コラム

政策提言集団として活動する21世紀構想研究会 創設時から現在までの活動を振り返って

創設に至る日本の国家的な事情

特定非営利活動法人21世紀構想研究会が創設されたのは、1997年9月26日である。当時、筆者は読売新聞論説委員であり、科学技術、知的財産、研究開発分野などの社説を書いていた。政府機関の各種委員も委嘱されて、多くの最新の情報に接する機会があった。

日本はその当時、バブル経済が崩壊して産業競争力は落ち込み、金融システムも国際的に大きな遅れがあると指摘されていた。その年、大手都市銀行と4 大証券企業の総会屋対策などで社会正義に反する対応していたことが発覚し、社長など企業のトップが逮捕される金融不祥事が発生した。

高度経済成長期を体験し大きな峠を越えた日本のあらゆる体制が、旧態依然の姿から抜けきらずにいる弊害が一挙に露呈したような状況となっていた。産 業界は、インターネットの実用化を迎えて時間差と距離感がなくなり、モノ作りの現場がIT化されていく最初の試練を迎えていた。

具体的には、企画・設計・金型・大量生産というモノ作りの流れのうち、設計と金型の部分がIT化によって熟練職人のワザがいらなくなり、いつでもだれでもほぼ機能の似た製品を製造するワザを持つことが可能になってきた。

その一方で知的財産権の重要性がにわかに高まり、それまでの特許の大量出願、自社主義による技術囲い込みなど日本の大企業の伝統的手法がもはや通用しない時代を迎えていた。

こうした時代を迎え、日本はどのように対応していくべきか。各界の知恵を動員して政策提言する集団をつくるため、21世紀構想研究会を組織した。会 員には、中央行政官庁、大学研究者、ベンチャー創業者、マスコミ人の4極から参加してもらい、あえて大企業は外すことにした。理由は、大企業は本音を言わ ず、ベンチャー企業との確執にも配慮したからだある。

ベンチャー企業の参加に期待する

その第1回研究会から今年の4月をもって100回の研究会を持ったことになる。当初のスタート時に大企業を入れず、特許を多数出願・登録しているベンチャー企業を入れたことは、産業界の構造改革が進み、有力なベンチャー企業が日本でも育っていくと願っていたからであった。

それから16年目を迎えて、筆者の期待はものの見事に裏切られた。創設当時、政府機関から秘かに推薦してもらった知的財産権で勝負している日本の有 力ベンチャー企業は、次々と姿を消していった。株式上場まで果たしながら、リーマンショックや牛の口蹄疫の流行、円高進行などで姿を消したベンチャー企業 もあった。

上場まで果たしながら、なぜ産業界で生き残ることができなかったのか。原因はいろいろあげられる。経営の失敗というものもあるが、浮き沈みの激しい世界経済の大きなうねりに飲みこまれたという事例もある。

筆者は立場上、21世紀構想研究会の会員になっていた企業の株式を投資する立場になることが多かった。むろん、将来に夢を託した面も大きい。これまでのその結果をまとめれば次のように4つの形態に分けられる。

上場を果たせずに倒産したベンチャー企業

21世紀構想研究会の会員で、有力なベンチャー企業としてマスコミなどでも話題になった企業のうち、表のように4つの企業が倒産した。

筆者の投資総額は1220万円となった。むろん、この投資額は水泡となって消えたものである。

会社名 投資日時 投資総額 結果
英会話教材開発 1999-2005年 5,000,000 倒産
和牛輸出企業 2001年4月19日 3,000,000 倒産
製造工程システム開発企業 2001年4月27日 3,200,000 倒産
床暖房部材販売企業 2002年9月3日 1,000,000 倒産
合計 12,200,000

この中で、英会話教材開発会社の社長の関口博司氏は、画期的な特許技術をもとにそれまでにない英会話教材装置を開発して市場へ出したものだった。英語の教科書を出版する大手企業とも提携するなど、非常に魅力的であった。

しかし、市場は全くと言っていいほど評価しなかった。倒産に至るまですべて情報を開示しており、最後の最後まで経理状況や営業状態を株主に対して報 告を行った。したがって倒産に至る過程と何が原因で倒産したかすべて明らかにし、今後のベンチャー企業の経営の教訓とするようにした。

そのすべてを総括した内容は「なぜベンチャー企業は倒産したか」とするケースタディとして日本知財学会で筆者と関口氏が共同で発表し、大きな反響があった。

次に筆者が期待したのは、和牛輸出企業である。この企業は、もともとは流通機構にIT技術を持ち込んだ革新的な特許技術をもとにベンチャー企業を立 ち上げたもので、20歳代の若者たちであった。このIT技術はシステム開発で大きな利益を上げたあと、和牛の輸出という別の分野に進展し、そこでも大きな ビジネスとなって順調に伸びていた。

ところが、2010年の春から秋にかけて宮崎県に端を発した家畜動物の口蹄疫の流行で、日本からの和牛輸出が禁止され、この企業はあっという間に倒産した。まだ経営規模が小さく、財務内容も脆弱だったこともあって、倒産したものだろうと推測するしかない。

この企業の若者たちは、300万円という大金を初期に投資した筆者に対し、一言の説明もなく連絡もなく倒産した。いまだもって真相は不明のままになっている。こうした状況について筆者としては、いささかの感慨はあるが、ここでは触れない。

製造工程システム開発企業というのは株式会社インクスである。インクス創業者の山田真次郎氏からは、モノ作りの現場の状況を手に取るように教えてもらい、IT化によって激変するモノ作りの状況もまたご教示を受けた。

東京駅前の第2丸ビルに陣取った金型企業としてマスコミにももてはやされていたが、経営内容は決して安泰ではなかった。しかし山田氏の強気の経営で 突っ走っていたものだが、2008年9月5日、アメリカの投資銀行のリーマン・ブラザーズが破たんして世界的な金融危機に広がり、世界同時不況へと発展した。

そのあおりをもろに受けて、インクスは2009年3月に事実上倒産した。株式公開を行わず、金融機関との関係も浅い独立志向のベンチャー企業は、逆風には非常にもろかった。

床暖房部材販売企業は、品質の高い床暖房部材を販売する企業として設立し、21世紀構想研究会会員にも投資を呼びかけた。筆者も会員を支援するため に積極的にその呼びかけを行ったが、株主にほとんど直接的な説明はなく破綻手続きを取った。経営者は、21世紀構想研究会を事実上除名処分とされた。

その1終わり

特定非営利活動法人21世紀構想研究会は、1997年9月に創設して以来、100回目の研究会を迎えた。100回目の節目を記念して、「100回記念イベント」を開催している。

その中でも中核になる記念シンポジウムは、6月11日(火)に日本プレスセンタービルの10階で開催されるのでご案内をしたいと思う。

特定非営利活動法人21世紀構想研究会 100回記念シンポジウム

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