コラム

日中の光触媒の特許と実用新案の動向

産学連携の典型的な事例
酸化チタン光触媒の原理を発見したのは、藤島昭・東京理科大学学長である。発見したのは1967年だが、いま実用化の波が世界中で広がっている。毎年、ノーベル賞の有力候補として話題になっており、いずれ受賞する日が来るだろう。
その酸化チタン光触媒の研究開発経歴を箇条書きにすると次のようになる。

① 酸化チタン光触媒の基本原理が大学で発見された。(1967年)

② 実用化研究に取り組んだがうまくいかず、成果は休眠状態になった。

③ 原理発見から22年を経て、大学で光触媒の応用研究が始まった。(89年)

④ 大学からの呼びかけで民間企業がその応用研究に参入してきた。(90年)

⑤ 産学協同研究で大学は基本理論を、企業は実用化でそれぞれ力量を発揮して光触媒タイルを開発した。(95年)

⑥ 企業は光触媒の実用化で、多数の強固な関連特許を世界中に出願した。(95年から)

⑦ 企業は特許技術を内外の企業にライセンスして、光触媒技術を広げた。(97年)

⑧ 大学は企業で担当した研究者をスカウトして教授にした。(98年)

⑨ 大学教官となった企業人はTLO活動を手がけるなど産学連携の推進役になった。(98年から)

こうして日本で初めてと言ってもいい産学連携発の優れたオリジナル技術が世界へと広がった。

 

人工光合成の発見の瞬間

酸化チタン光触媒は、人工光合成とも言われている。その発見は次のような経過を辿った。

67年(昭和42年)春、東大工学部大学院の2年生だった藤嶋昭先生は、電子写真などの画像材料の基礎研究をするため酸化チタンを電極にし、一方の 対極に白金電極を使った閉回路を作った。両極を水の中に入れ、それに水銀灯の強い光を当てる実験を行った。すると両方の電極から泡がぶくぶくと沸いてい る。電流計をみると電気が流れている。電極になっている酸化チタンは半導体である。半導体に熱を加えたり、光を当てるなどある条件を加えると電気を伝える 性質がある。

ためしに光を止めてみると泡の発生も止まるし電流も流れなくなった。藤嶋先生は泡を集めてガスクロマトグラフで分析してみた。驚いたことに酸素と水 素が発生していた。光をあてただけで水が酸素と水素に分解したのである。植物の光合成と同じようなことを、人工的に実現してしまったのである。

それから1年がかりで酸化チタンによる光分解の研究に取り組み、69年に日本化学会の「工業化学雑誌」に論文として発表した。最初は多くの研究者か ら疑問視され、相手にされなかったという。藤嶋先生を指導していた助教授の本多健一助教授は、逆風を跳ね返し実験を積み重ねてこの原理を確立した。その 後、この現象は2人の名前を取って「ホンダ・フジシマ効果」と呼ばれるようになる。

太陽光だけで水を分解できるとなれば、水素を取り出して燃料として利用できるのではないか。しかし実際には微々たる水素しかとれないのでとても実用 化まではいかない。その後もさまざまな実験をし、実用化の手がかりを求めたがどうしても役に立つものが生まれてこない。「ホンダ・フジシマ効果」は基礎研 究の成果のまま深い眠りにつくことになる。

 

第2段階の研究で実用化が開かれる

発見から22年経った89年になって、藤嶋研究室の助手になった橋本和仁先生(現東大先端科学技術研究センター教授)が、トイレの臭い消し、黄ばみ 消しに使えないかと考えた。大手メーカーの東陶機器(TOTO)と連絡をとり、同社の基礎研究所で脱臭装置の研究に取り組んでいた渡部俊也先生(現東大先 端科学技術研究センター教授)らとの共同研究へと発展する。

トイレの臭いは、尿に含まれるアンモニアを細菌が栄養分にして増殖し、アセトアルデヒドやメチルメルカプタンなど悪臭を発する有機物が生成されるか らだ。これを光触媒で分解できないかと考え実験が進んだ。さまざまな条件を加えて実験を重ねているうち、弱い蛍光灯の光にも紫外線があることを確認し、蛍 光灯程度の光でも光触媒が有効に機能してメチルメルカプタンが分解されることを突き止めた。

