標準と特許
特許と技術標準という観点では、昔から、いくつもの動きがあります。
通信機器やコンピュータの世界では、お互いにデータを交換し、相互に通話や情報をやり取りするために、技術標準規格が決められているケースが数多くあります。
ひと頃の大型汎用コンピュータではIBM互換マシーンの開発が盛んで、互換性がないコンピュータは市場から排除されてしまうため、各社IBMのソウフトウ エアを解析し、互換性を保つために苦労していました。これも一つの技術標準といえるものです。当時のIBMは、比較的リーズナブルな実施料で関連の特許を 使わせていました。
通信関係では、アメリカのATTというところが開発した通信機の互換を採らなくては誰も買わない状況がありました。特許の実施を拒むことはありませんでした。
特許を武器に業界の標準化を進めた動きの最たるものが、オランダのフィリップスのコンパクトテープでしょう。それ以前に存在していた複数のテープメーカの様々なタイプのカセットテープが、このコンパクトカセットに統一されてしまったのです。
フィ リップスの戦略は、自社のコンパクトカセット関連の特許をすべて無償で使用させるというものです。その見返りとしては、各社が持っている、または今後取得 する特許をフィリップス及び仲間に無償で使用させるという条件です。特許は独占出来る期間が決まっています(現在は出願から20年)。この特許が切れて独占権が消滅すると自由になってしまいます。フィリップスの意向が反映しにくくなることになりかねません。そこで、「compact cassette」のロゴを製品につけることも条件にしました。商標は使われ続ける限り更新して権利を維持することができますので、実質的に永久に仲間を拘束できるのです。
こうして、実質的に標準化された技術と仲間を保護することにより、技術の囲い込みを行う戦略は見事なものでした。
フィ リップのように自社で完結して特許群を持っている企業は多くありません。したがって、その後の技術標準は、複数の関連特許を持ち寄り標準化機関を設け、そ の機関を通じて、相互に使用を認める仲間の集まりとして推進される動きが活発になり、標準規格の仲間に入った企業は、それなりの実施料を支払い、持ってい る特許に応じて、実施料を分配するようになっています。
そこで問題になるのが、標準に採用された特許を持つ企業が、他のメーカーから標準化されていない技術で攻撃された場合に、独占権としての権利を振りかざせなくなってしまう事態です。
最近のアップル社とサムソン社を巡る訴訟の一つがそれです。サムソンの持つディジタル通信関連の特許第4642898号「移 動通信システムにおける予め設定された長さインジケータを用いてパケットデータを送受信する方法及び装置」は標準に欠かせない技術です。そこでサムソンは この特許で反撃に出ました。権利の使用つまり抵触を認める判断が裁判所から出ましたが、標準化特許の独占権がどこまで行使できるかです。