コラム

日本版「仮出願制度」の確立を急げ

特許制度は、一刻も早く出願した出願人に特許権利を付与する制度である。IT産業革命によって技術進歩と情報伝達が飛躍的に早くなったため、発明者や企業は以前にも増して一刻も早く出願したいと思うのは当然だ。

一方、大学の研究者の場合、一刻も早く論文として発表することが使命である。世界で最初の論文記載がなければ、ノーベル賞の対象にもならないからだ。しかし論文として記載・発表する前に特許出願を済ませないと世界初の知見や発明技術も特許の権利が取れなくなってしまう。

IT産業革命によって時間差、地域差がほとんどゼロになったため、特許戦略にもそれに対応する戦略が必要になってきた。そのような状況の変化に対応したのがアメリカの「特許仮出願制度」である。

その特長を挙げると次のようになる。

後日、通常の米国特許出願をすることを前提として行う「仮の出願」であり日本語など英語以外の言語で行うこともできる。
仮出願は通常の米国出願のように明細書にクレームを記載する必要がなく、情報開示や宣誓供述書などを揃える必要がない。
仮出願を基礎とする後の特許出願の存続期間は、仮出願日から最大で21年になる。
仮出願は審査されない。
出願日から1年以内に仮出願を優先権主張の基礎として米国内の特許出願、日本など米国以外の国への特許出願、PCT出願をしない場合は、仮出願は放棄される。

出願料は、大企業は220ドル、Small Entityとされる個人、小企業、非営利などは半額の110ドル。通常出願料は330ドルだが、サーチ料(540ドル)と審査料(220ドル)とあわせて合計1090ドルになるので仮出願料は非常に安い。

 

この制度を設定した背景は、大学や個人発明家のようにライセンス先が決まるまでに費用をかけられない人々が、出願日の優先権を確保するために利用できるように考えた制度である。本出願のような様式や必要書類について細かい要件がないので、お手軽に利用できる。

仮出願制度によっていち早くアメリカで特許権が設定できれば、アメリカの産業力の強化に寄与できることを見越した制度であり、アメリカの特許戦略の1つと理解できる。

最近になって日本の大学関係者の間で、日本でも「アメリカの仮出願制度と同じように論文による特許出願ができる」ということが話題になっている。特許法を改正したわけではなく、現行法の枠内での「論文ベース出願」という便宜的な方法である。

先ごろ開催された大学技術移転協議会や関東経済局の報告会での特許庁の説明では次のような内容であった。

従来、出願日の確保に必要な様式は、①特許願、②明細書、③特許請求の範囲、④要約書、⑤図面などの書類の作成である。これでは時間がかかり負担が 大きい。そこで現行制度の対応で、補正機会の活用や国内優先権制度の活用で次のように出願日を確保できるとする新方法を特許庁が認めるというものだ。

出願書類の作成には、論文記載の内容から転載を認める。

特許請求の範囲は、論文の要約などをそのまま転載する。
明細書は、論文本文を転載する。
図面は、論文中にある図面を転載する。
要約は論文の要約を転載する。
論文以外に新たに作成するものは「特許願」だけである。特許願とは、表紙に相当するもので提出日、国際特許分類、発明者、出願人、出願代理人などを記載したものだ。

 

この方法を使うことによって、最小限の労力で論文の転載だけで出願することが可能だという。簡便になったという点では結構であり、出願した後に特許明細書、特許請求の範囲、図面などを補正することが可能だという。現行制度の枠内だから、これも当然といえば当然だ。

また、国内における以前の出願(特許または実用新案)から1年以内に、その出願内容を修正または追加した新たな出願ができる「国内優先権主張出願」ができる。つまり以前の出願日を確保したまま(優先)、新規発明を追加できるというメリットがある。

この方法を「日本版仮出願制度」と受け止めている大学関係者が多いようだが、この方法を正確に理解して利用しないと後で困ることになりかねない。

明細書に書かなければならない内容が全て記載されている論文であれば問題はないが、ほとんどの論文はそのような内容を持っているとは考えられない。

だから将来、特許権利を主張しても思惑通りの権利になっていないことが考えられる。これまでこの方法を実質的にやっている研究者もいたが、実際に権利にならないことが多かったとも聞く。

補正ができるといっても補正は、出願明細書、特許請求の範囲、図面などに記載した事項の範囲内でしなければならない。だから論文の中で発明を十分に 開示していなければ、補正で新たに権利を広げることはできない。きちんとした明細書に補正したところで、審査官から出願当初のどの部分に開示されていたか を厳しく問われることもあるだろう。

特許庁の説明は、論文をベースにしてこれくらい直せば明細書として受け取れるという最低水準を示したに過ぎないものではないか。これは単に出願のフォーマット変更程度のものと理解したほうがいいのではないか。

このように理解すると論文転載だけで出願することは、出願日を確保するための「緊急避難」程度のものであって、細心の注意をはらった出願書類を作成 しなければ、権利化しても意味のないものになりかねない危険をはらんでいるように思える。大学や研究者たちに、この問題の本質部分が理解されていなけれ ば、後で問題を引きずることになりかねない。

このようなリスクを背負った方法であるなら、いっそのことアメリカの仮出願制度にならって、日本でも制度改正をして仮出願制度を導入するべきではないのか。その方がすっきりした制度になり、利用者にも周知徹底できるのではないだろうか。

特許庁は早急に日本版仮出願制度を実現してほしい。

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