コラム

日本の企業社会に巣くう「産業スパイ王国」を返上できるのか

産業スパイ活動の実態を詳細に書いた本の出版

日本は、以前から産業スパイが跋扈する「産業スパイ王国」と言われてきた。企業の中で不遇をかこっていたりリストラされた従業員が、韓国、台湾、中国に渡った技術を不当に漏えいしたり企業情報を持ち込み、多額の報酬を得ているという噂が絶えなかった。

これは単なる噂ではなく、真実であることを決定づけたのが、2012年4月、新日本製鉄(現・新日鉄住金)が、「特殊鋼板の製造技術を盗まれた」として、元従業員技術者と韓国の鉄鋼メーカー、ポスコに損害賠償を求めて東京地裁に訴えた事件である。
1990年ころに新日鉄を辞めていった複数の技術者たちが、企業秘密になっていた特殊鋼板の製造技術をポスコに流し続け、ポスコはその技術を使って新日鉄が独自に開発した鋼板技術に追いついてきた。

この事件は2015年9月、ポスコが300億円を新日鉄住金に支払うことで和解した。ポスコが今後、特殊鋼板の製造販売に関するライセンス料を新日鉄住金に支払うことなども合意事項に含まれているとされている。
アメリカでの訴訟なら、軽く1000億円を超えた損害賠償支払いと予想される。和解が異常に多い日本の知財訴訟で、ポスコは救われたのではないか。韓国の大手企業が、日本では正当に特許を守ってもらえないので、日本には出願をしなくなっていると聞く。アメリカの大手企業も同じである。

渋谷高弘氏の著書

産業スパイ活動は、地下に潜って実情が分からない状況が続いていた。その実情を丁寧な取材と裏付けで書いた本「中韓産業スパイ」(日経プレミアシリーズ)が昨年出版されて話題となった。

執筆者は日本経済新聞社の渋谷高弘・編集委員である。第1章をこの新日鉄産業スパイ事件の顛末で埋めており、詳細に訴訟での争点が解説されている。それを読むとポスコ側は、訴訟理由とした不正競争防止法違反の対象になる営業秘密の管理が不十分だったとする理由を執拗に追及している。
つまり日本の旧不正競争防止法では、営業秘密であることを立証する条件が厳しすぎるとして使い勝手が悪いとされていた「欠点」を衝いてきたことになる。こうしたこともあって昨年、改正不正競争防止法が成立し、今年1月から施行されている。罰則が引き上げられ、警察などの捜査当局は被害届がなくても捜査・摘発できる法制度に改正した。

さて渋谷氏の著書だが、これまで話題となった日本の産業スパイ事件を検証し、旧不正競争防止法の欠陥と日本企業の営業秘密管理の取り組み、そして中国、韓国などに流れていった技術とスパイ行為の手法などについて詳しく記述している。

この本は、日本企業の知財部門のスタッフにとって必読の書である。企業が産業スパイから守るための処方についても言及しており、サイバー攻撃から守る術やセキュリティ対策にも広げている。

改正不正競争防止法でどれだけ産業スパイを摘発できるか

日本企業の中に潜り込んでなかなか露見してこない産業スパイの実態だが、2015年2月9日付け、日本経済新聞の社会面トップで、企業が積極的に捜査当局に情報提供してスパイ行為を摘発するべきとの主張で報道している。

この記事では、企業側は産業スパイに被害があっても顧客への信用棄損を恐れて警察沙汰にしたくないという風潮を報告している。警察でもこうした事実をつかんだ際には独自に捜査して摘発できるために、専門の捜査員を要請し、企業にも積極的に相談を促すように働きかけているという。
この報道も参考になるので、是非、企業の知財担当者は読んでほしいと思う。

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