コラム

日本企業の特許戦略は大丈夫なのか

世界の企業の盛衰を占う特許登録動向

世界の企業の特許戦略の動向を見るときに、最も注目されている指標の一つがアメリカ特許商標庁(USPTO)が毎年年頭に発表する企業別特許登録件数である。先ごろ2016年に取得した企業の登録件数が発表された。

アメリカの特許関連調査会社のIFIクレイムズ・パテント・サービス(IFI Claims Patent Services)は、毎年、登録企業の件数のランキングを発表している。今年のランキングを見ながら考察してみたい。

まず、特許取得上位50位までのランキングは、次の表のとおりである。

出典:IFI Claims Patent Services

http://www.ificlaims.com/index.php?page=misc_top_50_2016

トップのIBMは、8088件で過去24年連続トップを維持している。人工知能(AI)関連の特許が1100件を超えており、次世代の産業発展のカギとなると言われるAI分野で、IBMは世界のリーダーになることを予感させるような特許活動である。

上位5位までは、昨年と同じランキングだが、6位から9位までの4社はインテル、韓国のLG電子,マイクロソフト、世界最大の台湾半導体メーカーのTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd)があがってきた。

トップ10から陥落した企業は東芝(前年6位)であり、ソニーがかろうじて7位から10位まで下がったが踏ん張った。東芝の経営危機問題は、連日、メディアでも取り上げられているが、アメリカでの特許動向を見ても、東芝の衰退に影を落としているのではないかとの印象が強い。かつての東芝の復活を期待したい。

勢いを感じさせる企業

トップ50の中で、対前年比で著しく増加させた企業は勢いを感じる。たった1年間で2倍以上の登録数を出したのは、中国の液晶パネル製造のトップメーカーのBOE Technology Groupである。世界中のスマホの5台に1台、タブレット端末の約3台に1台は、BOE社の液晶パネルが使用されているという。急激に特許取得数を増やしたのは、研究開発で意欲的に取り組んでいるからである。この分野の韓国、アメリカメーカーとライバル関係になったとみていいだろう。

アメリカの半導体メーカーのグローバルファウンドリーズも1年間で2倍以上の件数を登録した。この企業は台湾のTSMCに次いで世界第2位の半導体メーカーであり、IBMの半導体事業を買収したりアブダビ首長国からの投資を引き出したり経営面での積極性は、技術開発でも活発であることを裏付けている。

液晶パネル、半導体共に日本が技術面でリードしていた分野である。それが今や見る影もないくらい存在感が薄くなっている。日本企業は技術開発だけでなく、経営戦略でも世界の潮流に後れを取っているのではないか。

このほか上位50の中でかなり件数を伸ばした企業は、6位のインテル、14位のアマゾン、中国の通信機器メーカーで25位のHuawei(華為)、韓国の自動車メーカーで31位のヒュンダイ、49位のフィンランドのノキアである。世界トップクラスの通信機器メーカーにのし上がったHuaweiは、中国での特許出願件数は減少に転じているが、外国出願は増やしている。これについてHuaweiは、「特許の量より質という国家の方針にも共鳴し、質の高い特許出願を行っている」とコメントしている。特許戦略の一環なのだろう。

フィンランドのノキアは、携帯電話端末機であっという間に世界トップになり、世界中をあっと言わせた。ところが、その後、サムスン、アップルなどの追随を許し、下降線をたどり始めるとすかさず携帯電話事業をマイクロソフト社に売却し、シーメンス社の通信設備事業と合弁して新たなノキアとして再出発した。携帯電話から総合通信機器メーカーへと転進したのである。

IFI Claims Patent Servicesの発表ランキングから作成

国籍別に見た企業の増減動向

企業の国籍別に対前年比登録数の増減を見たのが次の表である。対前年比の増減を対比すると、アメリカは12対6で対前年増加が2倍、韓国は5対0で完勝、中国も2対0で同じだが、日本は5対12でダブルスコア以上の衰退である。

対前年比で増加した企業数

アメリカ

12

日本

5

韓国

5

台湾

1

中国

2

ドイツ

1

オランダ

1

フィンランド

1

スウェーデン

1

合計

29

対前年比で減少した企業数

アメリカ

6

日本

12

台湾

1

ドイツ

1

カナダ

1

合計

21

推移を見ると時代の先端を走る特許技術が見える

個別の企業の特許動向を見るために2001年、2010年、2016年の特許登録件数のトップ20の推移を調べたものが次の表である。

IFI Claims Patent Servicesの発表ランキングから作成

トップ20の動向を見ると、産業構造の変革と個別企業の消長を見ることができる。コンピューター時代を築いた巨人・IBMは、この24年間トップを譲らないのは、IT産業革命に入っても産業現場の覇権を握っているアメリカ産業の強さの象徴であろう。

このIBMを除いた2001年から2016年までの企業別消長を見ると、次のように分析できる。

まず韓国のサムスン電子だが、5→2→2位と同社の業績拡大と歩調を合わせるように件数が増加している。またキヤノンも3→4→3位と上位を維持して堅調であり、日本を代表する特許企業になっている。

また、アメリカの半導体産業のリーダーになっているインテルが、着実に件数を伸ばし、16→8→6位となっている。日本の半導体企業が衰退の一途をたどったことを見ていると、経営戦略の違いを見せつけられるようだ。

代わって2016年からグーグル、アマゾンという新顔がトップ20に出てきた。グーグルは、自動運転の電気自動車の開発で、にわかに自動車分野で存在感を出してきた。アマゾンも、ワンクリック特許の期限が切れたのと交代するように、「予期的配送」という野心的な特許を取得するなど新たな産業開発を予期させる動向だ。この特許は、顧客が注文する前にこれまでの注文実績などをもとに、顧客が望むと予想した商品を、注文がある前に箱詰めして出荷するという特許だという。

また「室内でさまざまな物体に映像を表示できるコンピューター制御のプロジェクターと画像化システム」に関する特許出願も行っている。部屋の中でユーザーが映像や物体と組み合わせて空間デザインを考えるために有効ではないかという。

そんなことが事業として成り立つのかと思わせるような特許技術だが、開発するには世界を変えようとする野心があるのだろう。

アマゾンは、このほかにも空に浮かべた飛行船の巨大倉庫から小型無人機「ドローン」で顧客に商品を届けるビジネスを実現するための一連の特許を出願しており、ドローンを使った実際の配送も初めて成功している。中国でもドローン配送の開発に取り組んでいるようだ。

下降線たどる日本企業の特許活動

日本企業はどのような動向なのか。2001年、2010年、2016年の推移を見た個別企業の順位を列挙してみた。参考までアメリカのGEも調べた。

日本企業とGEの順位の推移

(注)日立は分社化して特許出願をしたため、これまでの「日立」が分散したものとみられる。

これを見るとかつて特許出願・取得で、日米で存在感のあった日本企業の衰退ぶりは明らかである。先に述べたキヤノンを除くと軒並み下降線か横ばいになっている。

これに対し、エジソンが創業したGEは、時代と共に電機関係の巨大メーカーとして君臨し、金融・保険事業まで拡大している。特許取得でもしぶとく生き残っており、3Dプリンターを利用した大胆な製造工場を実現するなど時代の変革に合わせた企業に衣替えしてきた。

日本企業も国際的な企業戦略を展開し、技術開発でもアメリカ、中国、韓国に負けずに復活してほしい。

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