日本を追い抜いた中国の科学技術研究と知財制度 (その4)
世界に類を見ないハイテクパーク
中国の発展を支える技術開発基盤になっているのが、大学と大学周辺に設置されている各種のハイテクパークである。これは世界の中でも例を見ない中国独特の制度であり、経済活動の基盤に結びついている。
中国の企業には、従来、研究開発部門はなかった。新技術を開発して競争力のある製品を世に出すという意気込みは、国営企業にはなかったのである。
現在は企業の研究開発部門を肩代わりする形で大学の研究者、研究機関が様々なテーマで研究成果を企業に移転し、それに伴って続々とハイテクパークが生まれていった。
国家ハイテクパーク(2015年:10種類、842か所)
出典:中国科学技術部タイマツハイテク産業開発センター(2016統計手冊)、
総生産額は購買力平価による換算。JST中国総合研究交流センターが作成。
大連ソフトウエアパーク
広大な中国の国土に散りばめられたハイテクパークは、研究成果を生み出すとすぐに知的財産権で囲い、企業に移転して実用化を進める。中国の産業がにわかに進化して進展していった原動力ともいえる。
世界最大の研究機関である中国科学院
さらに中国には、世界最大の研究集団組織の中国科学院がある。中国科学院は分院が12、研究所が104あり、付属大学として中国科学技術大学、中国科学院大学、上海科学技術大学がある。さらに直属の企業21社を経営している。
研究所の職員は約12万人とされており、研究者ら5万6千人、大学院生4万8千人、ポスドク4330人などとなっている。
予算規模は1兆400億円(購買力平価換算)であり、論文数は世界トップの26万1505本である。いずれも
水準の高い内容であり、官界、大学、企業への人材供給源となり、中国の科学技術ネットワークの中心になっている。
さらに特許の出願件数は、2017年に1万3292件であり、うち海外出願が582件となっている。
中国科学院
機能する経済特区
中国で見逃せないのが国際交流、産業界、地方政府のイノベーションを強力に牽引している経済特区の
現場である。
この政策は第1段階(1979年-1988年)の10年間だった。
これは1979年7月に、広東省の①深?、②珠海、③汕?と福建省の④アモイ市を「輸出特区」に指定し、1980年に「経済特区」と改名した。
税制、創業、輸出、インフラ整備などの優遇策と資金援助を展開し、現在の繁栄を築いた。
第2段階(1988年-1992年)は、1988年4月、上記4特区の発展をモデルに、さらに海南市を経済特区として
指定。中国南部の沿海地域の発展につなげていった。
第3段階(1992年-2010年)は、1992年から、上海浦東、天津浜海などを指定して沿海地域の全面発展に
つなげていった。
第4段階は、2010年から始まって現在に至るものだが、2010年5月、西部内陸地域の発展を促進するため、
新疆ウイグル自治区を指定し、カシュガル市とコルガス市を「経済特区」に指定している。
戦略的な科学技術政策が生み出した今日の繁栄
中国がなぜ、今日のように急速に発展したか。その基盤は科学技術政策にある。科学技術政策をもとに研究成果が蓄積し、知的財産権の制度強化へと発展していった。
1949年10月1日、毛沢東が中国建国を宣言した。その時から中国政府にとっての最重要政策は科学技術だった。毛沢東は、中国が西欧、日本などからの侵略を許した歴史は、科学技術の遅れにあったという反省にたち、西欧に太刀打ちできる科学技術が必要だと考えた。
この政策は、政権が代わっても不変と位置付け、膨大かつ綿密な5年ごとの科学技術計画(現在第13次5カ年計画)を打ち出してきた。この計画実行のために膨大な行政組織を構築して、着実に実績を積み上げてきた。
科学技術投資と教育投資の確保
中国の科学技術進歩法の第六章第五十九条には「国が科学技術の経費に投入する財政資金の増加幅は、
国家財政における経常収入の増加幅を超えるものとする」というすごい条文がある。
さらに中華人民共和国教育法の第55条には、「・・各レベルの人民政府の教育支出の伸びが財政計上収入の伸びを上回るようにする・・」となっており、「国家中長期教育改革と発展規画綱要2010-2020年には ・・GDPの4%超・・」となっている。
