政党名の「先取商標出願」はどうなるのか
総選挙が終盤に差し掛かって各党とも、支持者拡大の追い込みに必死で取り組んでいる。
選挙では、政党名でも投票するので政党名は極めて重要である。自由民主党(自民党)、
日本共産党のように歴史的に固定し、国民の多くが認識している政党名はそれなりの存在感があるが、
新しく立ち上げた政党は、その名前を有権者に浸透させることに全力をあげている。
今回の選挙では新しい政党名の立候補者が多数でているが、その政党名が全く関係のない第三者により
商標登録出願されており、今後の政治活動でどうなるのか知財関係者の間でも話題になっている。
小池百合子都知事の率いる「希望の党」は、2017年2月20日に「都民ファーストの会」、「希望の塾」と
ともに小池氏が出願人になって商標登録出願をした。区分は、いずれも第16類(指定商品:雑誌・新聞など
の印刷物等)、第41類(指定役務:教育、訓練、娯楽、スポーツ、文化活動等)、第42類(指定役務:
科学技術にかんする調査研究、電子計算機またはソフトウエア開発等)になっている。
ところが、2017年6月21日に「都民ファーストの会」を商標出願した企業がある。大阪府茨木市の
ベストライセンス社である。当該出願は、第9類(電子応用機械器具及びその部品、電子応用機械器具、
ソフトウエア、電気通信機械器具等)、第16類(文房具類、雑誌・新聞などの印刷物等)の商品の他、
第35類の広告や各種商品の小売又は卸売等)等以外に、第36類の金融サービス、第37類の建設工事、
及び第39類の輸送サービス等まで幅広く指定している。
小池氏が出願した3つの商標出願は、審査を経て9月1日に登録された。後で出願したベストライセンス社の
出願は、2017年10月18日の時点では「手続補正指令書」が出されている状況となっている。
政党にかかわる商標登録出願はこれにとどまらない。「立憲民主党」の商標出願は、2016年2月25日に
同じ企業から最初に出願され、その後3月10日に別途出願されている。区分は第9類、第16類、第35類、
第41類、第42類及び第45類である。これらの出願は、その後、分割され、2017年10月18日の時点では、
計4つの出願が係属している。
大量出願する戦略は何か
小池氏の出願後に同じ商標で出願したベストライセンス社には、どんな意図があるのか。これに対応
するように、特許庁ではホームページで、「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」と
して次のように告知している。
「最近、一部の出願人の方から他人の商標の先取りとなるような出願などの商標登録出願が大量に
行われています。しかも、これらのほとんどが出願手数料の支払いのない手続上の瑕疵のある出願と
なっています。特許庁では、このような出願については、出願の日から一定の期間は要するものの、出願の
却下処分を行っています。
また、仮に出願手数料の支払いがあった場合でも、出願された商標が、出願人の業務に係る商品・役務に
ついて使用するものでない場合(商標法第3条第1項柱書)や、他人の著名な商標の先取りとなるような出願や
第三者の公益的なマークの出願である等の場合(同法第4条第1項各号)には、商標登録されることはありません」
続けてさらに「出願が他人からなされていたとしても、ご自身の商標登録を断念する等の対応をされることの
ないようご注意ください」と特許庁は呼びかけている。
これは商標制度の早い者勝ちのルールを逆手にとって、ビジネスに結びつけようとする手口と見られても
仕方ない。これは商標法の究極の目的である産業の発達の寄与に反するものではないか。
自身で使用しない商標を先取りし、出願料を支払わないで分割出願し続ける。しかも他人の使用を
妨害するかのような警告を行う。このような出願は真の権利者の利益を害するだけではなく、わが国の
行政資源を浪費することになり極めて悪質なものと言える。
このテーマについては、この欄で「度肝を抜かれた新手のビジネス?」(2016年11月14日)として
取り上げたが、この手法は依然として続いていることになる。
このような状況をいつまでも許していいものかどうか。
政府は善良な国民の立場にたった対応策を考える時期ではないか。