コラム

技術開発と経済安保のバランスに立つ時代

特定重要技術分野をリストアップ
さる5月に成立した経済安全保障推進法に関する基本指針案として、政府は、国家や国民の安全に関わる「特定重要技術」の候補として20分野をリストアップし、優先的に育成すべき分野を絞り込むと発表した。基本指針は9月に閣議決定する予定になっている。

今後、政府が有識者らの意見を聞いて特定重要技術を選定することになっており、研究基金を拠出して研究開発を推進するという。

特定重要技術とは次のようなものになる。

いずれも、現在、もっとも注目を集めている分野であり、総花的にも見える。これらを特定重要技術としているのは、経済安全保障(経済安保)の観点から、外国にこうした技術を窃取されたり、不当に利用された場合に「国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるもの」などと定義しているものだ。

「ロボット革命・産業IoT国際シンポジウム 2019」でも
ロボット産業について活発に論議された。

外国に不当に窃取されない戦略
21世紀になって世界的に技術力が上昇し、インターネットの発展で新規の技術開発情報が瞬時に世界に共有される時代となった。知的財産権として囲い込む戦略も発展しているが、時間がかかるうえ国によっては未整備の状況になっている。

アメリカなど先進国では、軍事転用ができるような機微に触れる特許は、秘密特許として非公開になっている制度を取り入れている。日本には秘密特許制度がないため、タダ漏れになっているという指摘が以前からあった。こうしたことに歯止めをかけるため、日本でも秘密特許制度を整備することが、ようやく具体的に検討されることになった。

研究者らが開発した技術が、無防備状態で他国に使用されると軍事技術などに応用されるため、経済安保の観点からもきわめて憂慮される。このような事情に対し、先進国はどこも技術の囲い込みを強化する方向に流れている。日本もようやくその流れに沿うことを検討することになったものだ。

特定重要技術を外国などに不当に利用された場合、国家または国民の安全を損なうおそれがあり、重要技術の研究開発には、情報の提供、資金の援助、人材育成などを行うことにしている。

ウクライナ戦争を見ていても、兵器の近代化で戦況の優劣が決まってくることがわか。人工知能・機械学習技術や、半導体技術、データ科学・分析技術など先端技術の粋を集めた兵器の戦いになっていることがわかる。

またいま世界中で開発競争が展開されている量子情報科学、極超音速技術などは、工業化への武器になるだけでなく先端兵器開発として利用される可能性もある。国家として開発を進めることは、安全保障にも結びつくとの考えから、重点分野を指定して、官民一体となって戦略的に研究資金を投下していこうという考えである。

日本学術会議が新しい指針を発表
一方、こうした動きに呼応するように日本学術会議(梶田隆章会長)は、このほど、軍事と民生双方で活用できるデュアルユースの先端科学技術研究については、軍事に無関係な研究とすることは困難であるとし、事実上容認する見解をまとめて発表した。

 日本学術会議は、昭和24(1949)年に設立された。軍国主義国家から敗戦という試練に至ったことを反省し、軍事目的の科学研究は行わないとの声明を1950、1967年に発表し、2017年には、防衛整備庁の研究制度に懸念を示す声明を発表するなど、一貫して反戦姿勢を打ち出してきた。しかしこうした姿勢は、技術革新時代にはもはや当てはめることができないものとして批判を浴びてきた。

これまでの批判に応じた学術会議は、このほど「科学技術を軍事への潜在的な転用可能性をもって峻別し、その扱いを一律に判断することは現実的ではない」との見解を発表し、戦後、続いていた「反戦声明」にピリオドを打つことにしたものだ。

日本学術会議

歴史的に見ると、確かに科学者が戦争に関与した時期もあり、軍事目的に駆り出された時期もあった。こうした反省は十分にしてきたし、今の時代、軍事と民生双方で活用できる技術が広がっており、軍用技術として制限を加えると民間開発に遅滞を起こし、日本の科学技術全体が沈滞化していく可能性から方針を切り替えてきたものである。

今後は、研究成果の公開と安全保障面の配慮のバランスを考え、研究者や大学などの研究機関が、研究成果の管理を適切に行うように求めている。

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