消えるインク
資源循環社会のための技術がカタチになったとの触れ込みで、印刷したインクが消えてしまう技術を開発したとひと頃大々的に宣伝していました。
インターネットが社会に浸透する時代で、様々な情報が電子化されて、誰でもどこでも手軽に多くの情報に接することができるようになりました。そうした時代には、紙は無くなってしまい、製紙メーカは上がったりだといわれていましたが、コンピュータの活用が進んでいるところこそ、紙の消費量が増加している傾向があるのです。ペーパーレスなんて中々進まないのが現状でしょう。我家でもパソコンを入れたとたんに紙の消費が増加してしまいました。なんといっても、印刷して見なくては始まらないからです。しかも、その印刷が一度で済んだことはありません。何度か印刷して、チェックして、完成した時点では反故紙がたくさんできてしまいます。もちろん、両面印刷や裏紙を使うのは既に常識ですが、それとて印刷したが完璧でなく、どうしてもゴミ箱に捨てらざるを得ない紙が出てきます。
何とかならないものか、思いはすれど、どうしようもないのが実態でした。随分と昔ですが、紙の上にトナーを載せて定着させないで置き、印刷に失敗したらトナーを払い落とすアイデアがあったように記憶していますが、到底実用的ではありません。
そこで登場したのが、東芝の「消えるインク」です。インクの色素と発色剤のほかに消色剤を添加したインクなのです。消色剤には色素と発色剤のどちらか一方を優先的に溶かしてしまう性質を有したものを使うという発明です。「消去可能インクおよびプリンター」(特許第3286214号)です。
溶剤で消去した場合には、同じ紙が10回は使えるそうです。また、摂氏120度程度に加熱すれば、インクの色が消えるので、古紙再生に脱色が簡単にでき、再生コストは60から80%にもダウンさせることができるといいます。これは、パルプ輸入国の日本においては大変なコストです。一度印刷した紙の再利用ができれば、無駄にしていた紙の活用も図れ、能率も上がると言えましょう。
このインクの色素は、ロイコ染料などの呈色性化合物で感熱紙などに使われているそうです。また、発色剤は食品添加物として使われている「没食子酸プロピル」で、消色剤は胆汁の成分である「コール酸」などのステロール化合物だそうで、何だか、安全なもののような感じがします。消すには加熱すれば良く、サーマルローラを使う事で消去出来るそうです。インクはインクジェットプリンタのインクとして使えるそうで、明細書の中には、エプソンのMJ800Cを使った実験結果が紹介されていました。もちろんマルチカラーの印刷が可能とのことです。
最近は擦ると消えるボールペンが市販されていますが、インジェットプリンター用にも発売されたら使用したいものと思います。他社もこうした消せるインクを開発していますが、加熱すると消えるので永久保存する資料には不向きです。