。国公立大学優位はさらに強くなっている。
日本の大学は、国公立大学は施設設備、人事管理、スタッフなどの面で私立大学に比べてはるかに手厚い支援を国から受けているからであり、国の高等教育施策が基本的に変わらない限り、この傾向は変わらないだろう。
しかしアメリカの産学連携に比べると比較にならないほど日本は少ない。アメリカは産学連携によって資金調達した場合、教員の給与アップが可能なように仕組みができており、産学連携にかけるインセンティブが日本とは違う。こうした制度を入れた時代にふさわしい産学連携がなぜできないのか。これこそが最大の課題ではないか。
山口大学の画期的な知財教育
産学連携を支える最大の大学価値は知的財産にある。知財の重要性に目を付けた山口大学は、2013年度から全8学部の1年生全員(約2,000人)に対して知財教育の必修化に踏み切った。
佐田洋一郎・大学研究推進機構知財センター長(現同機構特命教授)や同センターの木村友久教授らが中心になって進めた日本で初めての画期的な大学の知財教育であり、学士課程から大学院に至る知財教育カリキュラム体系を整備した。
これは文系・理系を問わず各自の専門性や必要性に応じた知財の知識や利活用スキルを社会の実務に使えるような人材育成を目指したものだ。こうした積極的な大学の知財教育が認められ、2015年7月には、文部科学大臣から日本で初めて「教職員の組織的な研修等の共同利用拠点(知的財産教育)」に認定された。
知財無料開放にも踏み切る
山口大学は、大学創基200周年にあたる2015年10月1日から、知的財産の無料開放や「山口大学マーク」の推奨無料開放に踏み切った。
知的財産は特許、実用新案、意匠などで、公開済みの大学単独出願で、独占的実施契約のない案件や、共有権者の実施の意向がない案件で、無料期間は許諾から5年以内(ただし大企業は3年以内)としている。優良実施企業者には、山口大学推奨マークの使用も許諾している。
国内の大学では初めての試みである。このように独自色を打ち出して知財活動を活性化し、同時に地域の産業振興にも役立たせたい試みは産学連携を推進させるだろう。
「大学ファクトブック2022」(経団連、文部科学省、経済産業省調べ)の共同研究費受入額を見ると、山口大学は2億6833万円で全国の大学の中で23位である。大学規模がはるかに大きい東京理科大、同志社大、千葉大などより上位となっている。こうした挑戦的な戦略によって産学連携が活性化させている例として注目されている。