コラム

日本人の知恵を集めて作った山形の新しいコメ「つや姫」

中国雲南省のバイオプラントコピー工場事件のその後の報告

この欄で数回にわたって報告してきた「知財の正当な権利を認めた中国・雲南省の裁判所 ~正義も義理も人情もない中国人技術者と闘った日本企業の全面勝訴」のその後の動向である。

この事件はいま収束しているように見えるが、水面下では日中の様々な制度や仕組みについての研究課題をめぐって、いまなお対応策の詰めが続いてい る。筆者が勤務している東京理科大学の知財専門職大学院(MIP)の授業では、このテーマを講義し、こうした違法行為に日本社会と企業はどのように対応す るべきか討論も行っている。

いずれにしても動きが出た時点でまた続報をお届けしたい。

山形県の新品種コメ「つや姫」戦略

図や写真はいずれも山形県の許可を受けて山形県関係のHPから転載しました。
関連HP : http://www.tuyahime.jp/feature/quality04.html

「つや姫」の種もみ無許可販売で逮捕
山形県が長年かかり丹精込めて開発したコメの新品種「つや姫」(山形97号)は、コメ市場でも急速に人気が高まり、一時代を築いたコシヒカリを追い越すのではないかとの期待も高まってきた。

山形県では「山形つや姫ブランド化戦略推進本部」まで設置し、いかにブランドを確立してそれを保護するか県をあげて取り組んできた。つや姫の種子が 無原則に広がるのを防止するため、種子の譲渡条件は県内の場合は県が認定した生産者や生産組織に限定し、他都道府県に対しては奨励品種への採用があり、山 形県と同様の栽培を行う場合だけ譲渡することにしていた。

山形県警本部生活環境課と山形署は、7月12日、愛知県知多市の農業の男性(58)を、種苗法違反(育成者権の侵害)の疑いで逮捕した。種苗法では新品種開発者保護を目的に同法改正をしていたが、その改正後の逮捕は初めてである。

山形署によるとこの男性は、自分の田んぼでつや姫を栽培し、種もみを採取していた。そして自分のホームページで販売をしていた。

昨年12月から今年の2月にかけ、埼玉県と宮城県の生産者3人につや姫の種もみ5袋(約12キロ)を、合計2万9000円で販売していた。販売にあたっては山形県の許可がなかった。

摘発の端緒となったのは、今年の4月に山形県職員がこの男性のホームページを確認したことだった。販売した種もみは田んぼで作付けされており、県警が回収してDNA鑑定をしたところつや姫であることを確認し、強制捜査に踏み切った。

こうした違法行為を放置すると、例えば中国など外国にも種もみが流れてしまい、つや姫を長年にわたって開発した苦労が報われないだけでなく、市場で の競争力も失って健全な産業現場が確保できなくなる。知的財産権を守らなければ刑事摘発するという社会を構築しないと、途上国で製造された違法製品が輸入 されることにもつながっていく。

バイオプラントのコピー工場事件が反面教師にもなっている。

コシヒカリを凌駕した食味と外観
つや姫とはどのようなコメだろうか。財団法人日本穀物検定協会の食味官能試験などによると、つや姫は外観ではつやがあり粒もそろっている。味は「甘みがある」「うまみがある」などの評価が出ている。分光測色計では炊飯米の白色度は、コシヒカリより高かった。

炊き上がったご飯の表層の硬さの値が大きく、粒が崩れにくくしっかりしている。慶應義塾大学先端生命科学研究所の分析では、アミノ酸の中のグルタミン酸、アスパラギン酸の含有量がコシヒカリよりも大きかったという。

また山形県農業総合研究センターなどによると、つや姫は草丈が低く倒れにくい品種であり、いもち病の耐性遺伝子も持っているという。耐冷性は中程度とされている。

(注)図の中のコシヒカリは、いずれも山形産コシヒカリである。

日本穀物検定協会のランキングでは、2008年、2009年産米の評価でも参考品種ながらも「特A」にランクされている。また2010年の夏は記録 的な猛暑であり、一等米比率は全国平均で63パーセントだった。これは過去最低である。ところが山形県産つや姫の一等米比率は98パーセントであり検査数 量2000トン以上の国内品種として最高値だった。

このように高温耐性では優れた品種であり、東南アジアなど熱帯地方でも十分に育成できる品種ではないかと思う。それだけに種もみが違法に海外に持ちだされることがないように今後も監視が必要になるだろう。

【水田農業試験場 H14~H18】

品 種 収穫時期 収 量
(kg/10a)
(比率)
栽培しやすさ
(倒伏程度)1)
玄米の光沢
(白度)2)
粒ぞろい
(粒厚2.0mm
以上の割合)3)
食味
(総合評価)4)
つや姫 10月上旬 541(110) 0.4 17.5~19.5 53.4% 0.35
コシヒカリ 10月上旬 492(100) 2.4 16.6~19.7 48.2% -0.08
1. 倒伏程度:0~5(数字が大きいほど倒れている)
2. 白度:最適値は20、白粒が混入するほど数字が大きくなり、着色粒が多いほど数字が小さくなる。
3. 粒厚:玄米の大きさが2.0mm以上の粒の割合が多いことを示し、粒の大きさが揃っている。
4. 食味官能試験で炊飯米の外観、香り、味、粘り、硬さの各評価項目を総合して点数をつけたもの(数字が大きい程良い)
―――――基準米:水田農業試験場産はえぬき

2011年10月10日、デビュー2年目の「つや姫」全国販売開始イベントが、CM出演の阿川佐和子さんらを迎え、東京都内のホテルで行われた。

「つや姫」 のおいしさのルーツ
つや姫の品種改良のルーツをたどっていくと、明治時代に山形県庄内町(旧余目町)の阿部亀治氏が育成した品種「亀の尾」まで、さかのぼることができる。 この品種は非常においしいことからコメの品種改良の交配親としてよく用いられ、その食味はコシヒカリに引き継がれていった。

コシヒカリは、その実力が認められて全国的に作付けが拡大していったが、いつしか品種改良の現場ではコシヒカリの上を行く品種改良への欲が広がって いった。そこで平成10年から山形県立農業試験場庄内支場(現山形県農業総合研究センター水田農業試験場)で、つや姫となった「山形97号」の試験育成を 始めた。

育成期間を短縮するために、世代促進ハウスを暖房して冬も栽培した。ほ場の栽培では、苗を一本ずつ植えて病気に強いか弱いか、収量がよくなるかどうかなど辛抱強く観察しながら選抜しては育成を繰り返し行った。

また開発者たちは、育成当初から収穫したコメからご飯を炊いて食味試験を行いながら、つや姫への完成品種を確立した。

長い年月と開発者たちの辛抱強い努力が知的財産権として保護されなければ、新たな品種も文化も生まれ育ってこない。今回の摘発はそれを再確認させたものであり、農業の世界でも知財の重要性を示した事件であった。

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