中国の最大の強みは教育投資と科学技術投資を政権が代わっても一貫して崩さないできた点だ。建国以来、営々と40年間蓄積させてきた戦略的政策と確実な投資が、IT産業革命の波に乗って一挙に花が開いたと見ていいだろう。
日本語の授業の様子。すべての教室に,パソコン画面を映す電子黒板が設置されている。
外務省HP https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/kuni/0601china.html )より転載。
「第13次5ヵ年計画(2016-2020)」の重点分野とメイド・イン・チャイナ2025を紹介する。
「第13次5ヵ年計画(2016-2020)」の重点分野
•(1)国際環境の変化及びわが国の発展に対する影響
•(2)経済の転換・グレードアップの動力メカニズムと制度・環境
•(3)イノベーション駆動による戦略の重点とイノベーション型国家の建設
•(4)教育の現代化と人材強国・人的資源強国建設の推進
•(5)経済構造調整の主たる攻め口と戦略措置
•(6)消費需要拡大のための長期有効なメカニズム
•(7)工業の構造のグレードアップと配置の最適化
など25分野
メイド・イン・チャイナ2025
•①製造業のイノベーション能力の向上
•②情報化と工業化の高度な融合の推進
•③工業の基礎能力の強化
•④品質とブランドの強化
•⑤グリーン(環境保全型)製造の全面的推進
•⑥十大重点分野の飛躍的発展の推進(次世代情報技術、高度なデジタル制御の工作機械とロボット、航空・
宇宙設備、海洋エンジニアリン グ設備とハイテク船舶、先進的な軌道交通設備、省エネ・新エネ車、
電力設備、農業機械、新材料、生物薬品・高性能医療機器)
•⑦製造業の構造調整の推進
•⑧サービス型製造と生産関連サービス業の推進
•⑨製造業の国際化レベルの向上
最後に沖村憲樹氏の所感を紹介
中国の科学技術行政を日本の行政マンとして最もよく知っている沖村憲樹氏(元JST理事長)は、現在の中国と今後の動向について、次のような所感を述べている。
まず、人口14億人は、米国、欧州諸国、ロシアの合計より多い国でしかも単一言語で成り立っている大国であることを再認識するべきだという。
また、高度の交通システムによって、広大な国土が有機的に活動を展開している点もすごいエネルギーを発散しているという。
高速道路は、2016年13万㎞あったものが、2020年に15万㎞に延長する計画だ。日本は9165㎞だから日本の15倍強になる。
中国新幹線に代表される高速鉄道は、2017年3.5万㎞だが、これを2020年には、
4.7万㎞まで延長する。日本は2765㎞だから17倍の長さになる。
中国の新幹線
空港の整備も急ピッチで進んでいる。先日、雲南省の昆明空港に行ってその規模の大きさにびっくりした。
東南アジアとつなぐハブ空港にするという目論見があるので、どでかい空港設備を実現してしまった。
現在、中国には244空港があるが今なお78空港が建設中であり、港湾、橋梁なども着々と整備が進んでいる。
高度のインターネット、通信システムも整備されてきている。
こうした数字をあげながら沖村氏は「共産党一党独裁、国全体で練り上げられた計画による規律ある実行を展開しているので、超高効率かつ巨大な経済軍事共同体が出来上がってきた。地政学的にもユーラシア大陸の中心に位置し、ヨーロッパ技術文化、アジア、アフリカのダイナミズムを吸収している。習近平全人代演説に見るように、2049年までに米国と並ぶ世界の超大国強国になるのは夢ではないのではないか」と語っている。
中国の科学技術政策と日中交流について語る沖村憲樹氏
さらに沖村氏は「日本にとって中国との交流・協力は不可欠であり、日本は早急にグローバル化思考に立ち、中国を中心としたアジア、世界のダイナミズムを吸収しながら、成長していく姿勢が肝要だ。そのためには人の交流が基盤になる」と結んでいる。
沖村氏は、この考えに沿ってアジアの優秀な若者を日本へ招へいする「さくらサイエンスプラン」を先頭に立って実施している。その計画・実施内容については別途、紹介したい。
おわり