コラム

日本版ディスカバリー制度を提言した本の出版

出版と松下昭先生の健勝をお祝いする会

筆者が先ごろ日本評論社から出版した「スイカの原理を創った男 特許をめぐる松下昭の闘いの軌跡」の出版お祝いと松下昭先生の健勝を祝う会が、東京・内幸町のプレスセンターで開催され、多くの知財関係者が出席した。

自分の書籍出版をこのようなコラムで取り上げるのはいささか気が引けるが、この出版の狙いは、スイカカードの原理を創ったのは間違いなく松下昭先生であり、日本の知財の司法現場にディスカバリー制度を導入するべきであるとの主張をしたかったからである。

JR東日本が実施しているスイカカードは、多くの人が使っているがこれを開発したのはソニーである。しかしこのカードの根幹の技術は松下昭先生が 創った原理であり、特許庁の審査に19年1ヶ月もかかってようやく特許と認められた。その審査の過程の非合理性は、本書に書いてあるので興味のある方は是 非、ご一読をお願いしたい。

特許権利を取得後、松下先生はたった一人で日本を代表するJR東日本とソニーの2社を相手取って特許侵害による損害賠償請求訴訟を起こした。一審、二審ともに松下先生は敗訴したが、筆者は、裁判所は真理の発見をしていないとして社会に訴えたものである。

最初に松下先生がこの原理を特許出願したのは1985年である。その当時、スイカカードのような非接触ICカードなどは世の中に影も形もなかった。しかし松下先生はその当時すでにその原型を、製缶工場の生産ラインで実用化し、その原理を改良して特許出願したものであった。

お祝い会で挨拶する松下昭先生

 

お祝い会の発起人代表としてスイカカードを掲げて松下昭先生を称える
荒井寿光・元内閣官房知的財産戦略推進事務局長、元特許庁長官

 

ディスカバリー制度の導入を主張

お祝い会に出席した知財関係者は、元日本弁理士会会長を務めた4人をはじめ多くの弁理士、さらに元特許庁長官、特許庁特許技監、知財専門の弁護士、企業の知財関係者ら100人を越えた。

その出席者の多くは、現在の知財制度には不十分な点がありそれを改革しなければ、日本の知財の司法制度が空洞化していくとする意見だった。本書でも 取り上げたが、高度・専門性の高い特許技術の侵害の有無を裁く裁判所は、真理の発見ではなく、文言の主張だけで裁いている点である。

高度な技術になればなるほど、言葉だけの説明では不十分になる。そこで日本でもアメリカで行われているディスカバリー制度を導入し、設計書や実施様 式などを被告側に提出させ、文言、レトリックで勝負を決すのではなく、実体に即した証拠によって裁く制度を導入するべきだ。筆者はこの本で主張した論点に 出席者は賛成した。

米国のディスカバリー制度は、トライアル(事実審理:trial)のための準備である。簡単に言えば、争点の洗い出しであり証拠の整理である。訴訟 に関する要件の事実について、相手側に開示要求ができることが最大の特長であり、これはいわば当事者の「捜査権限」とも言える権利である。

開示要求を受けた場合、プリビリッジ(秘匿特権:privilege)に該当しない限りは、相手側の要求に応えて情報を開示しなければならない。 ディスカバリーの手段としてあげられるのは質問書(interrogatory)、立入検査、情報収集のためのデポジション(証言録 取:deposition)、ドキュメント・プロダクション・リクエスト(文書開示要求:document production request)などである。このような準備を経て集中審理方式のトライアルが開始されるので短時日で決着することになる。

このような合理的な制度を日本の司法になぜ導入できないのか。日米の国家の力量の差というならこれは恥である。日本も真の知財国家を目指すなら、このような制度を実現しなければならないが、法曹界にも企業にもその機運は出ていない。

知財司法で提起されている課題

日本の知財裁判は、いま利用者が減少している。これは外国も国内の企業も日本の裁判所を信用していないからであり、大事な知財裁判はアメリカで起こすことを考えているからだ。これでは、日本で特許を取っても意味がないということになりかねない。

さらに、原告である権利者が勝訴する率がせいぜい20パーセントとされており、仮に勝訴しても賠償額が低い。賠償金額を日米で比較すると、アメリカの20分の1から50分の1とされている。

また、知財関係の訴訟の一審は大阪地裁、東京地裁だが、和解で決着することが多く、裁判所はすぐに和解勧告を行う。技術的に面倒な訴訟は、判決を出したがらず、できるだけ和解で決着しようとするとも言われている。これは裁判所の「判断の回避」である。

日本では和解が多いので、本当の知財訴訟の統計が出てこない。和解内容は公表されないので、原告・被告のどっちがどのように勝ったのか負けたのか良く分からないからである。

このような課題を語り合い、今後の知財制度改革を語り合った点でもユニークなお祝い会であった。

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