未来を先取りする中国のインターネット裁判
社会の仕組みをコロナが変える
コロナウイルス感染症の世界的な爆発で、社会の仕組みが激変しようとしている。コロナ終息になったとしても、「コロナ前」と「コロナ後」と2つの場面の国家・社会・企業・教育現場などに分けられていくことは間違いないだろう。
コロナ災難でIT関連、インターネット関連の仕組みが大進展している。その速度は助走期間を通り越して、一気に爆走を始めたように見える。トップランナーは中国である。AI(Artificial Intelligence、人工知能)技術開発の発展に伴って、日本と中国の差は開くばかりである。
武漢市に在住する武漢理工大学教授によると、武漢は3か月ほど完全封鎖社会となり、学校も大学も休校となっていたがその間、ネット授業が展開され、そのシステムが一気に進化したという。小学生も自宅でネット授業を受講し、大学の授業もネットで行われていた。
教授の小学校5年生の息子が受講している様子を観察していると、時に寝ころがったり、おやつを食べながら受講している。教師からは見えないので「ま、しょうがないか、こんな時期だし・・・」と苦笑していた。
日本でも大学はネット授業が行われているが、中国のシステムの方がきめ細かいようだ。と言うのも、ほとんどの大学でネット授業の独自のアプリを開発していると教授は語っている。
日本のネット授業は、ZOOMとかスカイプなど外国が開発したアプリを使用しているだけで、日本の開発会社の存在感がまるでない。
中国の裁判システムでもインターネットをフルに使ったシステムに変わってきた。中国のインターネット裁判の現状を見てみたい。
著作権関係の訴訟から始まったネット裁判
中国の最初のインターネット裁判所は、2017年8月に浙江省杭州市に設立された。翌年8月末までの1年間に、インターネットで受理した事件は1万2103件に上った。このうち88%の1万646件が審結した。驚くべき結審率である。
インターネット裁判の審理時間は、平均28分と言うからスピード感が格段に上がっている。起訴、応訴、仲裁、審理、判決など裁判の一連の手続きもすべてネットを通じて行われたもので、判決文は、まず人工知能(AI)を利用して作成され、その後で裁判官が精査して修正していく方法だった。審理した期間は平均41日だった。
2018 年 9 月 7 日、最高人民法院は、「インターネット法院案件審理における若干問題に関する最高人民法院の規定」(規定)を発布した。
この規定によると、北京、広州、杭州インターネット法院は、それぞれの基層人民法院(簡易裁判所)で審理されるような比較的簡単な事件に制限して行った。インターネットで初回発表された作品の著作権または隣接権の帰属などをめぐる紛争が多数にのぼっているため、こうした訴訟を効率的に処理することが目的だったようだ。
さらにこの体験を踏まえ、インターネットドメイン名の権利・帰属、権利侵害、また契約書紛争、電子商取引プラットフォームを通じた契約書の締結または履行による紛争など指定する11種類の紛争を集中審理する方針を打ち出した。
また、金融借金契約紛争、少額の借金契約紛争などの事件はすべてインターネット裁判で完結するように規程を作った。
知財裁判でも威力を発揮
中国では早くから知財分野のインターネット裁判を普及させることに力を入れてきた。特に知財の場合は最高人民法院に知財の専門法廷を作ることで一極に集める方法がとられている。知財審理のレベルを上げること、全国均一の判断レベルにすることなどを考えると一極集中のシステムを作った方が効率がいいという判断だろう。
こうした考えを実現するためにもインターネット裁判は非常に有力な方法になる。原告・被告が全国に散らばっているといちいち法廷に足を運ぶ手間が省ける。提出する書類も印刷物でなく電子提出で済む。裁判費用の節約、当事者と弁護士、弁理士らの時間の節約などメリットが大きい。
広州知財裁判所はさる2月19日、インターネット裁判を開廷した様子をホームページで公開している。原告は広州、被告は北京在住の人だが、実際の法廷には当事者はいないがネット画面で見える。
本来ならば、原告の所在地の広州で裁判が開かれるため、北京から出廷しなければならないが、ネット上なら画面だけで出廷が可能だ。広州知財法院が公表しているインターネット裁判を紹介したい。
https://mp.weixin.qq.com/s/yQWl9wc4PqiOc3Uy2_t3xQ
この時期中国では、コロナウイルス感染の影響を受けて国内移動もできず、書面の郵送なども普段より停滞していた。北京の専利代理人は、専利事務所と自宅から二人の代理人がネットで出廷した。
写真の中央の画面に見えるのは、裁判官らがいる法定の画面である。右奥の画面に見えるのが北京の事務所か自宅からネット出廷した代理人の画面である。左の画面は原告と思われる。
237億のインターネット裁判が閲覧できる
中国では2016年7月1日から、原則として最高人民法院(最高裁判所)での公開裁判は、インターネット上でライブ配信されるようになっている。
中国裁判公開網(中国庭?公?网)のウェブサイトにアクセスすると、4月8日現在、累計約700万件の裁判のライブ配信がされており、累計237億回以上の閲覧ができるとされている。
http://tingshen.court.gov.cn/
トップページに表示された中国地図から地域を選び、省ごとにある法院(裁判所)を選択すると、現在行われている裁判のライブ配信にアクセスできる。
知財訴訟の場合は、たとえば北京の裁判所の一覧から「北京知識産権法院」を選択し、特許や商標などの権利者が国家知識産権局を相手に提訴した訴訟を見ることができる。
画面右上の検索窓から全国の案件を検索することもできる。この窓にキーワードを入れて検索すると関連した案件が出てくる。非常に使い勝手のいい方法が実用化されており、日本とは比べ物にならない進展ぶりである。
日本でもようやく先ごろ、ネット裁判が試験的に行われた。世界銀行の2017年版「ビジネス環境ランキング」によると、日本はOECD(経済協力開発機構)に加盟している35か国のうち23位だった。
その中の「裁判の自動化」の項目では4点満点で1点であり、最下位国の一角を占めていた。さらにコロナ騒動になって、ネットに取り組む国の優劣がはっきりしてきた。日本の立ち遅れは明らかである。