タイルに酸化チタンの膜を貼り付ける技術開発に成功する。タイルの表面に酸化チタン膜を貼りつけて実験をしてみると、大腸菌や緑膿菌、抗生物質の効 かないやっかいなMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)をほぼ100%死滅させた。清潔感があり、きれいなタイルに抗菌効果という付加価値がついた。

ホンダ・フジシマ効果の発見から27年を経た97年秋に、東大とTOTOの研究者が共同開発した光触媒を応用したタイルが市場へ出て行くことになる。いまTOTOが売り出している抗菌タイルは、同社のタイル全体売上の70%までシェアを伸ばしている。

その後、酸化チタン光触媒は、ガラスの表面に薄く塗布しておくと、汚れを分解し雨によって流してしまうクリーン作用の効果があることが分かった。ま た壁材などに塗布すれば汚れ防止にもなる。水を弾き飛ばす撥水効果があることや水蒸気でガラスが曇るのを防止する作用があることなども分かり、応用範囲が 広がった。

 

酸化チタン光触媒の特許登録の動向

当時の藤嶋研究室には、優秀な中国人留学生が多数来ていた。研究室で実績をあげ「ネーチャー」などのメジャーなサイエンス・ジャーナルに論文を掲載 し、博士学位を取得して帰国した中国人研究者は、その後も多くの研究実績をあげて来た。酸化チタン光触媒の実用研究は、世界の中でも日中が最も進んでいる 特異な分野となった。

そこで筆者は、光触媒関係の特許、実用新案の出願・登録動向を調べるため発明通信社のデータベースから抽出する委託研究を行った。その結果と分析 は、先月北京で開催された第17回日中知能材料学会で王蕾(中国科学院自然科学史研究所)とともに発表した。そのあらましを今回は紹介したい。

 

日中の光触媒関係の特許登録の動向

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999
日本 272 288 334 434 528 421 421 499 570 602
中国 85 50 81 53 68 48 66 80 93 114

 

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
日本 556 596 786 758 928 978 1564 1930 2470 2540
中国 171 236 290 534 782 843 943 1117 1287 1722

 

日中の光触媒関係の実用新案登録の動向

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999
日本 205 252 321 241 244 240 142 171 145 73
中国 19 24 21 23 33 21 28 21 38 56

 

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
日本 36 13 6 1 0 0 0 0 0 0
中国 56 67 71 119 161 186 231 236 238 270

 

特許登録件数

実用新案登録件数

 

日本特許庁に登録されている光触媒関係の分野別登録件数

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999
防曇 14 15 20 28 37 32 37 43 33 58
防汚 143 149 132 176 209 227 228 303 331 336
分解・脱臭 525 613 626 612 907 923 655 791 877 1036
殺菌・抗菌 227 220 316 308 466 355 334 342 412 548

 

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
防曇 39 49 44 50 47 47 67 68 75 60
防汚 239 272 271 294 239 182 228 312 286 242
分解・脱臭 900 934 1207 1198 1317 1333 1679 1742 1695 1810
殺菌・抗菌 405 387 283 309 393 450 468 475 505 582

 

光触媒に関する特許の登録動向

日本、中国ともに年々特許登録件数が増加していることが分かる。特に2004年ころから両国とも急激に増えている。

上の表で見るように、日本の特許登録件数で最も多いのは、分解・脱臭に関する特許である。次いで多いのは、殺菌・抗菌作用であり、3位は汚染防止で ある。最近は、殺菌・抗菌作用に注目が集まっており、公共施設などで利用することで感染症防止など公衆衛生面で大きな効果があるのではないかと期待されて いる。

一方、中国の技術別登録数は、キーワード抽出法などで日本とは一致しないものが多いため、正確な数字を出すのは非常に難しい。しかし研究者らの話しからも、中国で最も多いのは日本と同じく分解・脱臭と思われる。

 

光触媒に関する実用新案の登録動向

日本の実用新案制度は、1993年に無審査登録制度に改正されたため、その後登録者が激減した。光触媒関係の実用新案登録件数は、2004年以降はゼロとなっている。

中国の実用新案は、特許と併願できるため出願・登録の件数が増えている。技術の内容では、分解・脱臭が最も多いと推測できる。

中国では、実用新案の侵害訴訟で、巨額の賠償金支払い判決が出ている。この影響で実用新案の出願・登録件数は、今後も増えるだろう。中国での実用新案戦略については、別途、詳しく報告したい。

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