日中大学F&Fパネル
日中の産学連携の違いを認識したい
日中の大学の交流推進を行っている国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)の中国総合研究交流センターは、今年も8月26日からパネルディカッションと中国の大学の研究開発の発表会を行った。
中国の大学は、過去10年間を振り返ってみても、研究開発と産学連携は驚くような速さで進歩している。今年は、中国の31大学が研究開発の中でも注目するべきテーマをポスターで掲示し、日本企業とのマッチングを期待していた。
折しも「イノベーションジャパン 2015」の開催と同時開催にしたため、会場の東京ビッグサイトには日本の多数の大学、企業が最新成果をポスターで発表し、連携を探る交流が展開されており、中国の大学人も日本側のブースを回って、討論を展開していた。
日中大学と企業人のパネルディカッションの開催
ビッグサイトの展示会に先立つ8月26日、東京・青山の国連大学ウ・タント国際ホールで、「日中産学連携の現状と展望 ‐アジア新時代のイノベーションを目指して‐」をテーマにパネルディスカッションを行った。
パネリスト
曹 兆敏 上海交通大学国家科技園董事長
李 光明 同済大学学長補佐、科学技術研究院副院長
古川 勇二 職業能力開発総合大学校学長
鈴木 廣志 昭和電工株式会社事業開発センター グリーンイノベーションプロジェクトプログラムマネージャー
モデレータ
角南 篤 政策研究大学院大学教授
コメンテータ
小原 満穂 科学技術振興機構理事
ウ・タント国際ホールで開催された日中大学フェア&フォーラム
産学連携について討論したパネルディカッション
パネルディカッションでは、日中双方のパネリスト4人がそれぞれの活動内容を発表し、将来展望と日中間の交流などについて意見を述べた。この詳細な内容については、いずれJSTのサイエンス・ポータル・チャイナで公表されるので、ここでは日中の産学連携についての基本的な認識について解説したい。
中国の大学の産学連携の基本形態
というのも、こうした基本的な認識は日本の大学人、企業人にも意外と理解されていないからだ。この点についてパネルディカッション後にパネリストの曹兆敏・上海交通大学国家科技園董事長と話し合ったが、曹董事長もまったく同じ意見だった。
中国の大学の研究開発の成果は、特許出願、権利化をし、企業への技術移転か大学発のベンチャー創業が期待されている。その期待度は、日本の大学とは比較に ならないほど強く大きな期待になっている。したがって中国では大学の技術開発の成果がどのくらい実用化につながっているかが大きなテーマになっている。大 学の社会貢献という物差しで語られることも多い。
どうしてこれほど大学が実用化への貢献が求められるか。それは中国の企業の研究開発部門は、極めて貧困だからである。中国の企業の研究開発部門は、地域の大学がになっているというのが中国の社会の構造になっている。
最近の中国を代表する企業、例えば華為技術(HUAWEI、ファーウェイ)や海?集?(Haier Group、ハイアール)などは研究開発部門も充実し、多くの特許出願をしている。売り上げの何パーセントは開発費に充てるという目標もきちんと果たしている。
このような企業は中国ではまれであり、多くの企業は研究開発部門を実質的に持ってこなかった。いまIT産業革命時代を迎えて、国際競争力が求められているため先端研究開発はどうしても大学の研究者らに頼らなければならない。
中 国の大学の周辺にあるサイエンスパークという集団と機能も企業の研究開発のサポート部隊と理解するとよくわかる。中国の大学人の中には、あと20年後にサ イエンスパークは自然消滅するだろうと予想する人もいる。企業への技術移転が終わり、大学発の企業が活動する時代になれば、サイエンスパークの役割はなく なってくるという予想だ。
したがって大学の社会貢献という立場と意味は、日中間では大きく異なってくることになる。中国の大 学の研究が、基礎研究よりも応用研究、実用研究にひどく偏っているのもこのような事情からだろう。曹董事長は、「中国からのノーベル賞受賞者は今後もあま り期待できない。いましばらくは実用研究に偏った時代が続くだろう」と語っている。
中国の大学でも魅力的な成果も出ている
東京ビッグサイトで開催された日中大学の研究開発の成果を発表する「イノベーション2015」は、多くの参加者でにぎわった。今年から中国側の大学の発表は、ほとんどが日本語で発表しており、非常に分かりやすかった。
発表した中国の31の大学、研究機関の内容は、下記のサイトにあるので是非、閲覧にしてほしい。実に多彩な成果が発表されている。
https://www.jcff.info/jp/views/seminar.html
訪問する人々でにぎわう中国の大学ブース
中国の大学から個別の研究成果の発表が行われた
中国の亜熱帯地方・海南医学院の研究開発が大もて
出展中の中でも海南医学院が、海南島の特産材料を応用した医薬品、化粧品、香料などの開発を発表して注目を集めていた。日本企業5社と2大学がブースを訪れ、これからの共同研究や製品開発などで話が進んでいるという。
海南島は亜熱帯地方に入るので、植物相も独特のものになっている。「バジリコにきびケア顔面パック(シート)」は、芳香植物バジリコを使い、その他の 補助剤を加えて開発した顔面パック(シート)だという。にきびや毛包炎、皮疹などに治療・抑制作用を持つということだった。
また、「パパイヤしわ防止洗顔不要フェイシャルパック」とか芳香植物のシトロネラを材料にした香料などいずれも海南島の材料を使った製品を展示し、話題を集めていた。
開発した製品を説明する海南医学院の曹教授(左)
開発商品を日本語で説明して掲示していた
開発した化粧品や健康食品を展示
海南島の植物から製品化した化粧品なども紹介