コラム

特許庁長官賞を受賞した発明通信社

発明通信社は、このほど日本特許情報機構主催の「特許情報普及活動功労者表彰」大賞の特許庁長官賞を受賞した。特許情報の普及、活用、研究、人材育成に顕著な功績があった団体を表彰するもので、同社の表彰は大変な栄誉である。

受賞対象となった業績は、これまでの特許公報の約400万件を電子化し、特許庁の検索システムでの審査の高度化や効率化に貢献したことが評価されたものだ。60年間にわたって特許情報を提供し、企業の知的財産活動の貢献に努めたことが改めて評価されたものでもある。

この特許庁長官賞の受賞を記念する講演会が、12月6日、東京・虎の門の発明会館で行われた。まず特許庁特許技監の櫻井孝氏が「日本特許庁の国際知財戦略 -産業財産権情報普及と5大特許庁会合での取り組み-」と題する講演を行った。

IT時代の国際知財戦略と施策を講演

櫻井特許技監はまず、IT時代の到来とともに稼働を始めた特許電子図書館(IPDL)の沿革とその活動状況を報告した。その中で英語版の普及に移行してきた時代的な背景と後発国の特許情報について解説した。

さらにIPDLで閲覧できる特許情報を紹介したが、筆者もフォローできていなかった現状を知って非常にためになった。また中国の和文抄録、特に急増する中国の実用新案の和文抄録の提供については参考になる情報が紹介された。

今年の9月から始まった中国、韓国、台湾など新興国の知財情報データバンクの実際を知って、インターネットを利用した知財情報の重要性がよくわかっ た。また、外国特許庁との審査情報を相互に利用するドシエ・アクセスシステム(AIPN)とはどのようなものか。その解説を知って参考になった。

日本の審査結果を外国特許庁に英語で発信している現状は、知財の国際化と共に国際知財戦略の必要性がよくわかった。また審査関連の書類紹介の実例では、機械翻訳による英語での紹介、明細書や拒絶理由通知などの実例も示された。

機械翻訳の精度向上は重要な課題だが、その取り組みにも触れてもらった。最後に日米欧・中国・韓国の5大特許庁の動向では、世界共通の特許分類への取り組み、制度調和への推進などで日本が果たすべき役割なども紹介されて参考になった。

最後に時代と共に推進する特許庁の制度改革への取り組みでは、外国特許文献検索システムの開発など今後の推進策を具体的に示し、知財の世界が大きく前進していく現場を知って大いに勉強になった。

日本の製造業の雄・トヨタ自動車の知財戦略

続いてトヨタ自動車の知財部長、佐々木 剛史氏が「トヨタ自動車の知的財産活動」と題する講演を行った。

佐々木部長はまず、豊田佐吉翁の自動織機の発明から始まったトヨタ自動車の企業活動と発明を重視した知財活動の歴史を紹介した。そして時代とともに 進化するべき知財戦略についてその方向を、織田信長の桶狭間の闘いや明智光秀の本能寺の変を知って動いた豊臣秀吉とその周辺の歴史的な記録を分析し、自身 の見解からあるべき知財戦略の在り方を導き出して聴衆を魅了した。

さらに自動車産業から見た知財を取り巻く環境の変化について言及し、従来の自動車マシンからITS技術や人間工学、生体メカニズムなどにまで広がっている自動車技術のパラダイムシフトを示し、技術開発の広がりと競争相手の多様化の現状を分析して見せてくれた。

また最近問題となっているNPE(Non-Practicing Entity=特許不実施主体)との特許紛争についてトヨタ自動車の方針と戦略を示した。この部分はトヨタ自動車の知財戦略にも結び付く内容と思うので詳細については紹介を割愛する。

筆者の理解では、NPEとの紛争には、多くのノウハウが試行錯誤されていると感じた。NPEは背後に巨大な資金力を持つファンドなどの影が見え隠れ している。しかし最近は、紛争を仕掛けていく自動車メーカーの組み合わせに工夫したり、相手に提示する和解金の小型化など新たなビジネスモデルが出てきて いるようだ。

こうした現状にも触れながら、トヨタ自動車の決して妥協しない基本的な姿勢を明確に語った。また知財の攻めの在り方でもトヨタ方式とも言うべき「攻撃は最大の防御」のノウハウを語って聞かせた。

最後に国際標準化についての戦略にも触れ、電気自動車に代表される次世代の自動車の開発動向での標準化の在り方でも示唆に富んだ解説が披歴され、大変ためになった。

トヨタ自動車の知財戦略のあらましを聞いて安心したが、世界の熾烈な知財戦争の現場を見せてもらったという点でも参考になった。

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